Movie Review: The China Syndrome『チャイナ・シンドローム』

福島の原発事故で思い出す、一級の娯楽サスペンス映画 『チャイナ・シンドローム』で描かれた人間の恐ろしさ

「チャイナ・シンドロームって?」

南カリフォルニアの地方TV局に勤める女性キャスター、キンバリー・ウェルズが問うと、科学者はこう説明する。

「原子炉の炉心が水から出てしまうと核燃料の熱が限界を超えてメルトダウンし、理論的には地球の裏側の中国まで達する。溶けた核燃料は多くの人命を奪い、やがてペンシルバニア州ほどの大きさの土地が不毛の地となってしまう。」

1979年3月16日に映画『チャイナ・シンドローム』(The China Syndrome)がアメリカで公開された当時、「チャイナ・シンドローム」という言葉は一般的ではなく、原発にかかわる者や科学者の間でのみ半ばブラックジョークのように使われていた言葉だった。

だが、映画公開からわずか12日後の3月28日、映画の中に登場するこの科学者が偶然引き合いに出したペンシルバニア州で、映画の中で描かれた原子炉冷却剤喪失事故が実際に起こってしまう。

スリーマイル島原子力発電所の事故だ。

その後この映画は、「チャイナ・シンドローム」という言葉の意味と、スリーマイル島の事故と共に、多くの人の記憶に刻まれることになった。

The China Syndrome 3

映画はある事故を発端に始まる。

日頃は他愛も無いネタしか任されないTVキャスター、キンバリー(ジェーン・フォンダ )にチャンスが訪れた。エネルギー特番のために原子力発電所を取材することになったのだ。

ステップアップを狙っているキンバリーがフリーランスのカメラマン(マイケル・ダグラス)と音響係のクルーとともに発電所の制御室を見学していると、地震が起こる。所内には警報が鳴り響く。よくある「タービン停止」が起こったのだという。

技術者達は落ち着いて事態に対処している様子だったが、それも束の間、すぐに二度目の警報が轟き、制御室の状況は一変する。何かとてつもないことが起こっているらしい。制御室で指揮をとるジャック(ジャック・レモン)の素早い対応により危機は脱したが、キンバリー達はその一部始終を秘密裏にカメラに収めていた。

スクープだ。

喜んでTV局に戻ったものの、無断で撮影した映像の放送を上は許可しない。電力会社から圧力もかかっている様子だ。何かがおかしい。今まで単なるパフォーマーだったキンバリーは、ジャーナリストとしての選択を迫られる。

一方、原子力発電所を愛してやまないジャックは地震の後に感じた第二の震動に異常を感じ、持ち前の実直さから独りで調査を開始していた。そして、存在してはならない事実を発見してしまったジャックもまた、ある選択を迫られる。

そしてこの二人の決断が別のメルトダウンを引き起こすのだ。

The China Syndrome 1

利益や効率を優先し、事故や安全性の問題を隠そうとする電力会社。圧力を受けて、人命にかかわったかもしれない大事故のニュースを放送しないマスコミ。この映画で描かれるのは原子力発電所の恐怖ではなく、人間の恐ろしさだ。

おろそかに扱うととてつもない大事故を起こす原発を、経済性や効率といった理由でずさんに建設して運営する人間のおごりや愚かさ、そしてそこから生まれる恐怖を、丁寧に描かれたキャラクターを通してスリリングに描いている。

それを盛り上げるのが音楽。いや、音楽の不在と言うべきか? タイトルクレジットのバックに流れる1曲を除いて一切の音楽が排除され、その静けさがドラマの緊迫感をさらに引き立てる。

The China Syndrome 2

ジェーン・フォンダは野心あふれるキンバリーを知的且つ魅力的に演じ、この上なくリアルだ。上司とリチャードの板挟みになり、なんとかうまくまとめようとするシーンの目や指の動きには特にほれぼれするし、レタスを食べるシーンはコミカルで良い。

ジャック・レモンは、神経症的なおしゃべりや動きといったお馴染みのレモン臭をぐっと抑え、実直な技術者ジャックを渋く演じている。

2人はこの演技でアカデミー賞の主演女優賞と主演男優賞にノミネートされた。レモンはまた、カンヌ国際映画祭の男優賞にもノミネートされ、受賞している。

また、しつけられていない犬のような(実際にヨークシャーテリアのようによく吠え、毛で覆われている)マイケル・ダグラスのカメラマンもはまっている。

映画は原発事故を中心としたドラマとサスペンスを描くと同時にTVの内幕をあちらこちらで丁寧に見せ、ニュースやインタビューが演出された「真実」であることを仄めかすのも忘れない。

全てが終結したラスト、TV局のコントロールルームに並ぶ二つのスクリーンに、ある皮肉な映像が映る。細部まで秀逸だ。

*「トライアングルT-shot!」2011年7-8月号掲載記事を加筆改訂

The China Syndrome 『チャイナ・シンドローム』
監督:ジェイムズ・ブリッジス
製作:マイケル・ダグラス
脚本:マイク・グレイ、T・S・クック、ジェイムズ・ブリッジス
出演:ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン、マイケル・ダグラス、ジェイムズ・カレン、ウィルホード・ブリムリー
撮影:ジェイムズ・クレイブ
編集:デイヴィッド・ローリンズ
配給:Columbia Pictures
US公開日:1979年3月16日
日本公開日:1979年9月15日

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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