グレイ・ガーデンズのその後で:リトル・イーディが出演したキャバレー・ショウ”After the Garnden”の「再演」

メイズルス兄弟のドキュメンタリー映画『グレイ・ガーデンズ』の大ファンのわたしには、どうしても見たいのに見るのは絶対に不可能だったショウがある。

リトル・イーディが1978年1月にグリニッチヴィレッジのナイトクラブ「レノ・スウィニー」(Reno Sweeney)でやったキャバレー・ショウ、”After the Garden” (グレイ・ガーデンズのその後で)だ。

フランス系の名門ブーヴィエ家に生まれたリトリ・イーディは、ショービジネスの世界に憧れ、女優になることを夢見ていた。だが、良家の子女がエンターテインメント業界に入って人前で歌って踊るなど考えられなかった時代。

イーディは夢を追い続けることができず、1952年から25年間、グレイ・ガーデンズと呼ばれるイーストハンプトンの屋敷で同じ名前を持つ母親のビッグ・イーディの世話をして過ごしてきた。

グレイ・ガーデンズに囚われていたその彼女が、1977年2月の母親の死後ようやく手に入れたチャンスが、このキャバレーショウだった。

今から30年以上も前にたった8回だけ上演されたショウ。わたしがそれを見るためには、タイムマシンとどこでもドアがなければ不可能だ。

できることといえば、そのショウで歌われた曲が何だったのか、イーディがどんな衣装を着たのか、Q&Aコーナーではどんな話題が出たのかを調べるだけ。

New York Timesの昔の記事を掘り起こしては貪るように読み、古本屋で当時の古雑誌を見つけては茶色くなったページを繰った。

ネットサーフィンで発掘した昔の記事も数知れず。

そうして知ったのは、リトル・イーディがビッグ・イーディのお古のドレスを「リメイク」した赤い衣装を身につけたこと、頭には羽根飾りのついたヘッドドレスをつけていたこと、 “Tea for Two”や “As Time Goes By”などのスタンダードナンバーと、自作の曲を含む7曲を歌ったこと、「テレビのことについてどう思いますか?」なんて質問に答えたことだった。

アンディ・ウォーホール(Andy Warhol)は全8回のこのショウ全て見たという記事も読んだ。

そんなわたしが去年の2月に耳にしたのが、このキャバレー・ショウをかぎりなく当時のままに再現したものが3月にワシントンDCで上演されるというニュース

After The Garden: Edith Beale Live at Reno Sweeneyというタイトルのそのショウは、なんでも、’78年当時に制作を担当したプロデューサー、ジェラルド・デュヴァル(Gerald Duval)がかかわっているという。

当時、リトル・イーディのキャバレー・アクトの構成を手伝ったデュヴァルが、記憶を元に台本を書き、DCのGanymede Artsで芸術監督を務めるジェフリー・ジョンソン(Jeffrey Johnson)がイーディを演じるらしい。

Ganymede ArtsはGLBT(ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー)に捧げられたいうDCベースの芸術団体だ。

ジョンソンは、スペシャル・エージェント・ギャラクティカというドラァグクイーンのキャラクターで有名な人物らしい。

行きたい!

だがその時期、どうしてもDCに行くことができなかったわたしは、またとないこのチャンスをみすみす逃さざるを得なかった。

ところがその後、天国のイーディーがわたしに贈り物をしてくれたかのような素晴らしいニュースが舞い込んで来たのだ。

このショウが2009年の年末に再演されるらしい。しかも、12月29日にたった1回だけ、ニューヨークのJoe’s Pubで!

12月にNY旅行を計画していたわたしは、29日のこのショウを優先に予定を立てた。

そうして喜び勇んでニューヨークへ飛び、’78年のリトル・イーディにご対面してきたのだ。

Jeffrey Johnson in After the Garnden: Edith Beale Live at Reno Sweenye at Joe's Pub 2
Jeffrey Johnson in “After the Garnden: Edith Beale Live at Reno Sweeney” at Joe’s Pub – Photo by Sooim Kim

早々にチケットを買ったわたしの席は、舞台に一番近いど真ん中のテーブル席。

小さなJoe’s Pubの中は観客でぎっしり。もちろん満席だ。

観客を見回すと、壁際の席にはあのジェリーの姿もある。

わたしの真後ろのテーブルには、あのアルバート・メイズルス(Albert Maysles)と御一行様が座り、カメラを回して舞台を撮影している。

舞台に立っているのがほんもののイーディで無いことは百も承知なのに、実際に制作に関わった者や観客の話を元に、できるだけオリジナルに近いものに作り上げられたショウはまるで’78年にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を与える。

そこにジェリーがいて、アルバート・メイズルスがカメラを回しているのだから当然か?

どこかにマイクを持つデイヴィッド・メイズルスがいて、そのうち猫を抱えるビッグ・イーディが

「イーディ! オウ! イーディ!」

と叫びながらゆっくり現れても不思議ではない。

Jeffrey Johnson in After the Garnden: Edith Beale Live at Reno Sweenye at Joe's Pub
Jeffrey Johnson in “After the Garnden: Edith Beale Live at Reno Sweeney” at Joe’s Pub – Photo by Sooim Kim

どっぷりとグレイ・ガーデンズの世界に浸りきり、ファン冥利につきる経験をしたわたしは、ショウが終わった後、これで会うのが3度目となるメイズルス監督に挨拶をした。

そして、ドキュメンタリー映画の『グレイ・ガーデンズ』を早く日本で劇場公開してもらいたいこと、日本語字幕付きのDVDを日本で販売してもらいたいことを伝えた。

「あなたがしてください」

メイズルス監督はポケットを探って1枚だけ入っていたヨレヨレの名刺をわたしに手渡し、担当者の名前を告げて彼女に連絡するように言った。

「は、はい。わかりました。頑張ります」

その時彼には告げなかったが、実はその担当者には既に連絡済みで、手強い大手の競争相手がいると知らされて自力でやることはほとんど諦めていたのだ。

だがもしかすると、その場でわたしのグレイ・ガーデンズ愛を披露して直接交渉し、紙ナプキンにでもサインをもらえばよかったのかもしれない。

今となってはもう遅いが。

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