Theater Review: The New Mel Brooks Musical: YOUNG FRANKENSTEIN『メル・ブルックスの新作ミュージカル:ヤング・フランケンシュタイン』

柳の下の二匹目のドジョウ? 『プロデューサーズ』で大成功したメル・ブルックスが 『ヤング・フランケンシュタイン』もミュージカル化!

ブロードウェイじゃ二匹目のドジョウは釣りにくい。

この金科玉条を教えてくれるのが、11月に鳴り物入りでオープンしたThe New Mel Brooks Musical: YOUNG FRANKENSTEIN(『メル・ブルックスの新作ミュージカル:ヤング・フランケンシュタイン』)。

御丁寧且つお下品にも自分の名前をしっかりタイトルに入れていることからもおわかりだろうが、このミュージカルで二匹目のドジョウを狙うのは、前作『プロデューサーズ』(The Producers)でブロードウェイの記録を塗り替える空前の大ヒットを飛ばしたコメディ映画の巨匠メル・ブルックスである。

その巨匠が、自らの最高傑作である1974年のコメディ映画、『ヤング・フランケンシュタイン』(Young Frankenstein)をミュージカルにして、ブロードウェイに戻ってきた。

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Shuler Hensley, Sutton Foster, Roger Bart, Christopher Fitzgerald and Andrea Martin

映画『ヤング・フランケンシュタイン』と言えば、1930年代の白黒ホラー映画を徹底的にパロディにしつつオマージュを捧げたゴシックホラーコメディ。

コメディ俳優のジーン・ワイルダーのアイデアを元に、ワイルダーとブルックスが脚本を書き、ワイルダー主演、ブルックス監督で作り上げた、おバカギャグ満載の泣く子も笑うコメディ映画の名作だ。

それが舞台ミュージカルになった。

1600万ドルもの予算を使い、豪華なセットと衣装、派手な照明、スターキャストを投入して出来上がったこの新作、世界中の『ヤング・フランケンシュタイン』ファンの大きな期待を一身に背負ってブロードウェイに登場した。

だが、この作品を見たファンはおそらく「なぜこれをわざわざミュージカルにしたのだ?」と考え込むことになるだろう。

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Roger Bart and Christopher Fitzgerald

誤解がないように書いておくが、このミュージカルは一応そこそこには面白く、そこそこには楽しめる。

元映画でおなじみのギャグもずらりと登場するし、この手の人気コメディ映画の舞台化で観られる特殊現象、つまり、お約束ギャグの発射1秒前に観客が笑い始めるという現象も健在だ。

しかし、映画を観ている時には同じギャグで何度も爆笑できたというのに、そのお気に入りのギャグが舞台に登場してもなぜか同じように笑えない。

それどころか「なんで今までこんなギャグに腹をかかえて笑ってたんだ?」と自分のユーモアセンスを疑ってしまうのだ。

なんでだ?

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Christopher Fitzgerald

そこでふと思い至ったのは、映画『ヤング・フランケンシュタイン』の面白さの秘密。

この映画は、1930年代のホラー映画、特に1931年の『フランケンシュタイン』1935年の『フランケンシュタインの花嫁』をパロディにする為、メル・ブルックスと睫毛ぱっちりのジーン・ワイルダーが、奇跡的に残っていた『フランケンシュタイン』映画のセットをそのまま使って作った映画である。

パロディは元ネタの形式を借りて表現するところが醍醐味。

映画『ヤング・フランケンシュタイン』は、30年代当時の映画表現方法とフランケンシュタイン映画を徹底的にパロって、ゴスなホラー映画の体裁をとりつつおバカギャグを連発しているからこそ抜群に面白い。

だが、映画のパロディ映画を舞台ミュージカルにしてしまうとどうなるか?

