ディズニーミュージカル『Newsies』とファンとジャニーズの関係
あまりのエネルギーに圧倒され続けると、人はやがてうんざりしてしまう。
2012年のトニー賞で最優秀作曲賞と最優秀振付賞を受賞したディズニーのミュージカル『Newsies』(ニュージーズ)を観たわたしは、四方八方から次々と襲ってくる若者エネルギーにすっかりヘトヘトになってしまった。
エネルギーの大半はもちろん舞台から流れてくる。
しかし、舞台から流れ出るエネルギーに呼応するように客席からもエネルギーが放出され、360度全方位から襲いかかってくるのだ。

2011年9月にニュージャージー州のPaper Mill Play Houseでオープンして人気を得、翌3月にブロードウェイにやってきた『Newsies』は、1992年のミュージカル映画の舞台化だ。
物語は1899年にニューヨークで実際に起こった新聞売り少年達のストライキをベースにしている。
新聞を売って生活していた何のパワーも持たない少年達が、パワーの権化のようなピュリッツァーやハースト(そう、あのピュリッツァー賞のピュリッツァーと、映画『市民ケーン』のモデルにもなったハーストコーポレーション創始者のハースト)を相手に団結してストを決行し、待遇改善を勝ちとったという実話である。

Library of Congress, Prints & Photographs Division
映画では、バットマンことクリスチャン・ベイルが主役でストライキのリーダー、ジャック・ケリーを演じていた。
ビル・プルマンやロバート・デュバルも出演し、今ではマイケル・ジャクソンとのコラボレーションや『This Is It』『ハイスクールミュージカル』の振付・監督としても有名なケニー・オルテガの初監督作品でもある。
だがこの映画、あいにく全くヒットしなかった。
ひょっとしたらそれは、クリスチャン・ベイル少年の痛い歌声が一般観客受けしなかったせいかもしれない。
しかし、少年達が大勢で歌って踊って見る者を熱狂させるのに、歌の上手さはあまり関係ないことは既にジャニーズが証明済み。
公開当時は人気を得ることが出来なかったこの映画も、テレビ放映のおかげでじわじわとファンを増やし、とうとうカルト的な人気を得る。
舞台化された後は、瞳をハート型にした女の子達とその保護者達を劇場に引き寄せている。

舞台は映画と同じく、時は1899年、ところはニューヨーク。
孤児や家出少年達は、有り金を使って新聞を仕入れ、ヘッドラインを声高に叫んでは新聞を売ってその日のおまんまを食べている。
ところが、ニューヨーク・ワールド紙を発行するピュリッツァーが、新聞の卸値を100部につき10セント値上げする。
少年達のポケットから余分に出て行くなけなしの小銭は全てピュリッツァーの懐に集まり、大金持ちはさらに大金持ちになる。
値上げに反発したジャックは、頭の回る新人のデイヴィーとその幼い弟レスと共に仲間に団結を呼びかけ、ストライキを決行する。

そこに、このストライキを記事にして能力を証明しようとする新聞記者や、ジャックの隠れた才能に惚れ込むボードヴィルのスター、少年院の院長や州知事などがからまりあって物語は進んでいく。
ストを題材としたお話のお約束通り、買収やらスト破りなどの必須要素も登場し、少年達とピュリッツァーの闘いが展開していくのだ。
そして結末はご存知の通り。
舞台版の台本を担当したハーヴェイ・フィアスタインは、少年達のストを記事にして重要な役割を担う新聞記者の性別を変えている。
男性だった新聞記者は女性になり、ちょっとした血縁関係が与えられ、主役の恋愛対象も兼ねる。
その新聞記者、キャサリーン・プラマーを演じるのは、お転婆役が板についているカーラ・リンゼイ。
ミネアポリスのGuthrie Theatreでミュージカル版『大草原の小さな家』のローラを演じて印象に残った女優で(ちなみにTVでローラを演じていたメリッサ・ギルバートは、その舞台で母さん役を演じていた)、これがブロードウェイデビューとなった。

現在ジャック・ケリーを演じているのは、コーリー・コット。
ジャック役でトニー賞の候補にもなったジェレミー・ジョーダンが、テレビの仕事のために早々に降板した後を引き継いだ。

