Movie Review: Train to Busan 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(부산행『釜山行き(原題)』)

この夏大ヒットのゾンビ映画はソウル発釜山行き!

韓国発ゾンビ映画に見る、人間の善悪と朝鮮戦争の軌跡

★★★★☆

7月に韓国で上映されるやいなや歴代の成績を塗り替える大ヒットを飛ばしたTrain to Busan(『부산행』釜山行き)は、まるで『スノーピアサー』Snowpiercer)と『ワールド・ウォーZ』World War Z)を合わせたようなゾンビ映画だ。

2011年の『豚の王』(The King of Pigs)や2013年の『The Fake』など、社会を告発する暗いインディーズアニメ作品を発表してきたヨン・サンホ監督が初めて手がけた実写映画で、韓国ではすでに1000万人以上の観客を動員し、フランスやハリウッドのメジャー・スタジオがリメイク権の争奪戦を繰り広げている作品である。

主人公は目下離婚手続き中のソグ(コン・ユ)。

一人娘のスアン(キム・スアン)を手元に置いているものの、娘の世話は自分の母に任せっきり。世間からは金を儲けるためなら周りの人間を蹴落とす奴らと後ろ指さされるファンドマネージャーで、仕事を優先して娘の発表会にも出席せず、娘が誕生日に何を望んでいるのかもわからない。

その負い目から、ソグは、誕生日に母親に会いたいというスアンを釜山に住む別れた妻の元に連れていく。

ソウルから釜山までは高速列車KTXで2時間40分ほど。早朝出れば昼には戻れる。ソグはスアンと一緒にソウル発釜山行きの始発KTX101号に乗り込んだ。

だがちょうどその頃、謎のゾンビウイルスがソウルでアウトブレイクしていた。

発車間際のKTX101号に駆け込み乗車した1人の女性は、脚に大きな咬み傷があった。

車内の乗客や乗務員が次々とゾンビ化していく。乗客たちは生き残りをかけた死闘を繰り広げながら、ゾンビウイルスの侵入を防ぐことができたという唯一の安全都市、釜山を目指すのだ。

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クリント・イーストウッドが映画で何度も描いてきたように、この映画も人は状況によって善になったり悪になったりするという人間の本質を描く。そして全編を通じて「他と共に生きるのか、それともたった一人で生きるのか」と問いかけてくる。

ソグは、年寄りに席をゆずる娘スアンに「こんな非常時には自分のことだけを考えていればいい」と教え、ゾンビに追われる妊婦の眼の前でドアを閉めるアンチヒーローだ。(エリート特有のさらっと冷たい傲慢さと、不器用な父性愛を絶妙にミックスして表現するコン・ユがうまい。)

その利己的なソグが、幼い娘のまっすぐな倫理観や、他の乗客の勇敢な姿に触れ、混沌とした社会で生きていくためには他と協力し利他的になることが重要なのだと徐々に学んでいくのだ。

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単純な物語ながらも、ひねりを利かせながらがっちりとまとめたこの脚本が実にうまい。

登場するのは全て普通の人間だ。

ソグ、スアン親子の他に、粗野な態度とは裏腹に優しい人間性をのぞかせるサンファ(マ・ドンソクが観客を魅了する)と妊娠中のその妻ソンギョン(チョン・ユミ)、お人好しの姉にイライラする妹の老姉妹、はにかみ屋の高校球児ヨングッに積極的にアタックする同級生のジニ(アン・ソヒ)、自分勝手なバス会社の重役、惨事が発生してもしっかり仕事をする運転手。

チョン・ユミ演じるサンファの妻ソンギョンのキャラクターだけが、重要な役割を果たす割には深みがなく残念だが、すべてのキャラクターが丁度良い塩梅で描かれている。

特に、ソグの娘スアンが良い。演じるキム・スアンの演技の素晴らしさも手伝って、ソンギョンのキャラクターの弱さを補ってくれる。

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CGは極力使わず、エキストラではなく職業俳優100人に演じさせたというゾンビたちは、『ワールド・ウォーZ』に登場するゾンビのように、ドーピングした陸上選手の全力疾走で人間を追いかけてくる。

AMCの人気テレビシリーズ『ウォーキング・デッド』The Walking Dead)に登場する、姿はおどろおどろしいが動きが鈍いゾンビ達とは恐ろしさが違う。

韓国には日本同様銃規制があるため、全力疾走のゾンビに襲われても手にできる武器と言えばせいぜい野球のバット程度だ。(好都合なことに、列車には高校野球のチームが乗車している。)あとは脚力と腕力、機転で危機を切り抜けるしかない。

今年公開された日本映画『アイアムアヒーロー』でも全力疾走するゾンビが登場したが、主人公の英雄は銃砲所持許可証と散弾銃を持たされてZQNことゾンビと戦っていた。

だが、徴兵制があり、成人男性のほぼ全てが銃火器訓練を受けている韓国で、銃火器を持った軍隊の出動が必要な非常事態が起こっているにもかかわらず、この映画の登場人物たちが銃を手にすることはない。

その選択には、物語をあくまでも普通の社会に住む普通の人間のものにするというヨン・サンホ監督の意図がはっきりと感じられる。

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映画は、突然の奇襲にあったソウル、大田(テジョン)の陥落、唯一攻防できた釜山といった朝鮮戦争の戦況をひっそりとなぞらえる。

韓国の地理に疎いものには距離感や時間の感覚が掴みにくく、英語字幕はまるでKTXがソウル〜釜山間を1時間で走るような誤解を与えていて残念だが、このひっそりしたなぞらえが、映画を観終わった観客の心にサブリミナル効果的な希望をもたらすのだから実に上手い。

本作のプリクエルとして長編アニメ映画『ソウル駅』が作られ、韓国では今月公開されているが、もしも本作のシークエルが今後できるなら、国連軍が仁川に上陸し、一気にゾンビを退治して韓国を守るという話になるのではないだろうか。

あっという間に2時間が経過する本作と、プリクエルのアニメ映画『ソウル駅』の日本での公開は現在のところ未定だ。

Photos © Next Entertainment World

Train to Busan 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(부산행『釜山行き(原題)』)
上映時間:1時間58分
監督:ヨン・サンホ
脚本:ヨン・サンホ
出演:コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、チェ・ウシク、アン・ソヒ

韓国:2016年7月20日公開
US:2016年7月22日限定公開
USオフィシャルウェブサイト
日本:2017年夏公開
日本オフィシャルウェブサイト

 

*2016年12月22日邦題及び日本公開情報追加

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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