Theater Review: Nice Work If You Can Get It 『ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット』

ガーシュインの名曲満載新作ミュージカルとローレライ伝説

2012年春にオープンしたNice Work If You Can Get Itは、ジョージ&アイラ・ガーシュイン兄弟の名曲がてんこ盛りされた新作ミュージカルだ。ほんの一節を耳にしただけで、誰もがつい口ずさんでしまう彼らの名曲をよりすぐり、それをたんまり散りばめるためにわざわざ「おあつらえ」された作品である。

主演は50代になっても相変わらずのおぼこさを誇る、永遠の坊やことマシュー・ブロデリックと、クラッシックな雰囲気のお顔に天使の歌声を持つケリー・オハラ。どちらもブロードウェイの大スターだ。

あいにく、ここのところ不評作品が続いたブロデリックとは異なり、一度その歌声を聞けば誰もが虜になってしまうオハラは、彼女がガーシュインを歌うと聞いただけでシアターファンは「観に行かねば!」と思ってしまう。

何を隠そうこのわたしもそのクチ。ローレライに誘惑されるライン川の船頭のごとく、ガーシュインファンとおぼしき白髪のノスタル爺様&婆様にまぎれて、ブロードウェイのインペリアル劇場にふらふらと引き寄せられてしまった。そして、ローレライことオハラの歌声に誘惑され、うっとりしてしまった結果は……。

伝説どおり、岩に激突して撃沈してしまったのである。

Kelli O'Hara

Kelli O’Hara

物語は、ガーシュイン兄弟が作詞作曲した1926年のミュージカルOh, Kay!がベースだ。さすが、約90年前にこれまたブロードウェイのインペリアル劇場でオープンしたミュージカルコメディを元にしただけのことはある。Nice Work If You Can Get Itはなんとも古式ゆかしいボーイ・ミーツ・ガールのラブコメディで、すったもんだの挙げ句にハッピーエンドの大団円を迎えるというお約束通りの展開を持つ。

舞台は禁酒法時代のジャズエージ、ニューヨーク。コーラスガールの尻を追いかけては結婚するはめに陥る、マヌケでおばかだが、気のいい大金持ちのジミー(ブロデリック)は、乗り気のしない3度めの結婚を控えている。

NICE WORK IF YOU CAN GET IT Company

Matthew Broderick and company

ところが、バチェラーパーティと称していつものように飲んで浮かれていたもぐり酒場に手入れが入り、それがきっかけで、ジンの密輸入に手を染めるタフな女性、ビリー(オハラ)と出会う。

べろんべろんに酔っぱらってはいるものの、今まで会ったことの無いタイプのビリーにジミーはあっさり惚れてしまう。

一方のビリーはと言えば、突然出くわした違う世界の住人ジミーにこれまたあっさり惹かれつつ、そこは地に足の着いた犯罪者、ジミーがペラペラと話した滅多に使われないロングアイランドの彼の屋敷をジンの隠し場所として利用することにする。

Kelli O'Hara and Matthew Broderick 1

Kelli O’Hara and Matthew Broderick

しかし、大量のジンを仲間と一緒にうまく隠したはいいが、屋敷を留守にしているはずのジミーがフィアンセを伴って突然現れたもんだから、ビリーと2人の密輸仲間たちは慌てふためく。

新しく雇われた屋敷の使用人になりすまし、地下室のジンが見つからないよう見張りつつ、自分たちを追う禁酒法主義者とそのGメン達、地元警官の手から逃れようとドタバタの奮闘を繰り返すのだ。

そこにジミーとビリーの恋やら、屋敷に押し掛けたコーラスガール達の騒動やら、ジミーの3度目の結婚問題やら、ビリーの仲間達の恋やら、ガチガチの禁酒法主義者との追いかけごっこやらがからみあい、しっちゃかめっちゃかになって結局はお約束のハッピーエンドを迎える、というもの。

Matthew Broderick with Robyn Hurder and Company

Matthew Broderick with Robyn Hurder and Company

演出、振り付けは、こういった古めかしい作品がお好きなキャスリーン・マーシャル。彼女の演出が光るのは、惜しげも無く序盤でオハラが歌ってしまうOh, Kay!の名曲「Someone To Watch Over Me」だろう。

しょっぱなから劇場中の観客を「ああ、観に来て良かった!」ととろけさせるこのロマンチックな歌に、マーシャルが用意した小道具はライフル銃だ。

“There’s a somebody I’m longin’ to see”(出逢いを待ちわびている人がいる)

とうっとり歌うビリーの手にライフルが持たされる。すると、その待ちわびている男が登場するやライフルをぶっ放すつもりだと言わんばかりに、ビリーは慣れた手つきで弾丸を弾倉に送り込むのだ。

ガシャン!