この2人と少年達は、ディズニーのミュージカルならこの人でしょう、というアラン・メンケン(『美女と野獣』『リトル・マーメイド』『アラジン』)の曲を、クリスチャン・ベイルやジャニーズのタレントとは比べ物にならない歌声で歌う。
そして大勢で舞台中をアクロバティックに跳ね回わって踊るのだ。
とんぼ返りをしたり、くるくる回ったり、ハイキックをしたり。
時には一度にそれ全部をやったり。

さすが若者。そのエネルギーレベルは常に高く、しかも均一だ。
言い換えるならつまり、常に皆元気で、文字通り踊って踊って踊りまくるということ。
しかし、常に元気な人と数時間も一緒に過ごすとこちらの元気が吸い取られてしまうように、「これでもか」と言わんばかりに元気でアクロバティックなダンスを見せ続けられると、なぜか曲の終わりが待ち遠しくなってくる。

だが、ダンスと曲が終わるのを待ち遠しく思っていたのは、どうやらわたしだけだったらしい。
客席では、例え10センチでも舞台に近づかんとばかりに前のめりになった女の子達が、舞台上でのダンスが続けば続くほどじっと座るのが難しくなり、音楽に合わせて身体を小さくはずませる。
特に、わたしの真後ろに座る推定年齢15歳の少女2人の元気さは群を抜いていた。
開幕前の会話から察するに、どうやらブロードウェイでの観劇はこれが初めてのようで、少女達の横に座るリッチなおばあさまからの太っ腹なプレゼントで観劇が実現したらしい。
フロントメザニンの中央席というなかなかの上席を2列ズドンと10人分、家族と孫娘の友達で占拠するご一行様は、幕が上がる前からお祭り気分。
件の少女2人など、既に興奮状態だ。
幕が上がっても雀のさえずりのような2人の会話は止まらず、少年を演じる俳優が舞台に登場するたびに歓声を上げて喜んでいる。
少年が踊ろうもんならその興奮は頂点に達し、彼女達の足は小刻みにステップを踏み、それと一緒にわたしの席も揺れ始める。
しかも、である。
どうやらオリジナルキャストアルバムを既に3000回は聞いたに違いない2人は、全ての歌をそらで覚え、曲のイントロ部分に重なる台詞も暗記しているらしい。
まるで舞台上の俳優に台詞を教えるかのごとく、俳優の口が開くよりも先に台詞をささやき、俳優と一緒になって全ての歌を合唱する。
わたしの耳元斜め後方30センチの位置から。
ところどころ歌詞を間違えては歌い直し、なぜ間違ったかコメントを差し挟みつつ。
前方からは俳優達の、後方からは少女達のエネルギーに気圧され、図らずも音声多重の混声合唱で、時にワンテンポ早すぎる台詞を伴ってミュージカルを見る羽目に陥ったわたしはつくづく思った。
ファンというものは、なんと恐ろしいものよ!
しかし、そこでふとある思い出が蘇ってきた。
かつて西城秀樹のファンクラブに入会していた友人は、ファンクラブ主催のペンライトの振り方教室や正しい声援の仕方教室に通っていたのではなかったか?
そうだ。
これがジャニーズのファン達だったら、きっとうんとお行儀がよく、他の観客の観劇の邪魔になることはしなかっただろう!
フォーリーブスの時代からジャニーズのタレントを見てきたにもかかわらず、一度も誰のファンにもならずに温度の低い少女時代を過ごしてここまでやって来たわたしが、ブロードウェイで『Newsies』を見てとうとうジャニーズのファンのファンになる。
ビバ! ジャニーズファン!
All Photos by Deen van Meer unless noted
Newsies the Musical
Nederlander Theatre
208 West 41st Street (Bet. Broadway & 8th St.)
オフィシャルサイト
プレビュー開始:2012年3月15日
オープン:2012年3月29日
クローズ:2014年8月24日(2018年8月4日情報更新)
Credits: Book by Harvey Fierstein, Composed by Alan Menken,
Lyrics by Jack Feldman, Directed by Jeff Calhoun,
Choreographed by Christopher Gattelli
Cast: Corey Cott, John Dossett, Kara Lindsay, Capathia Jenkins, Ben Fankhauser, Andrew Keenan-Bolger, Lewis Grosso and Matthew Schechter, Aaron J. Albano, Mark Aldrich, Tommy Bracco, John E. Brady, Ryan Breslin, Kevin Carolan
Amazon Link