第74回ゴールデン・グローブ賞の授賞式が、8日、カリフォルニア州のビバリーヒルズにて開催された。
ゴールデン・グローブ賞は、南カリフォルニアをベースとする約90人の国際エンターテインメントジャーナリストからなるハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)が主催するアワードで、会員たちが過去1年に公開された米国のテレビと映画の優秀作品を選出する賞だ。
毎年ビバリーヒルズのThe Beverly Hilton hotelで開催され、丸テーブルを囲んで飲み食いしながら歓談できるパーティ形式のせいか、候補者やプレゼンターとなったスター達がリラックスしている様子や、授賞式が和気あいあいとした雰囲気のなかで進められているのがテレビの画面からも伝わってくる。
今年の授賞式は、司会のジミー・ファロンのフレンドリーな人柄が反映してか、ギリギリのラインを平気で飛び超えるどぎついジョークのリッキー・ジャーヴェイスや、ウィットに富んだジョークが好評だったティナ・フェイとエイミー・ポーラーのコンビがホストを務めたこれまでの式典とは異なり、(時にはあくびが出るほど)軽やかな雰囲気で進んだ。
その軽やかな雰囲気を決めたのが式典のオープニング。
この手のアワードのオープニングと言えば、事前に録画したコミカルな映像が流されるのが習わしだが、今年のゴールデン・グローブはミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(La La Land)のオープニングシークエンスをそっくりパロディにした、キュートなミュージカル・ナンバーで始まった。
その後に続くのはお約束のモノローグ。あいにくいきなりテレプロンプターが故障するというハプニングに見舞われ、ファロンの司会は出だしから躓いてしまう。
NBCの人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』(Saturday Night Live)出身のコメディアンで、ジェイ・レノの後釜として『ザ・トゥナイト・ショー』(The Tonight Show)の司会者となったファロンは、大統領選挙の前に共和党候補のドナルド・トランプを『ザ・トゥナイト・ショー』に招いた際、楽しそうにトランプの髪をくしゃくしゃにして遊ぶなど、その親しげな態度や手ぬるい質問が批判を招いた。(公平を期すれば、ファロンはどんなゲストに対しても親しげで、手厳しい質問をしない。)
その批判を跳ね返そうとするかのように、ファロンはオープニングモノローグでトランプを『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するキング・ジョフリーに例えて揶揄して見せる。
「皆、キング・ジョフリーが生きていたらどんなことが起こっただだろうかと考えている。それもあと12日したらわかるだろう。」
(People wonder what it would have been like if King Joffrey had lived. Well, in 12 days, we’re about to find out.)
大統領就任式でパフォーマンスをするスターがいないことをジョークにもしたが、トランプネタのジョークでファロンよりも大きな笑いをとったのは、テレビ部門ミニシリーズの主演男優賞を受賞したヒュー・ローリー。
この部門は『ザ・クラウン』(The Crown)でウィンストン・チャーチルを演じたジョン・リスゴーが受賞すると予想されていたが、『ナイト・マネージャー』(The Night Manager)で武器商人のビリオネアーを演じたローリーが受賞。
受賞スピーチでローリーはゴールデン・グローブ賞が今年で最後になるだろうとシニカルなジョークを飛ばす。
「おそらく、最後のゴールデン・グローブ賞で受賞したと今後言えることになるという事実が、この受賞をさらに素晴らしいものにしていると思う。悲観的な意味で言っているのではなく、ただこの賞には『ハリウッド』『外国人』『記者』という単語がタイトルに入っているから。」
(I suppose it’s made more amazing by the fact that I’ll be able to say I won this at the last ever Golden Globes. I don’t mean to be gloomy it’s just that it has the words ‘Hollywood,’ ‘Foreign,’ and ‘Press’ in the title. )
時間を追うごとに、受賞者が感動的なスピーチやウィットに富んだジョークを披露し、司会者ファロンの影がどんどん薄くなっていく。
Amazonのテレビシリーズ『弁護士ビリー・マクブライド』(Goliath)で主演男優賞を受賞したビリー・ボブ・ソーントンは、若くして亡くなったシリーズのプロダクションアシスタントについて言及。
また、ノミネートされた7部門全てを受賞し、ゴールデン・グローブ史上最高の受賞作品となった『ラ・ラ・ランド』で、映画コメディ・ミュージカル部門主演男優賞を受賞したライアン・ゴズリングは、パートナーのエヴァ・メンデスとガンで亡くなったメンデスの兄に賞を捧げるスピーチをした。
どちらも見るものをほろりとさせた瞬間だ。
Embed from Getty ImagesBilly Bob Thornton
