Theater Review: Fela! 『フェラ!』

思わず腰ふるエネルギー爆発ミュージカル!

2008年9月にオフ・ブロードウェイで1ヶ月だけ上演されて大絶賛され、1年後にブロードウェイに移ってきたミュージカルFela!は、アフロビートの創始者で政治活動家のフェラ・クティの半生を描いたミュージカルだジェイ-Zや、ウィル・スミスとジェイダ・ピンケット・スミス夫妻がプロデューサーとして名を連ねていることでも話題になった作品である。

そのFela!を見ようと、ユージーン・オニール・シアターにたどり着いたのはいつものように開演時間ぎりぎり。早足で歩いたせいで弾んだ息を整えつつ扉をくぐると、観客達の楽しそうな声と劇場中に溢れるビートの効いた音楽、色彩豊かな照明とアートの洪水にあっという間に飲み込まれてしまった。

舞台上では既にバンドが演奏している。客席のノリやバンドメンバーの汗から判断すると、演奏は随分前に始まったようだ。顔にアートペインティングをほどこした数人の女性ダンサーも、リズムに合わせて腰をくねらせている。

ダンサー達が身につけているのは、プリミティブなプリントの布を使った腰ミノのようなミニスカートや、レザーのボンデージ風ベルトでアクセントをつけたイカした衣装。腰の動きに合わせて布やベルトが揺れ、カラフルな照明がその揺れを彩っている。

ダンサーの背後にはトタン板が貼りめぐらされた殺風景な壁と足場、それを縁取るコードと電球が見える。武骨なセットとは対照的に、大胆なアートが舞台と客席とを隔てる見えない「第四の壁」を超えて客席にまで広がっている。

舞台からセットがはみ出して客席に進出する美術は何度も見たことがあるが、これは今までに見たどれとも違う。客席も舞台の一部であるかのような不思議な一体感と奥行きが感じられ、ブロードウェイの劇場らしからぬ雰囲気を出している。

既に自分の席に落ち着いていた5、6人の観客を立ち上がらせ、オーケストラ席のド真ん中という最上席に腰を下ろしたわたしがあたりを見回すと、周りの観客のほとんどがパラソルの乗っかったのやら乗っかってないのやらの飲み物を手にしている。隣の席に座っていたキュートな女性は、腕時計に落とした視線を劇場後方につと移したと思ったら、決然と立ち上がり、長い脚で座席の背もたれをまたいでバーに走り出す。

不思議に思いながらプレイビルを開いたわたしがそこに見つけたのは、ブロードウェイの劇場では見たことがない文章が書かれた蛍光色の紙っぺら。

「バー営業中! 二幕目の始まりまで開いてます!」
「ショウをご覧の間、どうぞお席でお飲みください!」

なんと、酒を飲みながら観劇できる。どうりで客席の雰囲気がいつもと違うはず。アルコールのせいだったのだ。しかし、わたしのこの短絡で浅はかな憶測は、ミュージカルFela!が始まってほんの数分で間違いであることが明らかになる。

アルコールが血管の中を走ると気分が高揚するがごとく、劇場を包み込むアフロビートのリズムは毛穴からじんわりと体内にしみ込み、心臓に到達する。そして、ズンズンズンというリズムとドクンドクンドクンというビートがひとつになり、自分の身体の中でアフロビートが鳴り響く。アルコールのせいではない。音楽のせいだ。

いやはや、これで酒でも入っていようもんなら、自分がクラブにいると思い込んで踊りまくっていたことだろう。しかし、それこそジム・ルイスとともにこのミュージカルを書き、振り付けと演出を担当した世界的な振付家、ビル・T・ジョーンズの狙いだったのである。

Fela!-Kevin Mambo-3

Kevin Mambo as Fela Anikulapo Kuti in Fela!

その証拠は舞台の上にでかでかとかかげられていた。

「SHRINE(聖堂)」

フェラ・クティが、ナイジェリアのラゴスに作ったナイトクラブの名前。

ロンドンの大学で音楽を学び、マイルス・デイヴィスやジェームス・ブラウン、フランク・シナトラ(!)に影響を受けたフェラの音楽は、都会的な臭いとアフリカの臭いが混ざり合い、ジャジーでファンキー。ジャンベとブラスとエレキギターが奏でる曲はゴキゲンだ。

自身のバンドのツアーで滞在したアメリカでブラックパンサー党やマルコムXの思想に影響を受けて以来、歌詞には黒人の解放やパン・アフリカニズム等の政治的なメッセージが込められるようになり、時折はさまるコール&リスポンスによって、彼のメッセージはゴスペルのように聴衆の耳の奥まで届く。

軍隊をゾンビと表現した代表作「Zombie」等、ナイジェリアの軍事政権の圧政や富裕層を批判する作品を発表するフェラは、西アフリカ地方随一の大スターとなったが、当然ながら当局にとっては巨大な目の上のたんこぶ。

政府からの妨害を受け続け、不当逮捕、投獄、釈放を繰り返し、ついに作ったのが有刺鉄線で囲んだ「カラクタ共和国」と呼ぶコミューンだ。そしてその中に作ったナイトクラブが、彼の活動の拠点となるShrine。

ミュージカルは、1978年の夏、世界的にも有名な女性解放運動家で「アフリカの母」とも呼ばれるフェラの母、フンミラヨ・アニクラポ・クティの死の半年後に行なわれた、Shrineでの最後のコンサートという設定だ。

Sahr Ngaujah as Fela Anikulapo Kuti in Fela!

