Theater Review: A Little Night Music 『リトル・ナイト・ミュージック』

老いも若きも中年も、ワルツを踊って相手を変える!
イングマール・ベルイマンのコメディ『夏の夜は三たび微笑む』をベースにしたソンドハイムのミュージカル

キャサリン・ゼタ=ジョーンズほど美しくゴージャスで、お色気たっぷり、ウィットたっぷりの自信満々女でさえ、まだアヒルのオマルを使っていそうな18歳の小娘から男を取り戻すことができない世の中なんて、ゼタ=ジョーンズ以下の40女はいったいどうすりゃ良いというのか?

去年の12月もそろそろ終わりにさしかかった頃、ブロードウェイでオープンしたばかりのリバイバル・ミュージカルA Little Night Musicを見ていたわたしは、心の中で小さく悪態をついた。

時は20世紀初頭、舞台は夏の白夜のスウェーデン。登場するのはそれぞれ間違った相手とくっついている年齢の異なる男女達だ。

若すぎる妻と再婚した中年男。
父親の再婚相手に恋する息子。
その息子をもてあそぶ奔放な女中。
昔の愛人を新妻から奪おうとする女優。
それを邪魔する女優の愛人。
そして、女優から夫を取り戻そうとするその妻。

4組の男女の思惑がもつれあう恋の三角関係を、スティーヴン・ソンドハイムの洗練されたワルツに乗せて、軽快でウィットに富み、それでいてダークなラブコメディに仕上げたのがA Little Night Musicだ。

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Angela Lansbury as Madame Armfeldt, Catherine Zeta-Jones as Desiree Armfeldt, Keaton Whittaker as Fredrik Armfeldt in A Little Night Music

観ていると、まるでシェークスピア喜劇のミュージカル版か、はたまたウッディ・アレンのスカンジナビア版時代物ミュージカルを観ているような気になる。恋人たちが相手を取りかえ、最後にはそれぞれふさわしい相手とくっつくなんて、まるでシェークスピアの『夏の夜の夢』だ。しかも、台詞はウィットに富み、歌詞は詩的とくる。

その上、ミュージカルの元になったのはウッディ・アレンが賞賛を公言してはばからないスウェーデンの映画監督、イングマール・ベルイマンの作品。しかも、ベルイマンを一躍世界的に有名にした1955年のコメディ『夏の夜は三たび微笑む』(Smiles of a Summer Night)である。それをヒュー・ウィーラーが台本を、ソンドハイムが音楽と歌詞を書いてミュージカルにし、1973年にブロードウェイで初演を迎えたのがこの作品だ。

実は、これをソンドハイムの最高傑作とする声は多い。

さもありなん。最も有名で、切なく美しい「Send in the Clowns」をはじめ、軽快な「You Must Meet My Wife」やコミカルな「The Glamorous Life」に、早口言葉のような「The Mille’s Son」、カンパニー全員がそれぞれの歌声をかぶせながら美しく合唱する「A Weekend in the Country」などなど、耳と頭と心に残る曲名を上げ始めたらキリが無い。それなのに、ブロードウェイでのリバイバルは初演以来今回が初めてなのだ。

その初のリバイバルとなる今回のプロダクションは、2008年にロンドンのMenier Chocolate Factoryで上演されたトレヴァー・ナン演出の作品を、アメリカ仕様のキャストにしたもの。出演するのは映画『シカゴ』でアカデミー賞を受賞したハリウッドスターのゼタ=ジョーンズと、舞台、映画、テレビと全ての分野で大成功をおさめ、5つのトニー賞受賞歴を誇るアンジェラ・ランズベリー。(ひょっとして、ジェシカおばさんと言ったほうが通じるか?)

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Angela Lansbury as Madame Armfeldt and Catherine Zeta-Jones as Desiree Armfeldt

しかし、このキャスティングが発表されて以来、ゼタ=ジョーンズは、引退を考える女優デジレ・アームフェルド役には美しすぎ、若すぎるというささやき声があちらこちらから聞こえてきた。

確かに、初演でデジレを演じたグリニス・ジョーンズは当時50歳くらいだし、1977年に作られた駄作の誉れ高い映画版でこの役をやったエリザベス・テイラーも当時やはり45歳くらい。しかも、この映画のテイラーはかつての美貌に随分と陰りを見せていて、覇気がないその姿は実年齢よりも老けて見えた。

また、1995年にロンドンのナショナルシアターでデジレを演じて大絶賛されたジュディ・デンチも、当時は既に60歳を超えていた。

しかし、実際にベルイマンの映画でデジレを演じた色っぽいエヴァ・ダールベックは、当時まだ30代半ば。だいたい、現代でも40代の女優にはなかなか良い役が無いと言われ、素晴らしい女優達がどんどんと観客の目の前から姿を消して半ば引退してしまうのだ。当年とって40歳のゼタ=ジョーンズがデジレを演じるのになんら文句は無く、むしろ適役。それに、ナンのプロダクションでは全体的な年齢がぐんと下がったため、よりオリジナル映画に近い印象である。あとは演出と役者達のパフォーマンスが調和して、素晴らしい舞台に仕上がっているかどうかの問題となる。

そして問題のそのパフォーマンスは?

