Theater Review: Blackbird 『ブラックバード』

ジェフ・ダニエルズとミッシェル・ウィリアムズが冷たい火花を散らすパワフルな二人芝居

「ショックを受けた?」

スコットランドの劇作家デイヴィッド・ハロワーによるBlackbirdは、こんなセリフで幕を開ける。

2005年にエジンバラで初演されるや注目を集め、翌年ロンドンのウエストエンドで、2007年にはニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されたこの二人芝居、ショックどころか、不快感と不信感に揺さぶられながら、しんと静まり返った劇場の中で息を殺した80分を過ごすことになるパワフルな芝居だ。

レイ(ジェフ・ダニエルズ)の職場にある日突然若い女性が訪ねてくる。15年前、レイが「情事」を持ったウナ(ミッシェル・ウィリアムズ)だった。ある業界誌に掲載された写真を見て、違う街で違う名を使って暮らすレイを捜し出したのだ。

同僚の目を気にしつつ、ゴミが散乱する会社の休憩室にウナを連れ込んだレイは、彼女がなぜ自分の前に姿を現したのか、その理由を探ろうとする。

過去に終止符を打ちに来たのか?
それとも復讐?

15年前、同じ街に住んでいたウナとレイは、ウナの両親が開いたバーベキューパーティで知り合った。ウナはレイに好意を持ち、レイの気を惹きはじめる。それがやがて秘密の「情事」へと発展する。

だが、その時ウナは12歳。レイは40歳。

二人の関係は「情事」ではなく、性的虐待だった。

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Jeff Daniels in Blackbird

今年のトニー賞で、ストレートプレイ部門のリバイバル作品賞、主演男優賞、主演女優賞にノミネートされた本作は、性的虐待の被害者と加害者の対決を描いた凄惨なドラマだ。大胆にも性的虐待関係をある種のラブストーリーとして描き、虐待が子どもの内面に及ぼす破壊力の凄まじさに迫った作品である。

レイを演じるのは、2007年のオフ・ブロードウェイ上演時に同役を演じたジェフ・ダニエルズ。マンハッタン・シアター・クラブによるその時のプロダクションと同じく、演出はジョー・マンテロ。9年前にアリソン・ピルが演じて絶賛されたウナを、今回はミッシェル・ウィリアムズが演じる。

華奢で可憐ながらも芯の強さを表現するのがうまいウィリアムズは、手負いの動物のような獰猛さを見せながら、身体が倍以上も大きなダニエルズのレイを責めたて追い詰める。

「情事」の後、刑務所で4年足らずを過ごしたレイは、自分は他の性犯罪者と一緒ではない、あれは早熟なウナの誘惑に負けてしまった自分の人生最大の過ちだったと主張する。今では自分より年上の女性と新しい生活を築いている、自分はまともな人間なのだ、と。

だが果たしてそうなのか?

レイの主張は時折執拗すぎ、その声は時折強すぎる。ダニエルズはほんのわずかなニュアンスで観客の心にいくつもの疑問の種を植え付け、ドラマをサスペンスで満たす。レイはケダモノの性犯罪者なのか? それとも決して許されない過ちをたった一度だけ犯してしまった悔い改めた男なのか?

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Michelle Williams in Blackbird

一方ウィリアムズは、ふとした拍子にその身体の中に囚われた12歳の少女の姿をまるで亡霊のようにぼおっと浮かび上がらせ、見ているこちらをゾクッとさせる。ウナのキャラクターをはっきり物語るアン・ロスの衣装もウィリアムズのほっそりした四肢を強調し、ウナのもろさを視覚的に訴える。

その二人が、蛍光灯が寒々しく照らす平凡な灰色のオフィスの中で、切れ切れの単語を石ころのように投げつけ合いながら過去を少しずつ明らかにしてはパワーゲームを繰り広げる。見ているこちらの心はウナからレイ、そしてレイからウナへとまるで小川の笹船のように揺れ動いて翻弄される。

だが、 なかなか明らかにならないのは、ウナがレイに会いに来た理由。それが見えてくる頃には、客席に座るわたしの首筋にはじっとりと嫌な汗が滲み、両手は無意識に口を覆っているのだ。

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Michelle Williams and Jeff Daniels in Blackbird

強姦は魂の殺人と言われる。
それならば、未成年の子どもとの性行為である法定強姦は子どもの魂の殺人だ。

子どもには大人に憧れる時期があり、成長過程にある子どもは未熟な判断しかできない。その子がどんなに早熟であっても、たとえその子が同意しても、そのことを大人が忘れてしまったらどうなるか。子どもの未熟な判断を、自分の欲望を満たす言い訳にしてしまったらどうなるか。

首の後ろにじっとりと滲む汗が、子どもを守ることの大切さを思い知らせ、完璧なまでに平凡に作り上げられたスコット・パスクのセットと、冷たい蛍光灯を使ったブライアン・マクダビットの照明デザインが、物語の普遍性を表しているかのようで背筋をさらに凍らせる。

Blackbirdはルーニー・マラとベン・メンデルソーン主演で映画化された。ビートルズの曲から取られた芝居のタイトルは、映画版ではUnaとなるらしい。公開は年内の予定。

 

All Production Photos by Brigitte Lacombe

Blackbird
Belasco Theatre
111 W 44th Street (Bet. Avenue of the Americas & Broadway)
オフィシャルサイト 

プレビュー開始:2016年2月5日
オープン:2016年3月10日オープン
クローズ:2016年6月11日
上演時間:1時間20分(インターミッション無し)

Credits: Written by David Harrower; Directed by Joe Mantello
Cast: Jeff Daniels and Michelle Williams

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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