Theater Review: Bright Star 『ブライト・スター』

ブロードウェイに持って行けるか?!
サン・ディエゴのOld Globeにてトライアウト中のスティーブ・マーティンとイーディ・ブリケル作オリジナルミュージカル

この9月に、カリフォルニア州サン・ディエゴのOld Globe Theaterでワールドプレミアを迎えた新作ミュージカルがスティーブ・マーティンとイーディ・ブリケル作のBright Star

スティーブ・マーティンといえばコメディアンや俳優としてよく知られているが、グラミー受賞暦のあるミュージシャンでもある。彼のグラミー受賞暦の最初にはもちろん、1977年の「Let’s Get Small」や、1978年のヒット曲「King Tut」を収録した「A Wild and Crazy Guy」などのコメディアルバムが上がる。

だが彼はバンジョー奏者や作曲家としても有名で、2009年に発表した最初の音楽アルバム「The Crow」はグラミー賞のブルーグラス部門ベストアルバムに選ばれた。

そのマーティンが、シンガー・ソングライターのイーディ・ブリケル(1988年のヒット曲「What I Am」を覚えているだろうか?)と組んで作ったのが2013年のアルバム「Love Has Come For You」。タイトルソングは今年のグラミーでベストアメリカンルーツソング賞を受賞した。

このアルバムのプロモーションコンサートツアー中、お互いが古いミュージカルのファンであることを発見した二人は、アルバムの曲を使ってミュージカルを作ろうと意気投合。そうして出来上がったのがBright Starというわけだ。

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Steve Martin and Edie Brickell — Concord Music Group

ミュージカルを観ると、この裏話は2つの理由で実にしっくり腑に落ちる。

それは、Bright Starの物語がなんとも古くさいから。そして、まるでジュークボックス・ミュージカルのように、後からとってつけた物語のような継ぎはぎ感が残っているからだ。アルバムからミュージカルに使われた曲は結局2曲のみで、残りは全て、ミュージカルのために二人が書き下ろした新曲だというにも関わらず。

念のために言っておくが、ブルーグラス風味の利いたマーティンとブリケルの曲は、魂が前世で覚えてきた曲のような懐かしさを感じさせるのに、それでいてとても新鮮だ。陽気な三味線のようなバンジョーの音色と弾むバイオリンの音に、足も勝手にリズムをとりだす。

だが、そんな曲たちを使って語られるのは古くさいゴシックメロドラマで、現代に生きる観客のための新しい発見や驚きはあいにく用意されていない。(ゴシックメロドラマ用の驚きは用意されているが、簡単に予測のつく驚きだ。)そのせいで、二人がなぜこの物語を今語るのだろうかと不思議になる。

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A.J. Shively as Billy Cane and Carmen Cusack as Alice Murphy

第二次世界大戦直後、戦地から故郷のノースカロライナに戻ってきた青年ビリーは、ライターになるという夢を追いかけて、アシュビル・サザーン・ジャーナルに自分を売り込みに行く。編集長のアリス・マーフィーは、そんなビリーの姿を見て20年以上前の自分を思い出す。

ミュージカルは、夢を追うビリーと彼に密かに思いを寄せる幼なじみのマーゴの恋物語と、若い頃のアリスの不運な恋物語を同時に描いていく。その1940年代の物語と1920年代の物語が、やがて数奇なつながりを見せる。

これが映画の場合、2つの時代の物語をクロスカットで交互に見せつつ話を進めていくというのが常套手段。映画でおなじみのこの手法、実はこのミュージカルでも用いられている。つまり、時代は観客の目前で1940年代から1920年代、そしてまた1940年代と行きつ戻りつし、2つの物語が平行しながら交互に描かれるのだ。

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Wayne Alan Wilcox as Jimmy Ray Dobbs and Carmen Cusack as Alice Murphy

舞台上で繰り広げられる少々めまぐるしい時代間の移動で重要な役割を果たしているが女性キャラクターの着る衣装(ジェーン・グリーンウッド)。

1940年代の服はしっかりしたショルダーラインときっちりウエストマークされたミディ丈のスカートが特徴的だ。身体の線を隠すようにストンと落ちる1920年代のドロップドウエストの服とはシルエットが明らかに異なる。