受賞結果のサプライズとしては、『ノクターナル・アニマルズ』(Nocturnal Animals)のアーロン・テイラー・ジョンソンが『ムーンライト』(Moonlight)のマハーシャラ・アリを制して映画ドラマ部門の助演男優賞を受賞したり、『ナイト・マネージャー』(The Night Manager)が3冠に輝いたり、『ウエストワールド』(Westworld)や『ナイト・オブ・キリング 失われた記憶』(The Night Of)でノミネートされていたHBOが無冠に終わったり、ひょっとして無冠に終わってしまうのかと心配した『ムーンライト』が最後に作品賞を受賞したり、ファロンの少々退屈な司会のせいで出ていたあくびも驚きで引っ込む展開となった。
だが、今年の式典で何よりも素晴らしかったのは、生涯功労賞に当たるセシル・B・デミル賞を受賞したメリル・ストリープのスピーチ。
デンゼル・ワシントンが監督した映画『フェンス』(Fences)でその夜の映画ドラマ部門主演女優賞を受賞したヴァイオラ・デイヴィスが、エミール・ゾラの名言になぞらえてストリープを紹介する。
Embed from Getty ImagesViola Davis
「アーティストであることが誇りに思えるのはあなたのおかげです。あなたは、私が内に持っているもの、私の身体、私の顔、私の年齢で十分なのだと感じさせてくれました。あなたはあの偉大なるエミール・ゾラのあの名言をカプセルに入れたような人です。もしアーティストとして何をするためにこの世に来たのかと問われたら、私、アーティストはこう応えるだろう。私は他の人に声を届けるために来たのだと。」
(You make me proud to be an artist. You make me feel that what I have in me, my body, my face, my age, is enough. You encapsulate that great Émile Zola quote that if you ask me as an artist what I came into this world to do, I, an artist, would say, I came to live out loud.)
数日前に行われたオバマ大統領のフェアウェルパーティで叫びすぎたため声を枯らしてしまったらしいストリープは、かすれた声を振り絞りながら、賞を受賞した自らの華々しい経歴やその達成を助けた人々への感謝というありがちな受賞スピーチの代わりに、ハリウッド外国人映画記者協会が与える賞にふさわしく、芸術や多様性、そして報道の重要性を強調するスピーチを披露した。(メリル・ストリープの受賞スピーチ動画とスピーチ全文及び全訳は末尾)
Embed from Getty ImagesMeryl Streep
ストリープは、授賞式の会場にいる人たちの多くがアメリカの小さな町や様々な国で生まれ育ったアウトサイダーだと紹介し、続いてトランプが選挙戦中、障害のあるニューヨーク・タイムズ紙のセルジュ・コバレスキ記者の真似をして嘲笑したことについて、トランプの名前を口にすることなく例に出して批判し、今こそ、役者の仕事、つまり自分とは異なる人間を演じてその人間の生活がどのようなものなのかを観客に感じさせることがいかに責任の重い役割であるかを同業者たちに説いた。
通常、ハリウッドの華やかな授賞式では政治的なスピーチが疎まれるにもかかわらず、ストリープはさらに突っ込んで、権力を監視し譴責できる主義原則に基づいた報道機関の必要性や、憲法が保障する報道の自由を守っていくことの重要性を説き、トランプをジョークにするのではなく、トランプが社会にもたらす危険を優美に示してハリウッド外国人映画記者協会が授与する賞の授賞式にふさわしいスピーチを披露。このスピーチはスタンディングオベーションを浴びた。
私は特に、ストリープが定義した役者の仕事の役割と、報道機関の必要性に深く胸を打たれた。
役者の仕事とは、自分とは異なる人間の人生の中に入り込んでその人物を演じ、自分とは異なる他人の人生がどのようなものなのかを観客に感じさせること。見る者が、物語の中で描かれている他人の人生や、他人が置かれた状況に共感できるようにすること。感情移入できるようにすること。
スピーチの末尾でストリープが使った単語、empathyというのは、まさにそういうことだ。全ての良質のドラマが見る者の心を打つのは、そのempathyのせいなのだ。
他人の人生を想像する力に欠けた人間があちこちの国でトップに立ち、手にした権力を使って弱いものいじめをする。報道の自由を妨害し、都合の良いことだけを書かせようとする。
今年のゴールデン・グローブ賞でストリープがかすれる声で声高に述べたこのスピーチのおかげで、良質の物語とストーリーテリングがいかに重要かをますます思い知る。
そして、それを守るために、権力を監視してくれる報道と報道の自由がいかに重要かをひしひしと感じた。
*ゴールデン・グローブ賞の候補者と受賞者一覧はこちら
メリル・ストリープのセシル・B・デミル賞受賞スピーチ
メリル・ストリープのセシル・B・デミル賞受賞スピーチ全文
Please sit down. Thank you. I love you all. You’ll have to forgive me. I’ve lost my voice in screaming and lamentation this weekend. And I have lost my mind sometime earlier this year, so I have to read.
