パルプ・フィクション(Pulp Fiction):ジャック・ラビット・スリムスでミアがオーダーする5ドルのミルクシェイク(マーティン&ルイス)

クエンティン・タランティーノの映画『パルプ・フィクション』(Pulp Fiction)は、ダイナーのシーンから始まってダイナーのシーンで終わる。

そのブックエンド型のダイナーシーンが象徴するように、この映画にはアメリカンフードの話やそれを食べるところが次から次へと登場する。

ヨーロッパ帰りの殺し屋ヴィンセント(ジョン・トラボルタ)が語るヨーロッパのマクドナルドでチーズバーガーをなんと呼ぶかという話から、ファビアン(マリア・デ・メディロス)が夢見る目玉焼きとソーセージ5本を添えたブルーベリーパンケーキとその上(!)に乗っけたブルーベリーパイの話。サミュエル・L・ジャクソン演じるジュールが朝食にかぶりつくテイクアウトのビッグ・カルフーナ・バーガーに、ヴィンセントがレストランで注文する「地獄のように」血の滴るステーキ。

どのシーンを取っても思わず食べたくなるものばかりだが、中でも特に気になって仕方がないのはウマ・サーマン演じるギャングの妻ミアが飲む5ドルのシェイクだ。

Poster of 'Pulp Fiction'
Poster of ‘Pulp Fiction’

ヴィンセント(トラボルタ)がギャングのボス、マーセルス(ヴィング・レイムス)に命じられ、ボスの妻ミア(サーマン)の食事のお相手をすることになる。ミアが選んだレストランはジャック・ラビット・スリムス (Jack Rabbit Slim’s)。ヴィンセントが「心拍のある蝋人形館」と形容するハリウッドレトロがテーマのレストランだ。

店のあちこちにマリリン・モンローやらエド・サリバンやらリッキー・ネルソンのそっくりさんがいて、テールフィンが付いたコンバーチブルカーが座席として使われている。

メニューには1950年代に活躍したコメディアンや役者、歌手の名前を冠した食べものが並ぶ。

ミアとヴィンセントが席に着くと、スティーブ・ブシェミ演じる「歌手のバディ・ホリーに扮したウェイター」のバディが注文を取りにくる。

Buddy (Steve Buscem) is taking order from Mia (Uma Thurman) and Vincent (John Travolta) in 'Pulp Fiction'
Uma Thurman (L), Steve Buscem (M), and John Travolta (R) in ‘Pulp Fiction’ ©︎ MIRAMAX

まずヴィンセントが映画監督の名前が付いたステーキ、ダグラス・サーク・ステーキとヴァニラ・コークを注文し、続いてミアがテレビホストの名前がついたダーウァード・カービー・バーガーと「5ダラーシェイク」(5ドルのシェイク)を注文する。

シェイクのチョイスは「マーティン&ルイス」(Martin & Lewis)か「エイモス&アンディ」(Amos & Andy)の2つ。

「マーティン&ルイス」とは1940〜50年代に活躍していたコメディコンビのディーン・マーティンとジェリー・ルイスのこと。どちらも歌手・役者としても有名だ。

Dean Martin & Jerry Lewis

一方「エイモス&アンディ」は1950年代の人気テレビ番組 Amos ‘n’ Andy のキャラクターのことで、アルバン・チャイルドレスとスペンサー・ウィリアムズが演じた。

Spencer Williams (L), Tim Moore (M) and Alvin Childress (R) in Amos ‘n’ Andy

つまり白人コンビの「マーティン&ルイス」がバニラ味で、黒人が演じたキャラクターの名前がついた「エイモス&アンディ」がチョコレート味というかなり差別的な名前のミルクシェイクだ。

ミアは「マーティン&ルイス」をチョイス。

ミアのチョイスや差別的な名前にではなく、1杯5ドルという値段に驚いたヴィンセントが、シェイクには「バーボンか何か入ってるのか?」とバディ・ホリーに尋ねるが、アルコールは一切入っていないという。ミルクとアイスクリームだけで作られた昔ながらのミルクシェイクなのだ。

出典:MIRAMAX Official YouTube Channel

運ばれてきたのは上に生クリームとサクランボが飾られた、見た目もシンプルなバニラミルクシェイク。

「う〜ん、美味しい」というミアのリアクションに、興味を掻き立てられていたヴィンセントが味見をする。

John Travolta in 'Pulp Fiction'
John Travolta in ‘Pulp Fiction’ Photo ©︎ MIRAMAX

そしてこう言うのだ。

Goddamn, that’s a pretty f**king good milkshake. I don’t know if it’s worth $5, but it’s pretty f**king good.