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Roger Bart, Sutton Foster and Christopher Fitzgerald

もはやそれはパロディではなくなってしまうのだ。

そして後に残るのは、「モンスターを創りだしてしまった有名な爺ちゃんを嫌う孫が、遺産相続のために赴いた先祖のお城で結局自分も爺ちゃんのようにモンスターを創っちゃいました」というどうでもいいストーリーと、古くさくなったギャグ。

それを観ているこちらは、まるで、派手な衣装を身につけて、誰もがオチを知ってるギャグで皆を笑わせようとする間抜けな友達を見ている気分を味わい、うまくいけばかなり笑えるはずのおなじみギャグにも腹の底から笑えなくなってしまうのだ。

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Megan Mullally and Christopher Fitzgerald

もっとも、このミュージカルは、『プロデューサーズ』ですっかり定着してしまった「プレミアムシート」という最上席を高額で販売する新システムの価格帯をさらに上げ、450ドルの「プレミアシート」を販売しているので、もしも450ドルも支払って観劇していたとしたら話は別だ。

そんな大金を支払っていたのなら、何が何でも笑ってやるぞと腹をくくり、それこそ後ろの席で携帯電話が鳴っても大爆笑したはずである。

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Andrea Martin

また、帰る道すがらに口ずさんでほくそ笑む曲が無いというのもミュージカルとしては致命的だ。

もちろん、耳に残って頭から離れない曲があるにはある。

だがそれは、1930年のミュージカル映画『プッティン・オン・ザ・リッツ』(Puttin’ on the Ritz)のタイトルソング。もちろん元映画でも使われていた名曲で、ありとあらゆるスターがカバーしているスタンダードナンバーなのだから頭に残るのも当然の話。

フレッド・アステアとビング・クロスビー主演の1941年の映画『ブルー・スカイ』Blue Skies)にも使われており、燕尾服を着たアステアがトップハットを被ってステッキを持ち、9人のバックダンサーを従えて素晴らしいタップダンスを踊るのがこの曲だ。

『ブルー・スカイ』のこのダンスシーンは映画史に残る名シーン。

アステア自身が自分のバックダンサーとして踊っているのだが、ご丁寧にそれぞれ別々に踊って撮影した映像を一つに合成し、中央で踊るアステアの後ろで9人の異なるアステアが踊るようになっている。

だがその踊りに寸分の狂いも無いので、まるで一つの映像をコピーして合成したようにしか見えないというなんとも贅沢なシーンで、ミュージカルファンは必見だ。

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Shuler Hensley and Fred Applegate

その名場面を彷彿させるがごとく、ミュージカル版『ヤング・フランケンシュタイン』では、トップハットに燕尾服とステッキ、原宿ガールズなみの厚底ブーツという姿の怪物が、怪物の扮装をしたバックダンサー達と一緒にタップを踏む。

元映画では非常に短かったこのシーンをグンと膨らませ、『ブルー・スカイ』のワンシーンのパロディに仕立て上げ、さらにフレッド・アステアへのオマージュにもしたスーザン・ストローマンのこのシーンでの演出・振付けは実に素晴らしい。

ゴシックホラー映画にオマージュを捧げて作られたパロディ映画『ヤング・フランケンシュタイン』を元に作られたこのミュージカルで、唯一元映画の精神の片鱗を見せてくれるのがこのシーン。

ミュージカル版『ヤング・フランケンシュタイン』の存在理由、ここにあり!

でも、悲しいかな、これだけなのである。

Photos by Paul Kolnik

The New Mel Brooks Musical: YOUNG FRANKENSTEIN
Hilton Theater
213 West 42nd Street(7th & 8th Avenue)
オフィシャルサイト
プレビュー:2007年10月11日
オープン:2007年11月8日
クローズ:2009年1月4日終演
上演時間:2時間40分
Credits: Book by Mel Brooks and Thomas Meehan; music and lyrics by Mr. Brooks; based on the story and screenplay by Gene Wilder and Mr. Brooks and on the original motion picture by special arrangement with 20th Century Fox; directed by Susan Stroman; music arrangements and supervision by Glen Kelly; sets by Robin Wagner; costumes by William Ivey Long; lighting by Peter Kaczorowski; sound by Jonathan Deans; special effects by Marc Brickman; wig and hair design by Paul Huntley; makeup by Angelina Avallone
Cast: Roger Bart (Frederick Frankenstein), Megan Mullally (Elizabeth), Sutton Foster (Inga), Shuler Hensley (the Monster), Andrea Martin (Frau Blucher), Fred Applegate (Inspector Kemp/Hermit), Christopher Fitzgerald (Igor), Heather Ayers (Masha), Jim Borstelmann (Shoeshine Man/Lawrence/Ziggy), Paul Castree (Herald/Bob), Jack Doyle (Mr. Hilltop), Kevin Ligon (Victor) and Linda Mugleston (Tasha)

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