Theater Review: SPIDER-MAN: TURN OFF THE DARK 『スパイダーマン:ターン・オフ・ザ・ダーク』

ウルトラマンの背中のジッパーとミュージカル『スパイダーマン:ターン・オフ・ザ・ダーク』の関係

子どもの頃にデパートの屋上で見た、ウルトラマンや仮面ライダーのスーパーヒーロー・ショウ。現在ブロードウェイで上演中の、何かと話題にことかかないミュージカルSPIDER-MAN: TURN OFF THE DARKを見て思い出したのはまさにそれだった。

親がデパートに買い物に行く度に必ず立ち寄った屋上のミニ遊園地。その中の特設青空劇場で1日数回上演されていたスーパーヒーロー・ショウ。お小遣いに限りのあるわたしは、青空劇場の柵外に設置された3分10円のオバQの背中に乗り、正ちゃん気分で揺れながら、ウルトラマンやら仮面ライダーやらが悪者と戦うのを「そんなに面白くないなー」と横目で見ていたものだ。

ミュージカルPIDER-MAN: TURN OFF THE DARKを上演している巨大なFoxwood Theatreの座席に座るわたしの脳裏に、そんな子どもの頃の思い出がまざまざと蘇る。

あんなにお金がかかったというのに、結局あのスーパーヒーロー・ショウを豪華にしたような作品にしかならなかったのか……。」

豪華版デパートの屋上スーパーヒーロー・ショウことSPIDER-MAN: TURN OFF THE DARKを作るのにどれだけお金がかかったかと言うと、実に7500万ドルである。

ブロードウェイで上演される作品の製作費はだいたい500万〜1500万ドル程度。ドリームワークスがShreck the Musicalを2008年12月にオープンした際は、破格の2500万ドルの製作費がかけられた作品として巷を随分と騒がせたものだった。

ところが、ミュージカル『スパイダーマン』はその『シュレック・ザ・ミュージカル』規模の作品が3本、その他のブロードウェイ作品ならば5本から15本(!)作れるだけの資金が投じられた。どれだけスゴい作品になっているのだろうと観る者が期待を抱くのも当然だろう。

しかし、7500万ドルのスゴさを作品の中に見つけるのは、残念なことに難しい。

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物語はサム・ライミ監督の2002年の映画Spider-Man(邦題『スパイダーマン』)とほぼ同じ。高校生のピーター・パーカーがスパイダーマンになるまでと、サイエンティストのノーマン・オズボーンがグリーンゴブリンになるまでを描きつつ、ピーター憧れの隣の同級生メアリー・ジェーンとの恋や、スーパーヒーローとしての葛藤、スパイダーマンとグリーンゴブリンとの戦いを描いたものだ。

対決する敵や恋の相手こそ違うが、今年の夏に公開されたマーク・ウェブ監督のThe Amazing Spider-Man(邦題『アメイジング・スパイダーマン』)も基本的には同じようなお話。

舞台ミュージカル版で目新しいことと言えば、ピーターがクラスで発表するレポートとして蜘蛛になった機織り娘アラクネの神話が登場し、以降アラクネがスパイダーマンことピーター・パーカーの助言者となってちょっぴり入れ知恵することくらいか。

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Jennifer Damiano as Mary Jane Watson

ところが、ミュージカルのプレイビルを開くと、その、言わばおなじみの話に毛が生えた(というか蜘蛛の巣が余分にくっついた)ような物語を書くのに、3人もライターが必要だったことがわかる。
「なるほど、製作費7500万ドルの一部はここに消えたのだな」と想像する瞬間でもあるが、実は、「その話ならもう知ってます」というおなじみのストーリーに落ち着くまでかなりのすったもんだがあったのだ。

ご存知じゃない方のためにすったもんだを簡単に説明しておくと、6度の開演日の延期、俳優の大けがにもつながった深刻な事故5回、最終的に6ヶ月182回にわたった長いプレビュー期間と、そのせいでしびれを切らした各紙が通常はオープン後に出す劇評をオープン前に出して酷評するという異例の事態、それにビビったプロデューサー達が台本の大幅改訂を決意、オリジナルのストーリーに固執する演出家を解雇し、訴訟合戦をするというすったもんだである。

ミュージカルの『スパイダーマン』はもともと、『ライオンキング』でトニー賞を受賞した演出家ジュリー・テイモアが考え出したオリジナルストーリーを元に製作され、プレビュー公演を続けていた。その話では、ギリシャ神話に登場する蜘蛛になったアラクネがかなり重要な役割を担っていた。

