Theater Review: Spring Awakening 『春のめざめ』

ロック魂轟く新作ミュージカル!

子どもの頃、親に「赤ちゃんってどこから来るの?」と聞いてみたことはあるだろうか?

もしその質問に自分の親が「コウノトリが運んで来る」なんてスットコドッコイな応えを返してきたら、どうしただろう?

わたしならおそらくグレていただろう。

だが、2007年のトニー賞で8部門を受賞したミュージカルSpring Awakening『スプリング・アウェイクニング(春のめざめ)』に登場する少年少女達が、大人どもからそんな嘘っぱちを聞かされ、「ちっ!」と思った時にはどうするか?

おもむろに胸のポッケからマイクを取り出し、椅子の上に乗ってロックンロールし出すのだ。

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Jonathan Groff (center) and the cast of Spring Awakening, Photo by Joan Marcus

この少年少女の皆さん、大人に対する不信や不満や疑問といった胸の内は、ポップでロックな音楽に乗せて観客に全部吐き出してくれるのである。

2006年5月にオフブロードウェイのアトランティック・シアター・カンパニーで上演され、12月にブロードウェイにトランスファーされたSpring Awakeningは、1891年にドイツで出版されたフランク・ヴェデキントの同名の戯曲を原作にしている。

ミュージカルの舞台も原作と同じく1891年のドイツ。厳格なキリスト教的宗教観が支配し、性教育なんて存在しない時代の話だ。

つまり、パリス・ヒルトンのセックスビデオも無ければ、ノーパン&ミニスカート姿でパパラッチに大事なところを御開帳するイカれたセレブもおらず、男子は女子の生足首をチラ見しただけで鼻血ブーする時代ということ。

その時代に、「男女七歳にして席を同じうせず」で育てられた少年少女諸君は、身体の変化や異性(時には同性)に対する興味がなぜフツフツと沸き起こるのか理解できずにいる。

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Phoebe Strole, Lilli Cooper, Jonathan B Wright, Lea Michele, and Remy Zaken, Photo by Monique Carboni

しかし、「日本野鳥の会」メンバー並みの自然観察眼を持ち、頭脳明晰で男前の少年メルキオ君(ジョナサン・グロフ)はちょいと違う。

大人が決して教えてくれない生命誕生の秘密と、女性がセックスによって得る肉体的な喜びの存在を自ら導き出し、毎夜の性夢に悩んで落ちこぼれていく親友モーリッツ君(ジョン・ギャラガーJr.)に、「スケベな夢を見るのは普通のことだから悩むことはない」と教えてやるのだ。

一方で「赤ん坊を運ぶ謎のコウノトリ」の話をどうも信じられなくなってきた美少女ヴェンドラちゃん(リア・ミッシェル)は、本当のところ赤ん坊がどこから来るのかさっぱりわからないまま。ある日、お友達が父親から虐待を受けていると聞いてかなりおののき、子供の頃以来久し振りに会話を交わしたメルキオ君に悩みを打ち明けて、二人はどんどん親密になって行く。

そして、この3人の少年少女の運命はその夏を境に大きく変わってしまうのである。

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John Gallagher Jr. and Jonathan Groff, photo by Joan Marcus

という具合に、この作品は14~15歳の思春期の少年少女の性の目覚めと知識への渇望とそれをシカトして芽を摘み取ろうとする大人社会への反抗といったおなじみのテーマを、同性愛、虐待、マスターベーション、セックス、妊娠、堕胎、自殺と盛りだくさんに詰め込んで描いた、原作の意図をかなり忠実に表現したミュージカルだ。

原作の戯曲のほうは、あまりにもセンセーショナルな内容だというので長い間検閲無しに上演することができなかった問題作。

だが、現代ではこの手の青春白書モノは映画やテレビで既に語り尽くされているため、センセーショナルでもなければ目新しくもない。

ところがどっこい、よくある青春白書モノも、効果的な演出に耳からなかなか離れない曲、美しい歌詞に衣装、イカした照明とモダンな振付けが渾然一体となったミュージカルに仕上げられると、今までに見たこともないほどフレッシュでモダンな舞台作品に仕上がるのだ。

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Remy Zaken, Phoebe Strole, Lea Michele, and Lilli Cooper, Photo by Joan Marcus

秀逸なのは大人の描き方だ。

ミュージカルに登場する教師や親といった大人の役は全て、男と女各一名の俳優が演じている。

そのため、大人はなんだか顔の見えない存在に見え、自我が目覚め始めた悩める少年少女が、適切な助言や指導を与えられずに悲劇の道を進んで行く姿がよりドラマチックに浮き彫りになるのだ。

おまけに、劇中で歌われる曲は全て少年少女の胸の内という設定で、レトロな衣装を着たピッチピチに若い彼らが、文字どおり「胸の内」から取り出したハンドマイクで、ザ・スミス風あり、エルビス・コステロ風あり、キャロ ル・キング風ありのロックでフォークで今風な曲を観客にダイレクトに歌いかけてくるので、観客の心はあっと言う間に少年少女の心と同調して一体感はひとしお!

