スタンド・バイ・ミー(Stand By Me):ゴーディ作復讐物語「パイの大食い競争」のブルーベリーパイ

毎年9月の第一月曜日のレイバー・デイが近づくと、頭の中でベン・E・キングが歌い出す。
そしてブルーベリーパイに顔を埋めたくなる。

これも全てロブ・ライナー監督映画『スタンド・バイ・ミー』(原題: Stand by Me)のせいだ。

1986年に公開された『スタンド・バイ・ミー』は、もうすぐ13歳になろうとする12歳の少年4人の冒険を描いた青春映画だ。

原作はホラー小説の大家スティーブン・キングのホラーでない中編小説『The Body 』。
春夏秋冬を背景にした四作の中編を集めた『恐怖の四季』(Different Seasons)の中の秋の物語で、日本では映画にちなんで「スタンド・バイ・ミー」というタイトルがつけられている。

だが、小説の原題の直訳は「死体」。

それというのも、この日を過ぎれば秋になるというレイバー・デイの週末に4人の少年たちがする冒険とは「死体探し」だからだ。

From Left to Right: Jerry O'Connell as Vern, River Phoenix as Chris, Wil Wheaton as Gordie, Corey Feldman as Teddy in Stand By Me
From Left to Right: Jerry O’Connell as Vern, River Phoenix as Chris, Wil Wheaton as Gordie, Corey Feldman as Teddy in STAND BY ME
©︎ COLUMBIA PICTURES

1959年の夏の終わり、オレゴン州の小さな町キャッスルロックに住むゴーディ、クリス、テディ、バーンの4人の少年は、ひょんなことから、ブルーベリー摘みに出たきり行方不明のレイ・ブラワー少年が列車に轢かれて死んでしまったことを知る。

ラジオではブラワー少年捜索のニュースで持ちきりだが、誰も少年がどこでどうなったかまだ知らない。

そんな時、もし自分たちがブラワー少年の死体の「第一発見者」になれば、新聞にも載って英雄になれるんじゃないか?

そう考えた4人は、親には「友達の家の裏庭でキャンプをする」と嘘をついて死体探しのハイキングに出かけるのだ。

From Left to Right: Wil Wheaton as Gordie, River Phoenix as Chris, Jerry O'Connell as Vern, Corey Feldman as Teddy in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES
From Left to Right: Wil Wheaton as Gordie, River Phoenix as Chris, Jerry O’Connell as Vern, Corey Feldman as Teddy in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES

だがどうせ大人は大して気にしちゃいない。

ゴーディ(ウィル・ウィートン)には文才があるが、それを認めてくれた兄(ジョン・キューザック)は数ヶ月前に事故で死んでしまった。フットボールのスターでよく出来た兄の死に悲しむあまり、両親はゴーディの才能どころか存在にすら気付かなくなっている。

クリス(リヴァー・フェニックス)もアル中の父と不良の兄を持つせいで町の人から「あいつもどうせ」と白い目で見られている。

尊敬する父親からひどい虐待を受けている短気なテディ(コリー・フェルドマン)はクレイジー扱い。

バーニー(ジェリー・オコンネル)は自分のへそくりを埋めた場所がわからなくなって過去9ヶ月は縁の下に潜って地面を掘り返してばかり。

この大人の目が届いていない4人の少年たちが、死体探しの道中、森の中で一夜を過ごすことになる。

Wil Wheaton as Gordie in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES
Wil Wheaton as Gordie in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES

キャンプファイアーを囲みながらも少々心細くなっている仲間に、ゴーディは自作のある物語を語ってやる。

太っているせいで「デブっケツ」(Lard-Ass)というあだ名を付けられ、町中の人たちからバカにされ、いじめられているホーガン少年の壮大な復讐の物語である。

Andy Lindberg as David "Lard-Ass" Hogan in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES
Andy Lindberg as David “Lard-Ass” Hogan in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES

その鍵となるのがブルーベリーパイ。

夏に実をつけるブルーベリーはスティーブン・キングが住むメイン州の名物でもある。そのブルーベリーをたっぷり詰め込んだブルーベリーパイの大食い競争が復讐物語の舞台になるのだ。

ホーガン少年は町中の人たちが注目する大食い競争に出場する。
だが彼の目的は優勝して皆の尊敬を勝ち取ることではない。

勝ち負けなどどうでもいい。町中のいじめっ子たちが集まる注目の舞台で、腹いっぱいに溜まった憤まんを思いっきり浴びせてやることこそが目的なのだ。

文字通り、ブルーベリーパイという形で。(実際にはすでに形はなくなっているのだが)

出典:Fandango Movieclips

この映画を見たことがある人なら、この「パイの大食い競争」のグロテスクなシーンを鮮明に記憶しているに違いない。

映画の公開30周年記念にロブ・ライナー監督とホーガン少年を演じたアンディ・リンドバーグが Engertainment Weekly のインタビューで語ったことによると、ロイナー監督はこのシーンを映画に入れるか入れまいかずいぶんと逡巡したらしい。

それはこのシーンが生々しすぎるからではない。将来作家として成功するという設定のゴーディが嘔吐物語を本当に書くだろうか?と考えてしまったからだという。

だが幸いなことに(?)ブルーベリーパイを使った復讐物語は映画の中に入れられることになった。

撮影のために用意されたのは実際のブルーベリーパイの中身と大粒のカッテージチーズを混ぜた液体20リットル。それを巨大なシリンジャーに詰め込み、3、4人がかりでシリンジャーに繋げられたホースから消防士の消火ホースなみの勢いで一気に押し出す。

そうやって撮影されたブルーベリーパイ嘔吐の戯画的な描写は、まるでシャツについたら決して取れないブルーベリーのシミのように映画史上にくっきりと残る名シーンとなったのだ。

映画の公開時にはこのシーンを見て気持ちが悪くなり、吐いてしまう観客もいたというのだから、名シーンぶりもうかがえる。

復讐物語の最後にホーガン少年は浮かぶ勝ち誇った笑みを浮かべる。あの微笑みは偉業を成し遂げた人間だけが浮かべることができる表情だ。

Andy Lindberg as David "Lard-Ass" Hogan in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES
Andy Lindberg as David “Lard-Ass” Hogan in STAND BY ME ©︎ COLUMBIA PICTURES

さて、今年もまたレイバー・デイがやってくる。

わたしの頭の中ではすでにベン・E・キングが歌い出しているが、果たして今年は、顔中をブルーベリーパイのフィリングだらけにしてホーガン少年のような笑みを浮かべることができるだろうか?

答えは、このブルーベリーパイの中にある。

Information

映画の撮影地となったオレゴン州ブラウンズビルでは、毎夏この映画を上映した後でパイの大食い競争を開催している。あいにく今年はCOVID-19のせいで中止となったが、もし来年の夏までに新型コロナウイルスの驚異がなくなっていれば開催されるはずだ。

オレゴン州ブラウンズビルのWebサイト:historicbrownsville.com

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