Theater Review: Billy Elliot the Musical 『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』

ブロードウェイでの観劇最後のチャンス!
鉄の女サッチャーもぶっ飛ばす家族愛と多様性讃歌

ロンドンのウエストエンドでスマッシュヒットを飛ばし、その後ブロードウェイに来るや2009年のベストミュージカル賞を含む10部門でトニー賞を受賞したBilly Elliot the Musical、それがとうとう2012年1月8日に終演を迎える。

この作品は、世界中でヒットした2000年の英国映画『リトル・ダンサー』(Billy Elliot)を舞台ミュージカルにしたものだ。映画の脚本を書いたリー・ホールがミュージカルの台本と歌詞を書き、映画を監督したスティーブン・ダルドリーが舞台の演出を手がけた。

そう聞くと、「きっと映画を忠実に舞台ミュージカル化したものに違いない」と想像することだろう。しかし、そう思ってこの舞台を観ると、映画よりもさらに深みのある社会情勢の描写と、それがくっきりと浮き彫りにするドラマの深さに驚くはずだ。

映画と舞台の違いはしょっぱなから明らかだ。物語の舞台は映画と同じく1980年代半ばの英国の炭鉱町。しかし、幕が開くや劇場の観客がまず思い知らされるのは、1984年に英国の炭鉱町が置かれた厳しい状況と彼らの思いである。

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The Cast of Billy Elliot the Musical

燃料の主流は石炭から石油に移り代わろうとしている。「鉄の女」サッチャー政権は採算の合わない国内の石炭産業を合理化するつもりでいる。炭鉱の労組はそれを阻止しようと連帯を呼びかけ、鉱夫達はストライキをし、ピケを張る。その中には主人公の少年ビリー・エリオットの父や兄もいる。しかし政府は機動隊を動員してそれを鎮圧しようとする。

映画では、ビリー少年が音楽に乗ってベッドの上でぴょんぴょん跳ねながらキュートに空中でポーズをきめていたオープニングのシーンが、ミュージカルでは、サッチャリズムが当時の英国民の生活に落とした影と社会状況を観客にまず知らしめるシーンとなっている。貧しいながらも自分たちの生活を守ろうと連帯し、身体を張って闘う人間達の姿とその力強い声のコーラスが、観客達の胸に何やら後で発熱しそうな固まりを密かに埋め込んでしまう。

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The Cast of Billy Elliot the Musical

主人公ビリーを囲む物語は映画と変わらない。母を亡くし、父、兄、祖母と暮らす11歳のビリーは、苦しい家計の中、父が捻出してくれたお金でボクシング教室に通っている。でも、心惹かれるのはボクシングではなく、同じ部屋で開かれているバレエ教室のほう。ビリーは父や兄に内緒でボクシングを止め、バレエの練習に加わる。

バレエを始めたばかりでぎこちないポーズしかとれないビリーが、やがて正確で美しいアチチュードのポーズでしっかりとバランスをとり、ふらつくことなくピルエットする。それを目にした時、先ほど胸に埋め込まれた得体のしれない固まりが、またもや胸の内でじんわり熱くなる。

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Haydn Gwynn as Mrs. Wilkinson and David Alvarez as Billy

炭鉱町ダーラムでは、父が炭鉱夫なら息子もやがて炭鉱夫になるのが当たり前。男は男らしくボクシングやレスリングをするもので、バレエは当然女がするものだ。そんな中、ビリーが「男らしい」ボクシングに使うべき貴重なお金を「女々しい」バレエに浪費していることを知った父は、男がバレエなどもってのほかと猛反対する。

一方ビリーの才能に気づいたバレエ教師は、ビリーにロイヤル・バレエ・スクールの入学テストを受けてみろと薦める。だがビリーは、例え貧乏であってもそれを守るために必死に戦う父や兄の姿を目の当たりにし、バレエに対する自分の感情を押し殺そうとするのだ。

