Movie Review: Jersey Boys 『ジャージー・ボーイズ』

イーストウッド監督の’Jersey Boys’を観て思い出す、舞台ミュージカルを観たあのすばらしき夜

Rating: 2 out of 5.

6月20日に全米でオープンしたクリント・イーストウッド監督の最新作、Jersey Boysの最後にはオマケがついている。

物語が全て終わり、急ぎ足の観客が席を立とうとするまさにそのタイミングで、セット丸出しの作り物の道にキャスト達が全員くり出し、歌って踊り始めるのだ。曲は、ザ・フォー・シーズンズの1975 年のヒット曲、「あのすばらしき夜(December, 1963 (Oh, What a Night))」。

それを見て思い出したのは、この映画の元となったブロードウェイミュージカルを見たあのすばらしき夜(December, 2005)。

と言うのは少々大げさかもしれないが、2005年11月にブロードウェイでオープンした Jersey Boys は、オープンと同時にスマッシュヒットを飛ばし、翌年のトニー賞で作品賞、主演男優賞を含む4部門を受賞した、現在もロングラン中の大人気作品だ。

1960年代から70年代にビルボードのヒットチャートを賑わし、ザ・ビートルズやザ・ビーチ・ボーイズと並んで人気を得たロック・グループ、「フランキー・ヴァリとザ・フォー・シーズンズ」の始まりと成功、別れと再開の軌跡を描いた音楽ドラマである。

今まで知られていなかった驚きに満ちた物語を四季になぞらえ、グループのメンバー4人がそれぞれ自分の視点から一シーズンずつ語っていく(そのため話が少しずれる)という、黒澤明の『羅生門』風の構成をとった秀逸な舞台だ。

そこに、「シェリー(Sherry)」「恋のヤセがまん(Big Girls Don’t Cry)」「恋のハリキリ・ボーイ(Walk Like a Man)」「君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)」等々、ザ・フォー・シーズンズの世界的大ヒット曲をふんだんに散りばめ、白髪率の高い観客達をまるでティーンエイジャーのように熱狂させたミュージカルである。

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観た者を楽しい気分にさせ、芝居がはねた後も観客に鼻歌を歌わせた舞台とは対照的に、映画は少々暗めの仕上がりになっている。

文字通り、ルックも暗い。

彩度を低く押さえ、白黒映画っぽさを持たせた色調の映画は、カラフルで、時にはラメ入りの人工的な色で見せる舞台と比べると、どんよりくすぶって見える。

そのせいか、同じ話も映画で観ると数段暗く感じる。

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John Lloyd Young

1950年代のニュージャージー州ニューアーク。

刑務所のお世話にもなるトミー・デヴィート(『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』のヴィンセント・ピアッツァ)が、リードヴォーカルの欠けた自分のバンドにフランキー・ヴァリ(ジョン・ロイド・ヤング)を加える。

フランキーは、今で言うならジャスティン・ティンバーレイクの裏声のようなファルセットの持ち主。地元マフィアのボス、ジプ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)も才能を認めて可愛がっている。

そこに、ボーリング場で働くジョーイ・ペシ(後の俳優、ジョー・ペシ。特徴的なペシの「オケ、オケ」を再現するジョーイ・ルッソが楽しい)の紹介で、天賦の才を持つ若き音楽家、ボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)が加わる。

フランキーの声とゴーディオの音楽が出逢い、ザ・フォー・シーズンズは自分たちのサウンドを発見する。

JERSEY BOYS

映画の脚本は、舞台版の台本を書いたリック・エリスとマーシャル・ブリックマン。

手練のこの二人は、ザ・フォー・シーズンズのメンバー4人が順繰りにナレーションを担当し、直接観客に話しかけるという舞台で成功した手法を映画にも採用した。

だが、舞台で効果的だったこの手法、映画ではどうもしっくりこない。

ナレーションの分量が控えられたせいか、「4人の異なる視点」の度合いも薄れてしまい、カメラ目線で話しかけるスタイルが逆に映画に中途半端な芝居臭を残してしまった。

舞台作品が映画になるとき、映画に期待するのはリアリティとディテールに裏打ちされた、深みある人物と描写だ。

しかし、この映画には芝居の跡はあちこちに見受けられるのに、映画にあってほしいリアリティとディテールが不足している。

例えばザ・フォー・シーズンズが活躍していた当時、どんな音楽が流行していたのか観客には全く知らされない。

ザ・ビートルズやザ・ビーチ・ボーイズですら映画では言及されず、フランキーとボブがデモテープを売り込みに行ったラジオ局で、「黒人になったら出直してこい」と言われるのが当時を探る唯一のヒントなのだ。

比較対象がなければ、ザ・フォー・シーズンズの成功の度合いも計れない。

音楽プロデューサーのボブ・クリュー(マイク・ドイルが好演)が、「シェリー」を聞いて「今までに無い!」と興奮するのを見て、客席のこちらの顔に苦笑いが浮かんでも仕方が無いだろう。

JERSEY BOYS
Mike Doyle

イーストウッド監督は、ジャズ好きとして有名だ。
チャーリー・パーカーの伝記映画『バード』を撮り、自らの映画の音楽も作曲する人物である。

だが、ひょっとしたら彼は、ジャズ以外の音楽にはあまり興味が無いのかもしれない。
(となると、ビヨンセが降りて宙ぶらりんになっているイーストウッド監督予定の『スタア誕生』リメイク企画が少々心配になってくる。)

フランキー・ヴァリを演じるジョン・ロイド・ヤングは、ブロードウェイでこの役を演じ、トニー賞を受賞した役者だ。その彼がスクリーンで演じるヴァリは、残念なことに、歌を除けば真面目だけが取り柄のような、いつも同じ表情の男になっている。

ヴァリの妻メアリーを演じるレネ・マリーノも舞台で活躍する役者で、フランキーとの出逢いのシーンでしっかりした存在感を見せる。だが、フランキーとの結婚後は飲んだくれて同じ愚痴を言い続けるだけ。画面に登場しても大して何もさせてもらえないのがもったいない。

JERSEY BOYS
Renee Marino and John Lloyd Young

映画の中で歌われる曲は、トム・フーパー監督の『レ・ミゼラブル』同様、口パクのアフレコではなく、役者達がカメラの前で実際に歌ったものを撮影、録音したらしい。

舞台で成功した手法を残し、舞台で活躍する俳優を使い、舞台のように俳優に歌わせて映画を作ったイーストウッド監督だが、この物語がブロードウェイの舞台だったことなど忘れ去り、ドラマを一から映画的に描き直してくれたらさぞ面白かったのではないか。

いかにも演劇的なラストのオマケを見て、映画と舞台という媒体の違いを感じた。

All Photos © Warner Bros.

Jersey Boys
MPAA Rating: R
上映時間 2時間14分
監督:クリント・イーストウッド
脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
出演:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ラマンダ、ヴィンセント・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン、マイク・ドイル、レネ・マリーノ、ジョーイ・ルッソ
2014年5月16日全米公開
オフィシャルウェブサイト
2014年9月27日日本公開予定

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