「なんてこった、こいつはべらぼうに美味いミルクシェイクだぜ! 5ドルの価値があるかどうか知らないが、べらぼうに美味いことは間違いない」

出典:MIRAMAX Official YouTube Channel

いやもうこのミルクシェイクが飲みたくてたまらない!

この映画を劇場で初めて見た時から、ミアのファッションともども気になって夜も眠れなかった5ドルのシェイク。映画公開からかれこれ25年も経ったある日の午後、「待てよ? 材料がアイスクリームとミルクだけなら、家でも作れるんじゃないか?」とようやく思いつき、作ってみることにした。

ミルクシェイクは日本でもミルクセーキという名前で長年親しまれてきた。その昔、実家が喫茶レストランだったこともあり、客がオーダーしたミルクセーキを親が作っているのを厨房の隅っこから眺めたものだが、あの時の材料はミルク、砂糖、卵黄にバニラエッセンスだった。それを全部カクテルを作る時に使う銀色のシェイカーに入れ、父親がでかい手でシャカシャカ降って作っていたもんだ。

あのミルクセーキも美味しかったが、ミアが飲む5ドルのミルクシェイクはあれじゃない。

ごそごそ家捜しをし、その昔、アメリカでミキサーを買った時についてきた分厚いレシピ本を取り出す。確かミルクシェイクのレシピが載っていたはずだ。

電話帳ほどの厚みがある埃をかぶったレシピ本を開いて確認すると、やはり材料はアイスクリームとミルクとヴァニラエキスだけ。念には念を入れてインターネットでも調べまくったが、必要な材料はやはりアイスクリームとミルクだけ。

ヴァニラの香り高いものを作りたければヴァニラエキスを加え、もし脳天にガツンと来るほど甘いのが好きならここに砂糖を加えると良いらしい。

だが、材料がシンプルなだけに、材料のクオリティーが味を左右する。
そしてアイスクリームとミルクの配合がテクスチャーを左右する。

ということで、ミルクシェイクをホームメイドするときのポイントをまとめてみた。

その1)アイスクリームは必ず本物の材料だけで使られたものを使うべし!
つまり、ミルクと卵と砂糖とバニラだけでできているものを使うのがポイントなのだ。どうやらアイスクリームを柔らかくふんわりさせるための添加物が入ったものは、シェイクにした時に味がボケてしまうらしい。

その2)ミルクは低脂肪乳ではなく成分無調整のホールミルクを使うべし!
ミルクの味と濃さもシェイクの味を左右する。だが、どんなにこってり濃厚なシェイクが好きでも決してミルクの代わりに生クリームを使ってはいけない。と言うのも、ミキサーで撹拌しているうちに生クリームがバター状になってしまう(!)からだ。

その3)アイスクリームとミルクの割合に気をつけるべし!
実はこれはシェイクの仕上がりの好みによって分かれる。より液体に近いのが好きな人もいれば、ソフトクリーム状のものが好きな人もいるし、フラペチーノ状が好きな人もいる。わたしは「ストローが立つ濃度」のクリーミーなシェイクが好きなので、「ストローテスト」に合格する濃度を目安に、アイスクリームとミルクを3:1の割合で作ってみた。

その4)シェイクの濃度はミルクの量で調整すべし!
レシピによっては氷を入れるとあったが、フラペチーノタイプを目指すのでない限り、氷はご法度。「アイスクリーム:ミルク=3:1」を目安に、少しずつミルクを入れて濃度を調整するのが良い。

そうやって作ったバニラミルクシェイクがこちら。

5-dollar Milkshake

う〜む、思わずツイストダンスしたくなる美味さである。(曲はもちろんチャック・ベリーの You never can tell 。)

ちなみに、このグラス1杯分のミルクシェイクを作るのに、ハーゲンダッツのバニラアイスが400mlほど必要で、材料費だけでしっかり5ドルかかった。
つまりこれは正真正銘の 5 dollar shakeということになるだろう。

Top Photo: Uma Thurman in ‘Pulp Fiction‘ ©︎ MIRAMAX

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