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Catherine Zeta-Jones as Desiree Armfeldt

ゼタ=ジョーンズのデジレには、引退の崖っぷちにいる女優感は全くただよっていない。どちらかというと、女優業にもつかの間の恋にもそろそろ嫌気がさし、昔の恋人を取り戻して落ち着こうと恋の駆け引きを始める(そして結局4組のカップルを巻き込む)、我がままではあるがチャーミングな女優として描かれている。そんなデジレをゼタ=ジョーンズは、少々「芝居がかった」感を残しつつもそつなく演じる。

と、ここで冒頭に戻る。美しくゴージャスで、お色気たっぷり、ウィットもたっぷりで自信満々。砂時計のようなボディラインを美しく引き立てる衣装に身を包み、舞台上にその姿を見せるだけで、この女を欲しがらない男などいやしないと観客に納得させるゼタ=ジョーンズのデジレ。そのデジレが、小便臭い幼妻から男を奪うことができないのだ。

そんな女が自分と男を道化に例えて歌う「Send in the Clowns」(道化をよこして)には、過去に同じ曲を聴いて感じた切なさとはまた別の切なさを感じ、胸が痛くなる。そしてまた、ラストに訪れるお約束のハッピーエンドにも、この勝ち気な女が自ら勝ち取ったものでないだけに、余計にわびしさを感じるのだ。

ああ、それにしても、登場する男のキャラクターのアホさ加減には呆れる。どいつもこいつも間違った女の尻を追いかけてばかりで、なんとアホなことよ!

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Alexander Hanson as Fredrik Egerman, Catherine Zeta-Jones as Desiree Armfeldt and Aaron Lazar as Count Carl-Magnus Malcolm

この劇場の看板にはゼタ=ジョーンズとランズベリーの名が仲良く並んで等しく光り輝いている。しかし、舞台上でより輝きを放射しているのは明らかにランズベリーのほうだ。

かつて数々の王侯貴族の愛人として一世を風靡したデジレの母、マダム・アームフェルドを演じるランズベリーは、メイクと衣装のせいで84歳という実年齢よりもかなり年老いて見える。その上、舞台上ではほとんど車椅子に座ったまま。

それなのに、ランズベリーの存在感は劇場中を支配するのである。
もっともそれは、マダム・アームフェルドが居眠りしていない時に限るのだが。

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Angela Lansbury as Madame Armfeldt

若さと言い、美貌と言い、人目を引くことにかけてはランズベリーはゼタ=ジョーンズの比ではない。しかし、ゼタ=ジョーンズのデジレの存在感はランズベリーのマダム・アームフェルドの存在感の比ではなく、ランズベリーの前に出るとゼタ=ジョーンズはまるで演劇学校の研修生のように見える。

そして、研修生の師であるランズベリーが、節操のなくなった現代を嘆き、昔を懐かしみながら唄う「Liaisons」は、コミカルでありながらも哀愁があり、今年一番の必見パフォーマンス。これを生で観られた喜びは計り知れないほど大きい。

この作品に登場する幼妻のキャラクターのように、実生活で25歳年上のマイケル・ダグラスと結婚している美貌のゼタ=ジョーンズが、舞台上で18歳の小娘に負ける女優を演じ、女優としての存在感で84歳の大ベテラン、ランズベリーに負ける。そこにちょっとしたアイロニーを感じる。

Photos by Joan Marcus

A Little Night Music
Walter Kerr Theatre
219 West 48th Street (Between Broadway & 8th Ave.)
オフィシャルサイト

プレビュー開始:2009年11月24日
オープン:2009年12月13日
クローズ:2011年1月9日

Credits: Music and lyrics by Stephen Sondheim; book by Hugh Wheeler, suggested by a film by Ingmar Bergman; originally produced and directed on Broadway by Harold Prince; directed by Trevor Nunn; choreography by Lynne Page; music supervision by Caroline Humphris; sets and costumes by David Farley; lighting by Hartley T A Kemp; sound by Dan Moses Schreier and Gareth Owen; wig and hair design by Paul Huntley; makeup design by Angelina Avallone
Original Cast: Catherine Zeta-Jones (Desirée Armfeldt), Angela Lansbury (Madame Armfeldt), Alexander Hanson (Fredrik Egerman), Erin Davie (Countess Charlotte Malcolm), Leigh Ann Larkin (Petra), Hunter Ryan Herdlicka (Henrik Egerman), Ramona Mallory (Anne Egerman) and Aaron Lazar (Count Carl-Magnus Malcolm)

*NY Niche 2010年4月号掲載記事を加筆修正

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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