Thank you, Hollywood Foreign Press. Just to pick up on what Hugh Laurie said: You and all of us in this room really belong to the most vilified segments in American society right now. Think about it: Hollywood, foreigners and the press.
But who are we, and what is Hollywood anyway? It’s just a bunch of people from other places. I was born and raised and educated in the public schools of New Jersey. Viola was born in a sharecropper’s cabin in South Carolina, came up in Central Falls, Rhode Island; Sarah Paulson was born in Florida, raised by a single mom in Brooklyn. Sarah Jessica Parker was one of seven or eight kids from Ohio. Amy Adams was born in Vicenza, Italy. And Natalie Portman was born in Jerusalem. Where are their birth certificates? And the beautiful Ruth Negga was born in Addis Ababa, Ethiopia, raised in London — no, in Ireland I do believe, and she’s here nominated for playing a small-town girl from Virginia.
Ryan Gosling, like all of the nicest people, is Canadian, and Dev Patel was born in Kenya, raised in London, and is here playing an Indian raised in Tasmania. So Hollywood is crawling with outsiders and foreigners. And if we kick them all out you’ll have nothing to watch but football and mixed martial arts, which are not the arts.
They gave me three seconds to say this, so: An actor’s only job is to enter the lives of people who are different from us, and let you feel what that feels like. And there were many, many, many powerful performances this year that did exactly that. Breathtaking, compassionate work.
But there was one performance this year that stunned me. It sank its hooks in my heart. Not because it was good; there was nothing good about it. But it was effective and it did its job. It made its intended audience laugh, and show their teeth. It was that moment when the person asking to sit in the most respected seat in our country imitated a disabled reporter. Someone he outranked in privilege, power and the capacity to fight back. It kind of broke my heart when I saw it, and I still can’t get it out of my head, because it wasn’t in a movie. It was real life. And this instinct to humiliate, when it’s modeled by someone in the public platform, by someone powerful, it filters down into everybody’s life, because it kinda gives permission for other people to do the same thing. Disrespect invites disrespect, violence incites violence. And when the powerful use their position to bully others we all lose. O.K., go on with it.
O.K., this brings me to the press. We need the principled press to hold power to account, to call him on the carpet for every outrage. That’s why our founders enshrined the press and its freedoms in our Constitution. So I only ask the famously well-heeled Hollywood Foreign Press and all of us in our community to join me in supporting the Committee to Protect Journalists, because we’re gonna need them going forward, and they’ll need us to safeguard the truth.
One more thing: Once, when I was standing around on the set one day, whining about something — you know we were gonna work through supper or the long hours or whatever, Tommy Lee Jones said to me, “Isn’t it such a privilege, Meryl, just to be an actor?” Yeah, it is, and we have to remind each other of the privilege and the responsibility of the act of empathy. We should all be proud of the work Hollywood honors here tonight.
As my friend, the dear departed Princess Leia, said to me once, take your broken heart, make it into art. Thank you.
