Theater Review: Glengarry Glen Ross 『グレンギャリー・グレン・ロス』

アル・パチーノが再出演するデイヴィッド・マメットのGlengarry Glen Ross

アル・パチーノ(Al Pacino)のGlengarry Glen Rossと聞けば、さっと頭に浮かぶのはジェームズ・フォーリー監督の1992年の映画だ。

成績の悪い奴は容赦なく首にするという新方針を採用したシカゴの不動産会社を舞台に、弱肉強食の資本主義社会をなんとか生き延びようとするセールスマン達の2日間のパワーゲームを描いたドラマである。

日本ではなぜか『摩天楼を夢見て』というタイトルで公開されたこの映画で、アル・パチーノは狙った獲物は決して逃さない凄腕不動産セールスマン、リッキー・ローマを演じていた。

この映画の元となったのが、1982年にロンドンで初演され、ブロードウェイでは1984年3月に上演された、デイヴィッド・マメット(David Mamet)のピュリッツァー賞受賞作品。アメリカン・シアターのマスターピースの一つである。

その芝居が、2005年のリバイバル以来ブロードウェイでは二度目のリバイバルとして現在Gerald Schoenfeld Theatreにて上演中で、パチーノが出演している。演じているのは映画版ではジャック・レモン(Jack Lemmon)が演じた、落ち目で切羽詰まったベテランセールスマン、シェリー・レヴィーン役。

Al Pacino as Shelly Levene in Glengarry Glen Ross

Al Pacino as Shelly Levene in Glengarry Glen Ross

そりゃそうだろう。映画はかれこれ20年も前に作られた。エネルギッシュでのりにのっている4番バッター的なローマ役を今更再演するより、実年齢にもぴったりはまる渋い役をパチーノが選ぶのは当然だ。

ところが、ぴったりはまるだろうと予想していたその渋い役をパチーノが舞台上で演じているのを見ると、何やら違和感を覚える。

シェリーは、たとえ傷だらけでも泳ぎ続けなければ窒息死することを知っている、死にかけの鮫のような男。かつては「マシーン」と呼ばれるほどのやり手セールスマンだったが、そのマシーンも今や博物館行きの状態。なるほど、パチーノがこの役を演じるのを見ると、映画の記憶もうっすら残っているせいか、「これは92年のローマの20年後の姿だ」と思わせる。

しかし、アル・パチーノはやはりアル・パチーノ。
まるで金太郎飴のごとく、どこを切ってもアル・パチーノが顔を出す。

そのせいで、シェリーに必要な死にかけの鮫の哀れさと、それでも他の鮫がうようよする海を泳がずにはいられない瀬戸際感がなかなかこちらまで届いてこない。

「アル・パチーノなんだから、絶対にこの後すごい鮫になって蘇るのではないか?」

ついそう思ってしまうのだ。

Al Pacino in Glengarry Glen Ross

Al Pacino in Glengarry Glen Ross

今回この芝居を演出したダニエル・サリバン(Daniel Sullivan)は、去年パチーノをシャイロックにすえ、素晴らしい『ヴェニスの商人』を作り上げた。そこでパチーノは、シャイロックの哀愁と怒りを体中の毛穴から蒸散させていた。

今回はおそらく、パチーノの体から蒸散してしまうパチーノ臭が、シェリーという役にしっくり馴染まなかったのだろうか? あるいは、パチーノのシェリーが舞台上でもっと生きるためには、パチーノの出す水蒸気よりもさらに強烈でセクシーなエネルギーを放射するローマが必要だったのか?