ところが、演出家解雇劇の後、芝居を3週間シャットダウンして台本は大改訂。アラクネの役割はばっさりと切り捨てられる。そうして作られたのが、現在の「その話ならもう知ってます」というバージョン2.0だ。

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T.V. Carpio as Arachne

しかし、すでに起承転結の全てを知り尽くしたお話や、どうでも良いバカらしいお話であっても、それをうんと魅力的に見せて感動を呼び起こすのが舞台の底力というもの。ジュリー・テイモアがその才能を発揮し、『ライオンキング』で見せつけたのはまさにその舞台の底力だ。ディズニーアニメの子ども向けのお話を、大人の鑑賞に堪えるどころか誰もがその美しさに息を飲む作品に仕上げ、観客に驚きと喜びをもたらしたのである。(そしてテイモアにはトニー賞を、ディズニーにはロングランヒットのドル箱作品をもたらした。)

そのテイモアが十八番のマスクをデザインし、1992年のコッポラ監督映画『ドラキュラ』でアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞し、今年の1月に亡くなった石岡瑛子が衣装を、オペラの舞台美術デザインで知られるジョージ・ツィピンが舞台美術を担当し、U2のボノとジ・エッジによる音楽で見せた『スパイダーマン』が観客にもたらしたものはいったい何か?

「ウルトラマンの背中にジッパーが見える!」という感覚である。

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大金をかけて映画化されたアメコミはそれこそゴマンとある。今年の夏など、映画館はアメコミ祭りのように『ダークナイト ライジング』(The Dark Knight Rises)やら『アベンジャーズ』(The Avengers)やら『アメイジング・スパイダーマン』やらを次々と上映していた。ケープをまとったタイツ男こと、スーパーマンの新作Man of Steelも来年公開予定だ。

これらの新作も含め、アメコミの映画化作品で子ども向け作品として作られたものはほとんどない。
どれもシリアスなドラマと適度な笑いを盛り込み、観客をうわっと圧倒するアクションシーン、リアルなキャラクターデザインで大人向けにしっかり作られたもの(あるいは、しっかり作ろうとしたけど失敗したもの)ばかりだ。

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Patrick Page as Green Goblin

ところが、ミュージカルの『スパイダーマン』には、「子どもは多分これには気付かないだろう」的に残された、あの「ウルトラマンの背中のジッパー」のような安っぽさがたっぷりある。スパイダーマンが戦うグリーンゴブリンは、恐ろしい敵というよりも、緑のひれがビロビロ揺れるグロテスクな衣装を身にまとった、サービスたっぷりに観客いじりをして客席から笑いを搾り取ろうとする芸人のよう。

ティム・バートンが監督した1989年の映画『バットマン』で、ジャック・ニコルソン演じるジョーカーが、自分と同様に引きつった笑みが顔に張り付いた人間を増産しようとするが、それと同様、自らをミュータント化して誕生した元サイエンティストの芸人グリーンゴブリンも、「世の中の人間を全部ミュータント芸人にしてしまえ!」とばかりに元同僚達を変身させる。

出来上がったのは、まるで日本のバラエティ番組で変な気ぐるみを着せられた芸人集団。司会の芸人グリーンゴブリンが新人ミュータント芸人達をマーヴェルコミックでおなじみのヴィラン6人衆「シニスター・シックス」として観客に紹介する。

ハンドマイクを握った(いや、目の錯覚かもしれない)グリーンゴブリンに、「エレクトロ!」「リザード!」「スォーム!」と一人一人紹介された新人ミュータント達は、かつてデパートの屋上で司会者に紹介されたショッカーの怪人達が子どもの前でおどけて見せたように観客に特技を披露して見せる。

その姿は、『バロムワン』のドルゲに細胞をおかされたドルゲマンが、電線マンこと伊東四朗の司会に促されて電線音頭を踊るかのよう。いやはや、デパートの屋上スーパーヒーロー・ショウ以外の何ものでも無いではないか!