廃れる一方の石炭産業に一生を捧げてきた父は、そんなビリーの思いを察し、ある大きな決断を下す。

ブロードウェイのオリジナルキャストでビリーの父、DADを演じたのは、この役で初のトニー賞を受賞したグレゴリー・ジバラ(注)。余談だが、実はジバラ氏とはかつて同じアパートメントビルに住んでいたご近所さん同士だ。プライベートでも家族思い、隣人思いで、ビルのエントランスホールや道でばったり出会うと必ず声をかけてくれ、最近見たブロードウェイのショーの話や、家族の話をしてくれる気さくな好人物だ。

そんな彼が演じるDADは、家族を深く愛し、家族のためには信念を曲げることもいとわない父親の情の深さを実に自然とにじみ出していた。

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Gregory Jbara as DadとAlex Ko as Billy

音楽は英国が誇るミュージシャン、エルトン・ジョン卿。映画Billy Elliotを舞台ミュージカルにするべきだと自らリー・ホールにアピールしただけのことはあり、時にポップでロック、時に伝統的なミュージカルナンバーで劇場を満たす。また、原作映画でもうまく使われていたチャイコフスキーの『白鳥の湖』のメロディをちらりと使い、映画を知るものをにやりとさせてくれる。

そして、ダンスが物語の重要な役割を持っているだけあり、このミュージカルにはダンスシーンが豊富なことも嬉しい。バレエにタップ、感情をそのままむき出しに表すダンスと、それぞれのシーンに違和感無く溶け込むピーター・ダーリングの振り付けは秀逸だ。

ダンスと言えば、気になるのが原作映画のラストに登場する有名なバレエシーン。映画は、公開の5年前にロンドンで初演されて話題をさらったマシュー・ボーン演出のコンテンポラリーダンス作品『白鳥の湖』を効果的に使い、主役のザ・スワンを演じた英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、アダム・クーパーを、大人になったビリーとして最後に登場させて観る者に嬉しい驚きを与えていた。しかも、映画のオープニングで少年ビリーがベッドの上でジャンプしながら見せるポーズが、ラストに登場するザ・スワンの印象的なポーズの元となっていることもさりげなく見せるというニクさもあった。

この有名なラストシーンがミュージカルでは一体どう表現されているのか。

実は、ミュージカル版にはこのシーンは無いのである。しかし、その代わりに予期せぬ時に予期せぬ形で用意されているのは、少年のビリーと大人になったビリーとの幻想的なダンスシーンだ。

光と影のコントラストが美しいリック・フィッシャーの照明の効果もあり、ポエティックで優雅なシーンに仕上がっていて必見だ。

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Peter Mazurouski as Billy

Billy Elliot The Musicalは、音楽、ダンス、ドラマの3本全てがそろったミュージカルだ。
しかもそのドラマには厳しい現実と希望にあふれる夢とが絶妙のバランスで混ざり合い、観る者を鼓舞して止まない。
多様性や個性の讃歌とも言えるこのミュージカルが、来月で幕を閉じ、ブロードウェイから去ってしまうというのはなんだか少々寂しい気がする。

注:現在DAD役を演じているのはグレゴリー・ジバラではなく、ダニエル・ジェンキンズ

Top Photo: Jacob Clemente as Billy
All Photos by Carol Rosegg

Billy Elliot the Musical
Imperial Theatre
249 West 45th Street (Bet. Broadway & 8th Avenue)
オフィシャルサイト

プレビュー開始:2008年10月1日
オープン:2008年11月13日
クローズ:2012年1月8日
上演時間:2時間50分(インターミッションを含む)

Credits: Book and lyrics by Lee Hall, based on the Universal Pictures/Studio Canal film; music by Elton John; directed by Stephen Daldry; choreography by Peter Darling; sets by Ian MacNeil; costumes by Nicky Gillibrand; lighting by Rick Fisher; sound by Paul Arditti
Cast: Haydn Gwynne (Mrs. Wilkinson), Gregory Jbara (Dad), Carole Shelley (Grandma), Santino Fontana (Tony), David Bologna and Frank Dolce (Michael) and David Alvarez, Trent Kowalik and Kiril Kulish (Billy)

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