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Jonathan Groff, John Gallagher Jr., Jonathan B. Wright, Skylar Astin, Gideon Glick, Photo by Joan Marcus

この曲と胸のポッケマイクを組み合わせたマイケル・メイヤーの演出が素晴らしい。

ミュージカルナンバーはまさしく少年少女の心そのもので、ナンバーのバックグラウンドで進行する芝居と少年少女の心である歌がシンクロする様や、放送禁止用語満載ながら詩的な表現にあふれる歌詞が、聴くにつれ胸にじんわり染み込んで来る。

ポエティックな歌詞を書いたのは、歌詞を書くのはこれが初めてという台本作家のスティーブ ン・セイター。それがシンガーソングライターのダンカン・シーク(注)の現代的なメロディに乗っかって、頭の中をぐるぐるーっと回っては耳あかのように耳にこびりついて離れない。

アコースティックなギターの弦に乗って始まるTouch Meというバラードは性の喜びを切なく静かに歌うし、にっちもさっちもいかなくなった状況を歌うTotally Fuckedは大人の説教がどんな風に聞こえるかがわかって笑いを誘う。

どいつもこいつもミュージカルの曲というより、ラジオから流れて来ても違和感の無い曲だらけで、オリジナルキャストCDは1枚のコンセプトポップロックアルバムと言っても良い。

その耳あかソング達がメッセージ性の強い芝居の内容とぴったり呼応し、さらにロックコンサート風の照明とコンテンポラリーダンスの巨匠、ビル・T.・ジョーンズによる身体をまさぐる独特のマドンナ風振り付けとが全てにアクセントをつけて、 ミュージカルをより一層完成度の高いものにしている。

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Jonathan Groff (center) and the cast of Spring Awakening, photo by Joan Marcus

少年少女を演じているのは実際に十代後半から二十代前半の若い俳優達。

2000年のワークショップから参加しているというヴェンドラ役のリア・ミッシェルは、当時は役と同じ14歳で、現在もまだ21歳。好奇心に溢れるヴェンドラを澄んだ美しい歌声でフレッシュに演じる。

また、ミシェルより1歳年上のジョナサン・グロフも、お利口さんだが大胆なメルキオを思慮深く演じ、ミッシェルとのデュエットのハーモニーも美しい。

だが、中でもパワフルなのは、モーリッツ役のジョン・ギャラガーJrだ。

2006年2月にブロードウェイでオープンしたデイヴィッド・リンジー=アベアの新作芝居Rabbit Holeでの高校生ジェイソン役が記憶に新しいギャラガーJrは、性への無知からくるモーリッツの苦悩と混乱と欲求不満をロックで表現する。彼が歌うDon’t Do Sadnessには特に胸を締め付けられる。

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Lea Michele and Jonathan Groff in Spring Awakening, Photo by Monique Carboni

Spring Awakeningは2007年の第61回トニー賞で、ミュージカル部門作品、演出、台本、オリジナルスコア、オーケストレイション、照明デザイン、振付、助演男優(ジョン・ギャラガーJr.)の各賞を受賞した。

ロック魂轟くこのミュージカル、現役少年少女から、元少年少女まで、全ての人にオススメする。

 

Top Photo: Jonathan Groff and Lea Michele, Photo by Monique Carboni

 

注:日本ではあまり有名ではないが、ダンカン・シークは1996年のデビューシングル、Barely Breathingでグラミー賞にノミネートされた(しかし、エルトン・ジョン卿のCandle in the wind 1997に賞は取られた)シンガーソングライター。

Spring Awakening
Eugene O’Neill Theater
230 West 49th Street(Broadway & 8th Avenue)
オフィシャルサイト
プレビュー:2006年11月16日
オープン:2006年12月10日
終演:2009年1月18日
上演時間:2時間15分(インターミッション含む)

Production Credit: An Atlantic Theater Company presentation, in association with Tom Hulce and Ira Pittelman of a musical in two acts, with Book and lyrics by Steven Sater; music by Duncan Sheik; based on the play by Frank Wedekind; directed by Michael Mayer; choreography by Bill T. Jones; music director, Kimberly Grigsby; sets by Christine Jones; costumes by Susan Hilferty; lighting by Kevin Adams; sound by Brian Ronan; orchestrations by Mr. Sheik
Cast: Lea Michele (Wendla), Jonathan Groff (Melchior), John Gallagher Jr. (Moritz), Skylar Astin (Georg), Lilli Cooper (Martha), Christine Estabrook (the Adult Women),  Gideon Glick (Ernst),  Brian Charles Johnson (Otto), Lauren Pritchard (Ilse), Stephen Spinella (the Adult Men), Phoebe Strole (Anna), Jonathan B. Wright (Hanschen) and Remy Zaken (Thea)

* NY Niche 2007年9月3日号掲載記事を改訂

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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