ローマ役は役者に数々の賞をもたらす美味しい役だ。1984年のブロードウェイ初演時にはジョー・マンテーニャが、2005年のリバイバル時にはリーエフ・シュライバーがトニー賞を受賞しているし、パチーノも映画版でゴールデン・グローブ賞とオスカーの両方で助演男優賞にノミネートされた。(ちなみにパチーノはこの役では受賞していないが、この年、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(‘Sent of a Woman’)の盲目の退役軍人役でゴールデン・グローブ賞でもアカデミー賞でも主演男優賞にノミネートされ、両方で受賞した。)

今回、ローマを演じているのは、テレビ『ふたりは友達? ウィル&グレイス』(Will & Grace、邦題はこれまた不思議なタイトルだ)や、『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』(Boardwalk Empire)でおなじみのボビー・カナヴァーレ(Bobby Cannavale)。エミー賞やトニー賞にノミネートされたこともある実力のある俳優だ。しかし残念なことに、彼の演じるローマには物足りなさを感じてしまう。

Bobby Cannavale as Ricky Roma in Glengarry Glen Ross

Bobby Cannavale as Ricky Roma in Glengarry Glen Ross

ローマは、ひっかかった獲物にチクリと毒を刺し、しびれさせて動けないようにしてからそいつを喰らう、毒蜘蛛のようなセールスマンだ。ローマの持つ毒はその滑らかな言葉と一見洗練された物腰。彼を目の前にして彼の言葉を聞くはめになった獲物は耳から麻酔を流し込まれたようなもので、知らない間に頭が麻痺して、高価な不動産売買契約書にもすんなりサインしてしまう。

過去にこのローマを神業的な見事さで表現したのは2005年のリバイバル版でローマを演じ、トニー賞を受賞したリーエフ・シュライバー(Liev Schreiber)だ。

シュライバーの台詞まわしはまるでタップダンサーが足で刻むリズムを聞いているようで、ついつい引き込まれてそのエネルギーに飲み込まれてしまう。彼のローマに売り込まれたら、屋根の無い廃墟を豪邸と信じ、300年ローンで買ってしまうかもしれない。

しかし、カナヴァーレのローマは、話す言葉に麻酔の効果がほとんどなく、ローマのもつ胡散臭さを客席まですんなり届けてしまう。少なくともわたしが客ならば、すぐに身構えて犬小屋の売買契約書にもサインしないだろう。

リチャード・シフ(Richard Schiff、『ザ・ホワイトハウス』(West Wing)やジョン・C・マッギンリー(John C. McGinley『プラトーン』(Platoon)、『ウォール街』(Wall Street))、事務所のマネージャー役を演じて光ったデイヴィッド・ハーバー(David Harbour、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(Revolutionary Road))らが脇を固めるが、全てが何か物足りない。

ほんのちょっぴりボリュームを上げ、ほんのちょっぴりテンポを上げ、ほんのちょっぴり温度を上げ、ほんのちょっぴりスパイスを効かせ、ほんのちょっぴり塩味を濃くしたい、そんな気になる。

John C. McGinley as Dave Moss and Richard Schiff as George Aaronow in Glengarry Glen Ross

John C. McGinley as Dave Moss and Richard Schiff as George Aaronow in Glengarry Glen Ross

このプロダクションでは、芝居に登場する中華料理店を意識して、場と場の間でフォーチュンクッキーのような諺もどきの言葉が幕に映写される。だが、フォーチュンクッキーに書かれた言葉に何の魔力もないように、幕に映写された諺も芝居には何の効果も及ぼさない。

セールスマン達が「good leads」(契約締結につながる上客の情報)を欲しがるたびに、観ているこちらも「good leads」(良い主演俳優達)が欲しくなる。

アル・パチーノ出演のGlengarry Glen Rossと聞けば、1992年の映画を思い出すのは正しい反応だ。

そしてGlengarry Glen Rossのリバイバルと聞けば、2005年にジョー・マンテーロ(Joe Mantello)が演出したプロダクションを思い出し、「あれは素晴らしかった」とうっとりするのが正しい。

 

Photo by Scott Landis

Glengarry Glen Ross
Gerald Schoenfeld Theatre
236 West 45 Street (Between Broadway & 8th Street)
オフィシャルサイト

プレビュー:2012年10月19日
オープン:2012年12月8日
クローズ:2013年1月20日

Credit: Written by David Mamet, Directed by Daniel Sullivan
Cast: Al Pacino as Shelly “The Machine” Levene, Bobby Cannavale as Ricky Roma, David Harbour as John Williamson, John C. McGinley as Dave Moss, Richard Schiff as George Aaronow, Jeremy Shamos as James Lingk and Murphy Guyer as Baylen

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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