メリル・ストリープのセシル・B・デミル賞受賞スピーチ全訳
(翻訳 by Sooim Kim)
ありがとう。どうかおかけください。ありがとう。皆さんを愛しています。皆さん、お許しください。この週末は、叫び、悲嘆の声をあげたので、声が枯れてしまったのです。今年の初めには正気を失ってしまいました。ですのでスピーチは原稿を読まねばなりません。
ハリウッド外国人映画記者協会の皆さん、ありがとう。ヒュー・ローリーが先ほど言った言葉を借りれば、ここにいるあなたたちや私たちは皆、まさに米国社会のなかで今もっともそしりを受けている層に属しています。考えてごらんなさい。「ハリウッド」「外国人」「記者」。
でも、私たちは何者でしょう? そもそも、ハリウッドって何でしょう? 他の場所からやってきた人たちの集まりでしかありません。私はニュージャージー州で生まれ、育ち、公立学校で教育を受けました。ヴァイオラ(・デイヴィス)はサウスカロライナの小作人の小屋で生まれ、ロード・アイランド州セントラルフォールズで育ちました。サラ・ポールソンはフロリダ州で生まれ、ブルックリンでシングルマザーに育てられました。サラ・ジェシカ・パーカーはオハイオ州の7人か8人兄弟のなかの1人です。エイミー・アダムスはイタリアのヴィチェンツァ生まれです。そしてナタリー・ポートマンはエルサレム生まれです。この人たちの出生証明書はどこにあるんでしょう? そして美しいルース・ネッガはエチオピアのアディスアベバで生まれロンドンで育ち、いいえ、確かアイルランドで育ったのです。そして彼女はヴァージニア州の小さな町の女性を演じてノミネートされ、今日ここにいます。
ライアン・ゴズリングは、他の最も心優しい人たち全てと同じくカナダ人で、そしてデヴ・パテルはケニヤで生まれ、ロンドンで育ち、タスマニアで育ったインド人を演じてここにいます。つまりハリウッドは他所者と外国人でいっぱいなのです。もし私たちが彼ら全員を追い出したならば、あなたたちはフットボールと統合格闘技しか見るものがなくなってしまいますし、それらは芸術ではありません。
このスピーチのための時間が3秒しかもらえなかったのですが、役者の唯一の仕事は、自分とは異なる人間の人生の中に入り込み、その人生がどのようなものなのかを見るものに感じさせることです。そして今年は、まさにその仕事を成し遂げた力強いパフォーマンスが山のようにありました。息をのむ、情の深い仕事が。
しかし、今年私は、あるひとつのパフォーマンスを見て愕然としました。そのパフォーマンスは私の心にかぎ針を突き刺しました。そのパフォーマンスが良かったからではありません。良いところなどひとつもありませんでした。ですがそれは効果的で、その目的をしっかり果たしていました。そのパフォーマンスは狙い定めた観衆が歯を見せて笑うように作られていました。それは、この国で最も尊敬される席に座ることを求めている人物が、障害のある記者の物真似をして見せた瞬間です。特権や権力や反撃する能力でより高い位置にある人物が。それを見たとき、その行為が私の心を打ち砕いたように感じ、いまだにそれが頭から離れません。なぜなら、それは映画の中で起こったことではないからです。それは現実世界で起こったからです。
そしてこの、人に屈辱を与えようという本能が、公的な演壇にいる人物、権力を持つ人物によって披露された時、それはすべての人の生活に入り込みます。なぜならそれは他のひとたちに、自分たちも同じようにして良いという許可を与えるようなものだからです。侮蔑は侮蔑を招き、暴力は暴力を駆り立てます。そして権力を持つ者がその地位を使って他の者を脅した時、私たちは皆負けるのです。
OK、このことは私の目を報道機関に向けさせます。私たちには権力に対して責任を問える、なされた侮蔑的行為一つ一つに対して権力者を呼びつけて説明を求めることができる主義原則に基づいた報道機関が必要です。だからこそ、私たちの建国者たちは報道機関とその自由を合衆国憲法の中で謳ったのです。ですから、私は富裕なことで有名なハリウッド外国人映画記者協会と私たちのコミュニティにいる人全てに対し、私と一緒にCommittee to Protect Journalists支援に参加してくださるようお願いします。なぜならば私たちが前進するためには彼らが必要で、彼らも真実を守るためには私たちが必要になるからです。
もう一つだけ。かつて私がある日セットにいる時に何かについて不平を言ったことがありました。夜食後も仕事をするとか、長時間労働だとか、何かそのようなことです。するとトミー・リー・ジョーンズが私にこう言いました。「これって実に特権的なことじゃないか、メリル、役者でいられるというだけで。」ええ、その通りです。そして私たちはお互いに他人の身になるという行為の特権と責任について常に思い出させなければなりません。私たちは皆、今夜ここでハリウッドが讃えている業績に誇りを持つべきです。
私の友人であり、この惑星から旅立ってしまった親愛なるレイア姫がかつて私にこう言いました。ハートが壊れたら、そこからアートを作りなさい、と。ありがとうございます。
Top Photo © Hollywood Foreign Press Association (HFPA)