Z世代とベビーブーマー世代の対決を描いたサイコスリラー
若い女性が初老の男性に銃を向けている。
その女性、ジェーンは誰もがその名を知る北カリフォルニアの大手テック企業で「ユーザーケア」として働いているが、ある日職場でメンタルブレイクダウンし、その動画がインターネット上でバイラルになったせいで休職処分を受ける。職場復帰にはセラピーを受けて問題なしというお墨付きをもらわねばならないが、ジェーンが仕事に戻れるかどうかは彼女が銃を向けているセラピスト、ロイドの評価にかかっていた。
劇作家マックス・ウルフ・フリードリックによる二人芝居 JOB は、セラピストのオフィスという密室を舞台にした一幕劇だ。2023年の秋にオフ・ブロードウェイのSoHo Play House でオープンするや否やTikTokで話題になり、あっという間に若者の間で「必見」の芝居になる。期間限定公演は延長に延長を重ねてもすぐにソールドアウト。数ヶ月後に別のオフ・ブロードウェイの劇場、Connelly Theater で再演されたがそちらもあっという間に全公演ソールドアウト。延長されても毎日キャンセル待ちの列ができ、劇場は20代から30代の若者で埋め尽くされるという旋風を巻き起こした。
その JOB がブロードウェイにトランスファーされ、7月30日、Helen Hayes Theatr でオープンした。

Photo by Emilio Madrid
明るいオーク調のクラウンモールディングの下に、ミッドセンチュリー風の家具とアーストーンでまとめられた温かい雰囲気のロイドのオフィスがある。窓からはどうやらゴールデンゲートブリッジが見えるらしいが、舞台上のオフィスには壁も窓もドアもなく、まるで暗闇の中に浮かぶ島のように真っ暗な背景の中にぽつりとある。その中で拳銃を握ったジェーン(シドニー・レモン)とロイド(ピーター・フリードマン)が向き合っている。
どうしても職場復帰したいジェーンは、自分が心理的になんら問題ないことをロイドにわからせようとする。一方自分のオフィスで人質になったロイドは、恐怖に怯えつつもなんとか撃たれずに部屋から出るチャンスを窺う。それぞれ異なった思惑で相手の説得を試みる二人がセラピーセッションの形をとった説得の綱引きを始めるのだ。
ロイドは親子関係や学生時代や職場での対人関係を探りながら、なぜジェーンが職場でパニック発作を起こしたのか、なぜ銃を持ち歩いているのか、その原因を探ろうとする。
ジェーンは「トラウマAとトラウマDを必死に繋げようとする」ロイドのカウンセリングアプローチに皮肉で対抗し、ロイドのようなベビーブーマー世代をジェーンのようなZ世代がどう見ているか次々に披露する。

マイケル・ハーウィッツの演出は、初っ端から見せる緊張感を途切れることなく持続させるが、そのピンとした空気で観客席を覆ってしまうのはジェーンとロイドを演じる二人の役者、シドニー・レモンとピーター・フリードマンだ。
この二人が素晴らしい。フリードマンとレモンはどちらもHBOの風刺コメディドラマシリーズ、Succession (邦題『メディア王 〜華麗なる一族〜』)で脇役を演じていたが、ここでの演技はまさに主役級だ。
特にレモンのジェーンは観客の目を釘付けにする。彼女は観客の目の前で突然異世界にトリップしてはそこからまた現実に戻り、自分の目的を達成するためにロイドとの会話を続ける。そして神経衰弱ギリギリのジェーンが、自分の仕事が不快で暴力的で犯罪そのもののコンテンツを閲覧しては削除する「コンテンツ・モデレーター」であることを明らかにすると、劇場は針が落ちた音も聞こえそうなほど静かになり、空気が張り詰める。
対照的にフリードマンは観客の視線がそのジェーンに注がれるのをサポートするかのように静かにロイドを演じる。その静かな演技によって劇のクライマックスが観客に与える衝撃は最大級になるのだ。

Photo by Emilio Madrid
時折、スコット・ペナーがデザインしたオフィスセットの背景の暗闇にパソコンの画面を思わせる長方形のライトが青や黄色やピンクに明滅する。メクストリー・カズンが手掛けた突然光るこのスクリーンの群は、コディ・スペンサーによるクリック音やセックスや暴力を想起させる耳障りな背景音と共に現れ、ジェーンのマインドが異世界(あるいはインターネット上にある不快なコンテンツの記憶)に飛んでいることを暗示する。
劇作家のフリードリックはこの作品で世代の違いや性差、年齢差による社会観や世界観の違いを対比させてミレニアル世代・Z世代が現代社会をどう見ているか、世界における自分の役割についてどう考えているかについての考えを観客に示しつつ物語を進める。そしてクライマックスでまるでM・ナイト・シャマランの映画のような大きな衝撃を観客に与えるのだ。観劇後の観客は「そうなのか? それとも違うのか?」とひとしきり考えずにはいられなくなる。
なるほど、TikTokで話題になるのも当然の、80分間の緊張とその後で語るトピックが詰まった作品だ。
Top Image: Peter Friedman and Sydney Lemmon in JOB, Photo by Emilio Madrid
JOB
オフィシャルウェブサイト
上演時間:1時間20分(インターミッション無し)
*開演時間に遅れると着席できない No Late Seating ポリシーがあり、上演中に席を離れた場合も再入場できないのでご注意ください。
Helen Hayes Theatre(Broadway)
240 W 44th St, New York
プレビュー開始:2024年7月15日
オープン:2024年7月30日
クローズ:2024年10月27日 9月29日 (2024年10月17日情報更新)
Connelly Theater(Off Broadway)
220 E 4th St, New York
オープン:2024年1月19日
クローズ:2024年3月23日
SoHo Playhouse(Off Broadway)
15 Vandam Street
オープン:2023年9月18日
クローズ:2023年10月29日
Playwright Max Wolf Friedlich
Directed by Michael Herwitz
Scenic Design by Scott Penner
Costume Design by Michelle J. Li
Lighting Design by Mextly Couzin
Sound Design by Cody Spencer
Original Music by Devonté Hynes
Cast : Peter Friedman and Sydney Lemmon

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