歌と仕草のギャップと、「その男のハートは絶対射止めてやる」という無意識の意思表示に思わず笑いが漏れる。

Jennifer Laura Thompson and Company

Jennifer Laura Thompson and Company

また、ジェニファー・ローラ・トンプソン演じるジミーの3番目の妻、アイリーンの入浴シーンもバブリーで楽しい。

ほんのちょっぴりマデリン・カーンを思い出させるトンプソンが、真ピンクの風呂場で「Delishious」を歌い出すと、あーら不思議、バスタブから泡男と泡女が文字通り続々と生まれ出て、アイリーンと一緒に踊り出すのだ。

脇を固めるブロードウェイのベテラン俳優達も、由緒正しく古式にのっとり、それぞれ見せ場をしっかりともらっている。

禁酒法主義者の公爵夫人を演じ、本作で2度めのトニー賞を受賞したジュディ・ケイは、ワイヤーワークが売りの「メアリー・ポピンズ」や「スパイダーマン」など蹴散らす勢いで、シャンデリアを使った空中技を披露し、観客の笑いをかっさらう。

2005年のミュージカル『Spamalot』のパッツィー役でトニー賞にノミネートされたマイケル・マクグラーは、ここではビリーの密輸仲間クッキーを演じ、その絶妙なタイミングの台詞まわしで舞台に登場するや観客の注意を一身に引きつける。

彼もジュディ・ケイと揃って本作で2012年トニー賞のミュージカル部門助演賞を受賞した。

Judy Kaye and Michael McGrath

Judy Kaye and Michael McGrath

ほんのワンシーンにしか登場しないエステル・パーソンズ(そう、1967年の映画「俺たちに明日はない」のブランチ役でアカデミー賞助演女優賞を受賞した女優だ)も、登場するや、さすがの貫禄を四方八方に放射する。(注1)

また、マーティン・パクレディーナスによる衣装も良い。特にアイリーンの着る長いトレーンを引くウエディングドレスとベールは、笑いをとるための仕掛けになっているのが見え見えなのにも関わらず、思わず笑ってしまう。

しかし、数々の魅力を持ってしても、ライン川にそびえる岩山のようにどうしても突破できない難関がこのミュージカルにはあった。その難関は開幕してすぐ目の前に現れる。

ジミー役のブロデリックだ。

Matthew Broderick

Matthew Broderick

大金持ちのプレイボーイを演じるブロデリックは、「プレイボーイ」と言う単語を使うのがはばかられるほどに冴えない。ジミーは何不自由無く育った道楽息子のプレイボーイのはずなのに、ブロデリックが演じているのを見ると、いつまでたってもお気に入りの毛布が手放せない、甘えん坊の五歳児に見えてしまうのだ。

あるいは、メル・ブルックスのミュージカルThe Producersでブロデリックが演じた、お気に入りの毛布の切れっぱなしを常に持ち歩いているレオ・ブルームの金持ち版、とでも言おうか。

そのせいで、たとえ燕尾服にシルクハットを被ってめかしこんでいても、七五三に見えて仕方がない。

なるほど、「S Wonderful」の曲に乗せて、オハラと踊ってみせるダンスはなかなかなもんで、こりゃ五歳児には無理だろうと思う。しかし、ジンの密輸に手を染めるビリーが、七五三の衣装やなかなかなダンスにコロッとまいってしまうとも思えず、つい「なんでよりによって、この男に惚れるのだ?」と疑問に思ってしまうのだ。

Kelli O'Hara and Matthew Broderick

Kelli O’Hara and Matthew Broderick

ミュージカルのタイトルのNice Work If You Can Get Itは、劇中でブロデリックが歌う歌の曲名でもある。皮肉なもんだ。タイトルは「恋こそ、もし手に入ったら最高のもの」を意味するというのに、わたしには「(主役の二人がいったいどこで恋に落ちたのか)もしそこんところがわかったならば、Nice Workなんだがなー」を意味しているような気がしてならない。

ブロデリックはライン川の岩山。ミスキャストだ。この役に元々予定されていながらも、降板してしまったハリー・コニックJr.(注2)にこう言いたい。

「Nice Work If You Can Get It!」(あんたがこの役やれたら良かったのにね!)

ALL Photos by Joan Marcus

注1:エステル・パーソンズは既に降板し、2012年12月からブライス・ダナーが出演中。
注2:元々ハリー・コニックJr.の主演を中心に進んでいたミュージカルだったが、内部のすったもんだのせいで演出&振り付けのキャスリーン・マーシャルが2008年にスタッフを引き連れて降板してしまう。そのすったもんだは、NY PostによるとコニックJr.の長年のマネージャーと彼のエージェントでこのミュージカルのプロデューサー、そしてマーシャルの当時のボーイフレンド(現夫)でもあるスコット・ランディスとの権力争いが原因らしい。
結局、マーシャルは復帰、コニックJr.は降板、ブロデリックがキャスティングされて今に至る。

Nice Work If You Can Get It
Imperial Theatre

249 West 45th Street (Bet. Broadway & 8th St.)
オフィシャルサイト

プレビュー開始:2012年3月12日
オープン:2012年4月24日
クローズ:2013年6月15日(2016年6月24日情報更新)

Credits: Music and Lyrics by George and Ira Gershwin, Book by Joe DiPietro, Inspired by Material by Guy Bolton and P.G. Wodehouse, Directed and Choreographed by Kathleen Marshall, Set Design by Derek McLane, Costume Design by Martin Pakledinaz, Lighting Design by Peter Kaczorowski, Sound Design by Brian Ronan
Cast: Matthew Broderick as Jimmy Winter, Kelli O’Hara as Billie Bendix, Judy Kaye as Estonia Dulworth, Estelle Parsons as Millicent Winter, Michael McGrath as Cookie McGee, Jennifer Laura Thompson as Eileen Evergreen

*NY Niche 2013年3月号掲載記事を改訂の上転載

Advertisements

About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s