Movie Review: The Departed 『ディパーテッド』

マーティン・スコセッシ監督の『ディパーテッド』(The Departed)は、日本でもヒットした2002年の香港ノワール映画『インファナル・アフェア』(無間道 Infernal Affairs)シリーズのハリウッド版リメイクだ。

警察に侵入したマフィアのスパイと、マフィアに侵入した警察のスパイが「どっちが先にやられるか?」という絶体絶命の神経戦を繰り広げるサスペンスドラマである。

舞台はアメリカ最古のマフィア発祥の地として悪名高いボストン。

19世紀半ばにアイルランドを襲った大飢饉のせいで、100万人を越すアイルランド人がアメリカの東海岸に到着した。だが、カトリック教徒である彼らは、先に新世界アメリカに到着して落ち着いていたピューリタン達から差別される。職にありつけないアイリッシュの一部がストリートギャングになり、やがてマフィアとなったのだ。

アイリッシュ・マフィアが根深く裏社会を牛耳るボストンで、マフィアの支配力を内部から覆そうと、警察は新人警官のビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)をマフィアに潜入させる。

一方、マフィアのボス、フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)も、自分のスパイとしてコリン・サリバン(マット・デイモン)を警察に送り込んでいた。

だが、警察もマフィアも内部に通報者がいると気づく。ビリーとコリンはそれぞれ自分の正体が暴かれるよりも先に相手の正体を突き止めねばならない。二人ははお互いの陰に怯えながら、生存をかけた「ネズミ」探しの心理戦を戦うのだ。

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脚本のウィリアム・モナハンは、『インファナル・アフェア』の物語をボストンの歴史や犯罪史にピタリと当て込み、見事に脚色している。

特に、7、8年前まで実際にボストンのマフィアの大ボスとして君臨し、今もFBIから指名手配を受けて逃走中の実在のマフィア、ジェームズ・”ホゥィティ”・バージャーをモデルにしたコステロ役には尋常じゃないリアル感が漂う。

バージャーは、長年マフィア内部の情報を秘密裏にFBIに流していた情報提供者でもあった。しかも、FBIには邪魔者を蹴落とす情報を流しつつ、自分と同じ地域出身で子供の頃から良く知っているFBI捜査官を自分のスパイとして使い、FBI内部の情報を入手して、自分が捕まることがないよう上手く立ち回っていた男だ。

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実話に裏打ちされたその役を、ただそこに立ってるだけで怪しい雰囲気を漂わせることができるニコルソンが、怪しさをフルスロットルにして、時にやりすぎ感もチラチラさせながら演じている。ちっとも似合わないヒョウ柄のネクタイやバスローブを身にまとい、半径5メートル以内には絶対近寄りたく無いと思わせる臭いをムンムンとただよわせるのだ。

ドッペルゲンガーのようなキャラクターを演じるディカプリオとデイモンは、どちらも感情や善悪の配線が複雑に絡み合った時限爆弾のようで、見ているものをハラハラさせる。

ディカプリオが眉間にシワを寄せるとなんとも言えない影のある雰囲気が漂い、デイモンが親しげな笑みを浮かべると、その下には瀬戸際に立たされた野心的な男の計算がにじみ出て、見ている者をぞっとさせる。

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その二人が恋に落ち、三角関係になる女性が精神分析医のマドリン。ヴェラ・ファーミガが憂ある複雑なキャラクターをしっとりと演じている。

その他、テレビシリーズ『ザ・ホワイトハウス』(The West Wing)の大統領役で有名なマーティン・シーンが警察のボスを演じ、『ブギー・ナイツ』(Boogie Nights)のマーク・ウォールバーグや、アレック・ボールドウィンが脇を固めている。

スコセッシらしいストレートな犯罪ドラマは2時間半という長さを忘れさせるほどスリリングだ。

Photos © Warner Bros.

The Departed(『ディパーテッド』)
MPAA Rating: R
上映時間:2時間30分
監督:マーティン・スコセッシ
製作:ブラッド・グレイ、グラハム・キング、ブラッド・ピット
脚本:ウィリアム・モナハン(原作映画の脚本:フェリックス・チョン、アラン・マック)
編集:テルマ・スクーンメイカー
撮影:マイケル・ボールハウス
出演:レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン、マーク・ウォールバーグ、マーティン・シーン、ヴェラ・ファーミガ、レイ・ウィンストン、アレック・ボールドウィン
2006年10月6日全米公開
2007年1月20日日本公開

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