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Reeve Carney as Peter Parker and Jennifer Damiano as Mary Jane Watson

そのスーパーヒーロー・ショウの背景を飾るのがツィピンによる「飛び出す絵本」のような舞台美術。美しい線の集合体で描かれた背景の前でポップアップする「飛び出す絵本」はあくまで平面的で、なんとも言えないハリボテ感を出してこの作品の原作が漫画であることをこれでもかと観客に思い知らせる。

その「飛び出す絵本」の単純なしかけが最高の効果をもたらすのは、二幕目で見せるクライスタービルのてっぺんから地上を俯瞰するシーン。「ほほう!」と思わず感心するが、残念なことに俯瞰図となるまでにやたらと時間がかかる。そのせいで、観客席に座る良い子のみんなは手拍子で応援したくなるはずだ。

ちなみに、観客席に座る良い子でないわたしはと言えば、同じくマスクと衣装、平面的な絵で漫画チックさを美しく表現していたウォーレン・ベイティ監督主演の1990年の映画『ディック・トレイシー』をつい思い出し、この作品でオスカーを受賞したリチャード・シルベルトとリック・シンプソンがまとめた美術を懐かしんでいたのだが。

 

Spidey-03U2のボノとジ・エッジが初めて舞台ミュージカルの製作に加わった作品としても注目を浴びていた『スパイダーマン』の音楽は、残念なことに非常に退屈だ。彼らのロックミュージックが、この「もう知ってます」なお話のスーパーヒーロー・ショウをきっと揺さぶってくれるだろうと期待していたというのに、ほとんど揺さぶってくれない。

なるほど、多くの曲にU2臭がぷんぷんただよっている。その曲をいかにもボノボノしく歌う俳優リーヴ・カーニィ(ピーター・パーカー/スパイダーマン役)のハスキーな歌声はセクシーで、そのキュートなルックスとあいまって、胸をキュンキュン言わせながら目にハートマークを浮かばせる観客も多い。

しかし、カーニィのキュートさを持ってしても、「この音楽はひょっとして、U2の大ファンのシアターおたくが書いたのか?」と疑いたくなるような似たり寄ったりの曲からは、興奮を得ることはできない。何度聞いても耳に残るのはミュージカルのCMにも使われている曲の一節のみ。(「Boy Falls From The Sky」の一節だと思うのだが、曲名すらはっきり記憶に残っていない。)

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Reeve Carney as Spider-Man/Peter Parker

しかし、「待ってました!」とばかりに心臓の鼓動が高鳴るシーンがある。スパイダーマンとグリーンゴブリンの空中戦のシーンだ。これにこそ莫大な費用がかかったと言われている、アメリカンフットボールのTV中継に使われるワイヤーでフィールド上を縦横無尽に動くカメラにヒントを得て開発された装置が、ここで最大の威力を発揮する。

ウルトラマンの背中のジッパーは見えないお約束なのと同様、スパイダーマンやグリーンゴブリンの腰に付けられた2本のぶっといワイヤーケーブルは見て見ぬフリをし、スピード感を出すためにスパイダーマン役もグリーンゴブリン役も複数の役者が演じて順繰りに前後左右からブイーンと飛び出してくることも気付かないフリをすれば、かなり楽しめる迫力あるアクションシーンだ。

「うひょー! あんな風にグリーンゴブリンの背中に3分10円で乗ってフライングできたら、さぞ楽しいだろうな〜」

豪華版デパートの屋上のスーパーヒーロー・ショウを見て、心からわくわくした瞬間である。

All Photos by Jacob Cohl

注:解雇された演出家ジュリー・テイモアとプロデューサー陣との訴訟は、どうやら8月末に仮ではあるが和解合意に達したもよう。

SPIDER-MAN: Turn Off the Dark
Foxwood Theatre
213 West 42nd Street (Bet. Broadway & 8th St.)
オフィシャルサイト

プレビュー開始:2010年11月28日
オープン:2011年6月14日
クローズ:2014年1月4日
上演時間:2時間30分

Credits: Book by Julie Taymor, Glen Berger and Roberto Aguirre-Sacasa, Music and Lyrics by Bono and The Edge, Directed by Philip William McKinley, Original Direction by Julie Taymor, Choreography by Daniel Ezralow, Scenic Design by George Tsypin, Costume Design by Eiko Ishioka, Lighting Design by Donald Holder, Sound Design by Jonathan Deans, Musical Supervision by Tesse Gohl, Additional Creative Team of Philip William McKinley, Roberto Aguirre-Sacasa, and Chase Brock
Cast: Reeve Carney (Spider-Man/Peter Parker), Jennifer Damiano (Mary Jane Watson), T.V. Carpio as Arachne, Patrick Page (Norman Osborn/Green Goblin), Michael Mulheron (J. Jonah Jameson)

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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