Sahr Ngaujah as Fela Anikulapo Kuti in Fela!

そう。つまりはブロードウェイの劇場はフェラのナイトクラブで、観客はナイジェリア政府当局の包囲をかいくぐってカラクタ共和国の有刺鉄線を超え、命がけでShrineでのライブを聞きに集まった客達というわけだ。

そんなこととはつゆ知らず、フェラ・クティの半生を、フェラ・クティ自身の音楽に乗せて描いたミュージカル、すなわち『ジャージー・ボーイズ』のようなジュークボックス・ミュージカルを予想して劇場にやってきたわたしは、ものの見事に裏切られた。ミュージカルが始まってほんの数分で、2009年のブロードウェイから時空間を超えて1978年のナイジェリアにポンと放り込まれたのである。

その時空間の旅を助けるのは、尊大な態度と色気とカリスマを持ってフェラを演じる俳優(サ・ンガウジャとケビン・マンボのダブルキャスト)。刺繍があしらわれたピンクやブルーのベルボトムパンツをセクシーに着こなし、腹のシックスパックを見せびらかし、見事な口パクでバリトンサックスを吹き(正確には吹いているように見せ)、聴衆を魅了しながら劇場中の観客をコンサートの一部にしてしまう。

そして、Spring Awakening(春のめざめ)でトニー賞を受賞したビル・T・ジョーンズが振り付けた、ダンサー達を次から次へと病院送りにするほど過酷なダンスを、ショウが始まる前から終わるまでたっぷり、週に8回も披露してみせるアンサンブル達の底力にも目を見張る。

たとえダンサーでなくとも、音を聞いたら自然に腰を振ってしまう音楽を提供するのは、アレンジと演奏も担当するアンティバラス・アフロビート・オーケストラ(Antibalas Afrobeat Orchestra)。ブルックリンを拠点に世界的に活動するこのバンドで、パーカッションは神戸出身のYoshi Takemasaが演奏する。

実際にフェラ・クティのバンドメンバーだったミュージシャン達も認めるこのバンドのアフロビートを聞くと、自分がブロードウェイの劇場に居ることをすっかり忘れてしまう。

Fela!-Kevin Mambo-2

Kevin Mambo as Fela Anikulapo Kuti in Fela!

そして、実際のShrineを知る人にまで「まるで本当のShrineに居るようだ」と言わしめたマリーナ・ドラギッチのセットと舞台美術。さらに、そのShrineを時にポップに、時に荘厳に見せる美しいロバート・ウィゼルの照明の力と、効果的にトタン板に映し出されるピーター・ニグリニの映像の力も大きい。

この作品を「偉大なミュージシャンであり活動家であるフェラの半生を描いたミュージカル」と単に呼ぶことは難しい。これは、今を生きる現代人に今は亡きフェラを体験させるために作られた、今までのブロードウェイ・ミュージカルの枠を超えた全く新しいミュージカルだ。

全てが渾然一体となってよりパワフルなエネルギーを生み出しているこの作品を観た後、わたしに口にできるのはただひとつ。

フェラのコールに応えたリスポンス、「Yeah Yeah!」だ。

Photo by Monique Carboni

Fela!
Eugene O’Neill Theatre
230 West 49th Street (Bet. Broadway & 8th Avenue)
オフィシャルサイト
プレビュー開始:2009年10月19日
オープン:2009年11月23日
クローズ:2011年1月2日
上演時間:2時間20分

Credits: Directed and choreographed by Bill T. Jones; book by Jim Lewis and Bill T. Jones; music and lyrics by Fela Anikulapo-Kuti; additional lyrics by Jim Lewis; additional music by Aaron Johnson and Jordan McLean; conceived by Bill T. Jones, Jim Lewis and Stephen Hendel, based on the life of Fela; music director/supervisor, orchestrations and arrangements by Bill T. Jones; sets and costumes by Marina Draghici; lighting by Robert Wierzel; sound by Robert Kaplowitz; projections by Peter Nigrini
Cast: Sahr Ngaujah and Kevin Mambo (alternating as Fela Anikulapo-Kuti), Lillias White (Funmilayo Anikulapo-Kuti), Saycon Sengbloh (Sandra Isadore), Ismael Kouyaté and Gelén Lambert

*NY Niche 2010年5月号掲載記事を加筆修正したものです。

2010年のトニー賞授賞式でのパフォーマンス

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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