「金持ちを痛めつける一番の方法は、奴らを貧乏人にしちまうことだと思うぜ。」
ジョン・ランディス監督の1983年の映画『大逆転』Trading Places は、そのオープニングのクレジットタイトルで、フィラデルフィアの街並みとそこで生活する市井の人々や富める者の日常をモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』の序曲にのせてモンタージュで見せていく。
フランスの劇作家ボーマルシェの同名戯曲をもとにしたオペラ『フィガロの結婚』は、雇い主の伯爵が邪な策略を巡らせていることに気付いた召使のフィガロが、伯爵自身の策略を利用して伯爵にしっぺ返しをするという物語だが、『大逆転』もまさにそんなお話だ。
コモデティの先物取引会社のオーナーであるランドルフ(ラルフ・ベラミー)とモーティマー(ドン・アメチー)のデューク兄弟は、ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外の大邸宅に住み、何人も使用人を抱えて何不自由ない裕福な生活をしている。ことあるごとに意見を違わせる二人はある日、人間の人格形成に重要なのは環境か血筋かでまたもや意見を違わせる。そして彼らの会社を取り仕切っている勤勉で品行方正、教養あるエリートのルイス・ウィンソープ3世(ダン・エイクロイド)と、障がい者のふりをして物乞いするペテン師のビリー・レイ・ヴァレンタイン(エディ・マーフィー)の人生を入れ替えてどうなるかを観察し、自分たち兄弟のどちらが正しいか賭けをすることにした。
映画はデューク兄弟の企みとは知らずに突然人生を交換されたウィンソープとヴァレンタインの生活を追っていくのだが、このセリフは映画の後半、兄弟の冷酷で非人情な賭けのせいで人生を滅茶苦茶にされたことに気付いたウィンソープとヴァレンタインが、彼らへの復讐を目論むシーンに登場する。
兄弟を撃ってやろうとショットガンを掃除するウィンソープを見ながらヴァレンタインが「誰かにムカついたからって、ショットガンで膝小僧を撃って回ることはできないんだぜ」と諭す。そんなことをしたら殺傷能力のある武器による暴行罪で20年の刑を喰らう、と。そしてこう言う。
「金持ちを痛めつける一番の方法は、奴らを貧乏人にしちまうことだ。」(“You know, it occurs to me that the best way you hurt rich people is by turning them into poor people.”)
それを身をもって経験したのがまさにウィンソープだ。
富と権力を持つものと、そのどちらも持たないものの立場を入れ替えるという物語の設定はマーク・トウェインの有名な児童文学作品『王子と乞食』(The Prince and The Pauper)以来何度も使われてきたが、『大逆転』ではそれをエリート白人とペテン師の黒人に置き換え、黒人に対する白人社会の差別的な視線や偏見、そして無知から生まれる恐怖を風刺的に見せ、コメディに仕立てている。
さらに、富をもつものと持てないものを生み、この二つの層を隔てている社会の経済的不平等と人種間の壁も描き、富を持て余すように贅沢に暮らす人々が、いかに小さなバブルの中で暮らしているかを見せる。彼らにとっては自分より下にいるものたちは皆虫ケラ同然の存在で、貧困から抜け出すことができない人たちのことは全く理解できないのだ。それを象徴するのがベラミーとアメチーという名優二人が演じるデューク兄弟の賭けで、この二人に仕返しをしようとするウィンソープとヴァレンタインの活躍は何度見ても爽快だ。
その一方で、意味もなく女性が胸を見せるシーンや、エイクロイドがステレオタイプなカリブ風アクセントでジャマイカ人のふりをするブラックフェイスシーンもあり、こちらは何度見ても居心地が悪くなる。
『大逆転』
Trading Places (1983)
監督:ジョン・ランディス
脚本:ティモシー・ハリス、ハーシェル・ワイングロッド
製作:アーロン・ルッソ
撮影:ロバート・ペインター
音楽:エルマー・バーンスタイン
編集:マルコム・キャンベル
出演:ダン・エイクロイド、エディ・マーフィー、ラルフ・ベラミー、ドン・アメチー、デンホルム・エリオット、ジェイミー・リー・カーティス、ポール・グリーソン、クリスティン・ホルビー
US公開日:1983年6月8日
日本公開日:1983年12月17日
Top Image: Screenshot of Eddie Murphy in Trading Places © Paramount Pictures (1983)

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