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“They call me Mister Tibbs!”

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「皆は私をミスター・ティッブスと呼ぶ!」

1967年に公開されたノーマン・ジュイソン監督の『夜の大捜査線』(In the Heat of the Night)は、ジョン・ボールの小説『夜の熱気の中で』(In the Heat of the Night)が原作の犯罪サスペンス映画だ。

人種差別が根深く残るミシシッピ州の小さな町スパータで殺人事件が起こり、列車の乗り換えのためにたまたま駅にいた余所者の黒人、ヴァージル・ティッブス(シドニー・ポワチエ)が逮捕される。人種差別と偏見に基づいた根拠のない逮捕だった。ヴァージルはフィラデルフィア警察殺人課の刑事だったため身元保証のためにフィラデルフィアの上司に連絡するが、上司から捜査に協力するよう命じられ、殺人事件捜査の経験も能力もない町の警察署長ギレスピー(ロッド・スタイガー)を手伝うことになる。だが、都会から来た有能な黒人刑事に誤認逮捕を指摘されて面子をつぶされたギレスピーと、ギレスピーのあからさまな人種差別に苛立つヴァージルは対立する。

このセリフはそんなシーンに登場する。

出典:The official YouTube channel for Amazon MGM Studios

映画の中、ギレスピーはヴァージルに会うや否やヴァージルを「坊主(boy)」と呼ぶ。「坊主(boy) 」という言葉には差別の歴史があり、白人が黒人を対等でない存在として扱うときに使われてきた。黒人成人男性を「坊主」と呼ぶことで、黒人は成人しても一人前の人間ではなく、知性も肉体も精神も白人より劣った存在だと日々示唆し続けていたからだ。

ヴァージルを「坊主」と呼んで見下し、差別していたギレスピーは、白人である自分の間違いを指摘する黒人のヴァージルに苛立ち、このシーンでは「坊主(boy)」にさらにNワードをくっつけて彼を「黒ん坊」と呼ぶ(注:上の動画ではNワード部分は音声が消されている)。

おや、ずいぶん自信満々だな、ヴァージル。ヴァージル…、フィラデルフィアから来た黒ん坊にしては変な名前だ。向こうではなんて呼ばれてんだ?

ギレスピーのこの人種差別にあふれた問いに対するヴァージルの返答が皆は私をミスター・ティッブスと呼ぶ!だ。抗議の怒りをこめながらも毅然とした態度で当然の敬意を持った扱いを求めるこのセリフが名セリフとなったのも当然だろう。

この映画はハスケル・ウェクスラーの映像も美しく、レイ・チャールズが歌う主題歌を含むクインシー・ジョーンズの音楽も素晴らしい。翌年のアカデミー賞で作品賞と主演男優賞(ロッド・スタイガー)を含む5部門を受賞し、1970年にはこの名台詞をタイトルにした続編が(邦題『続・夜の大捜査線』)、1971年には3作目『夜の大捜査線/霧のストレンジャー』(The Organization)が作られ、さらに1988年にはテレビドラマシリーズも作られた。

『夜の大捜査線』
In the Heat of the Night (1967)

監督:ノーマン・ジュイソン
脚本:スターリング・シリファント
原作:『夜の熱気の中で』(In the Heat of the Night)by ジョン・ボール
製作:ウォルター・ミリッシュ
撮影:ハスケル・ウェクスラー
出演:シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ、リー・グラント、スコット・ウィルソン

Top Image:Sidney Poitier as Virgil Tibbs in In the Heat of the Night

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