Theater Review: The Pirate Queen 『ザ・パイレート・クィーン』

さあ、お立ち会い。

時は16世紀。ヨーロッパの西は北海に位置する緑の国アイルランド。民を守るため、荒くれ男どもを率いて迫り来るイングランド軍に立ち向かうは我らが女海賊グレイス・オマリー。

手に汗握る剣戟に愛とロマン。裏切りと密約と世紀の駆け引き。
伝説のアイルランドの女海賊グレイスと歴史に名だたるイングランドの女王エリザベス一世との対決を描いた激動の物語だ!

アイルランド伝統の歌と踊りもたっぷりの新作ミュージカル、観なきゃ損だよ! さあ、寄ってらっしゃい、観てらっしゃい!

と、こんな具合に口上をまくし立てられると、劇場の中でどんなドラマとスペクタクルが待ち受けているのかワクワクして、つい木戸銭を払って観てしまうのが人情。

帆船ものとチャンバラとアイルランド弁とダンスには滅法弱いわたしも、それが全部詰まった新作ミュージカルPirate Queen『パイレート・クイーン』がこの春ブロードウェイでオープンすると聞いた途端、期待で胸を膨らませた。

チケットを握りしめて劇場に向う足は知らず知らずのうちにアイリッシュダンスのリズムを刻み、前を歩く人のお尻を蹴飛ばしそうになったくらいだ。

だが、個人的なお楽しみ要素がたっぷりそろった演し物は、わたしの期待を見事に裏切ったのだ。

Pirate Queen
Boublil and Schönberg’s The Pirate Queen, Pictured (l-r): Stephanie J. Block, Jeff McCarthy, Marcus Chait 

女は何の権力も持てなかった社会。

優秀な船乗り且つ勇敢な戦士として実力を認められた族長の娘グレイスは、アイルランド内での小競り合いを防いで平和をもたらすため、愛する男をあきらめ、政略結婚する。

指導力のあるグレイスは民の信頼を得て族長となり、一族を束ね、アイルランド征服を狙うイングランド女王エリザベス一世の軍隊に抵抗する。

そしてとうとう自分よりもはるかに大きな権力を持つ女性、エリザベス一世と同じテーブルに付き、アイルランドの領土と人質解放の約束を勝ち得るのだ。

まさに 波瀾万丈山あり谷ありの物語。

『レ・ミゼラブル』Les Misérables や『ミス・サイゴン』Miss Saigonのクリエイター、アラン・ブーブリルとクロード=ミシェル・シェーンベルクにとって、ミュージカルにするのはお手の物に思える物語だ。

だが残念なことに、出来上がったミュージカルはロマンもへったくれもないチマチマした物語になっていた。

物語の運びが悪く、シーンとシーンがブツ切れになる。

セリーヌ・ディオンが歌ったらさぞかし聞かせるだろうという歌も、右の耳から左の耳にさらりと抜けて行って残らない。

期待していたチャンバラも、チャンバラトリオを日本から呼び寄せたくなるような出来。

なんでも、伝説の女海賊グレイス・オマリーは剣の名手で、とてつもなく勇敢で強い女だったらしい。船の上での出産直後に攻めて来た敵と戦い、やっつけたという武勇伝があるくらいだ。

しかし、舞台で観るグレイス(ステファニー・J・ブロック)は、出産後の寝間着姿のまま、ヨロヨロと匍匐前進で敵の一人に近寄り、敵の背中をおもむろにポチリと剣で刺すだけ。しかも、ヨロヨロポチリの一撃を受けてなぜか敵軍が退散してしまう。

まるであの敵軍はグレイスが武勇伝を作るために雇った仕込みで、ヨロヨロポチりが撤退の合図であるかのように。

屁っぴり腰の見本として百科事典に載せたくはなっても、とても勇敢な戦士として後世には伝えたくないという戦いっぷりだ。

だが、さすが一世を風靡した「リバーダンス」のプロデューサーが作ったミュージカルだけのことはあり、アイリッシュダンスだけはふんだんに登場して舞台を盛り上げる。

達者なアイリッシュダンサーとバレエダンサーを組み合わせたダンスシーンはなかなかの見物で、うまいギネスを飲み干したかのような満足感を得る。

だが、観客に何よりも満足感を与えるのはエリザベス女王様の豪華絢爛な衣装。

Pirate Queen Chicago
Boublil and Schönberg’s The Pirate Queen,  Pictured: Linda Balgord

エリザベス女王さま(リンダ・バルゴード)のお衣装はまるで製作費のほとんどをそこに費やしたかのようなキラビヤかさ。

舞台に御成りあそばすたびにドレスからヘアスタイルからパラボラアンテナ状エリ巻きまで全てマッチしたものにお召しかえなさり、アカデミー賞のレッドカーペットも真っ青。

その存在感たるや、女王様が舞台から退場なさるやいなや次のおでましを今か今かと待ち望んでしまうほどだ。

伝説の海賊の女王が噂にもないへっぽこなせいで、その海賊の女王を描いたミュージカルを観てイングランドの女王の偉大さを思い知るとは、なんたる皮肉!

Featured Photo: Stephanie J. Block (on rock) and company in The Pirate Queen. / Photo by Joan Marcus

The Pirate Queen
Hilton Theater
213 West 42nd Street (Broadway & 8th Avenue)
オフィシャルサイト

プレビュー:2007年3月2日
オープン:4月2日
終演:オープンエンド
上演時間:2時間35分(15分のインターミッション含む)

Production Credit: Book by Alain Boublil, Claude-Michel Schönberg and Richard Maltby Jr., based on the novel “Grania — She King of the Irish Seas” by Morgan Llywelyn; music by Mr. Schönberg; lyrics by Mr. Boublil, Mr. Maltby and John Dempsey; directed by Frank Galati
Cast: Stephanie J. Block (Grace O’Malley), Hadley Fraser (Tiernan), Linda Balgord (Queen Elizabeth I), Marcus Chait (Donal O’Flaherty), Jeff McCarthy (Dubhdara) and William Youmans (Sir Richard Bingham)

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