舞台に現れる女性の服のシルエットにさえ注目すれば、目の前で繰り広げられているのがどの時代の話なのかすぐにわかるようになっているのだ。(もっとも、男性キャラクターしか登場しないシーンはどの時代の話なのかじっくり考えるしかないのだが。)

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Kate Loprest as Lucy Grant, Jeff Hiller as Daryl Ames, and Carmen Cusack as Alice Murphy

特に、アリスが過去を回想するように描かれる最初の時代ジャンプシーンが良い。衣装替えを上手く使って時代が変わったこと表現するウォルター・ボビーのこの演出はとても効果的だ。

ユージーン・リーによるニュートラルでシンプルな舞台美術も、オーガス・エリクスモーエンのスムースな振り付けも、せわしない時代間の行き来を視覚的に邪魔せず良い。

スムースと言えば、ミュージシャンの演奏場になっている骨組みだけの小屋。この小屋は役者達の一押しで舞台上をスムースに動き、時にビリーの家になり、アリスの実家になり、酒場にもなる。

レンガの壁の背景に降りて来るノースカロライナの山脈のシルエットも美しい。(照明デザインはジャフィー・ウィードマン。)

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A.J. Shively as Billy Cane and Stephen Bogardus as Daddy Cane

だが、秀逸な演出や流れるような場面移動と振り付けにも関わらず、Bright Starの物語はあまりスムースに運ばない。それはおそらく、スティーブ・マーティンの脚本に問題があるからだろう。

問題の一つは、キャラクターの感情の移り変わり。あるシーンから次のシーンへと変わると、キャラクターの感情が変わっていることがある。観客の想像力を利用した省略と考えるには少々お粗末な展開で、キャラクターの感情の変化を目の前で見られないせいで、物語にはブツ切れ感が出てしまう。

最終的に損をするのはキャラクターだ。理想主義的なことを言っていたアリスの恋人ジミー・レイは、いつの間にかその理想を引っ込めている。

ビリーは突然幼なじみのマーゴに自分が恋していると気付く。

そういった唐突さは全てキャラクターの薄っぺらさへと変化し、観るものはジミー・レイについてもビリーについても「この人たちは単純にマヌケなのだろうか?」と考えてしまうのだ。

そのため、ある疑問が頭によぎる。

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Carmen Cusack as Alice Murphy

アリスを演じるカルメン・キューザックは往年のハリウッド女優セレステ・ホルムを彷彿とさせるルックスで(まるでホルムの写真を手本にアリス役を作り上げたかのようにそっくりだ)、スターの輝きと役者としての力量を見せてアリス役を生き生きと演じている。

また、マーゴ役のハンナ・エレスも出番は少ないながら、舞台に出るたびに魅力を放射して観客の注目を集める。

その二人がなぜマヌケに恋をする? ひょっとして重要なのは、やっぱり顔なのか?

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Hannah Elless as Margo Crawford

Bright Starがブロードウェイに行くためには脚本の手直しが必要だろう。

なんせこれは古くさい新作なのだ。どんなに時間をかけて手直ししてもこれ以上古臭くなることはない。慌てず急がず、たっぷりと時間をとってキャラクターに深みを出してもらいたい。

All Production Photos by Joan Marcus

Bright Star
Old Globe
San Diego, California
オフィシャルサイト
プレビュー:2014年9月13日
オープン:2014年9月28日
クローズ:2014年11月2日終演
上演時間:2時間20分
Credits: Music, book and story by Steve Martin; music, lyrics and story by Edie Brickell; directed by Walter Bobbie; choreography by Josh Rhodes; sets by Eugene Lee; costumes by Jane Greenwood; lighting by Japhy Weideman
Cast: Carmen Cusack (Alice Murphy), A.J. Shively (Billy Cane), Wayne Alan Wilcox (Jimmy Ray Dobbs), Hannah Elless (Margo Crawford), Wayne Duvall (Mayor Josiah Dobbs), Jeff Hiller (Daryl Ames), Kate Loprest (Lucy Grant), Libby Winters (Dora Murphy), Stephen Lee Anderson (Daddy Murphy), Patti Cohenour (Mama Murphy), Stephen Bogardus (Daddy Cane)