Movie Review: The Good, the Bad, the Weird『グッド・バッド・ウィアード』(原題:좋은 놈, 나쁜 놈, 이상한 놈)

映画が始まるや否や、大きなスクリーンに鷹が舞い降りる。

なんだか背景からくっきりと浮いていて、だれがどう見てもCGで作られたニセモノだ。

一瞬、家のリビングルームのテレビで、昔の特撮映画を見ている気分になる。映画が始まってまだ1分も経っていないというのに、なんだか映画の出来を予想させる嫌な予感。

そういえば映画のキャッチコピーも「ムチャクチャ デ イイノダ!」だった。まさかむちゃくちゃになるってことか? ど、どうしよう……。

セルジオ・レオーネ(Sergio Leone)のマカロニ・ウエスタンの名作、『続・夕陽のガンマン』(原題:Il Buono, il Brutto, il Cattivo、英題:The Good, the Bad, and the Ugly)を思いっきり意識し、元映画からアイデアをたっぷり拝借して作られた韓国版ウエスタン、人呼んでキムチ・ウエスタンがこの『グッド・バッド・ウィアード』だ。

戦争の影がちらつく混沌とした時代。良い奴、悪い奴、汚い奴の三人の登場人物。お宝探しに三つ巴の決闘。

マカロニもキムチも大筋はそっくりなのだが、さすが訴訟の怖い現代社会を生きるキム・ジウン監督。その昔、黒沢明の『用心棒』をそっくりそのままウエスタンにして『荒野の用心棒』(原題:Per un pugno di dollari、英題:A Fistful of Dollars)を作ったレオーネが、黒沢に訴えられて痛い目にあったのをご存じだったよう。そんなヘマの真似はせず、原作に「インスパイアされた」と言える範囲でキムチ・ウエスタンを作り上げた。

しかし、実は、あの世のレオーネに訴えられるくらいそっくり作ったほうが良かったんじゃないかと思うほど、マカロニとキムチの出来の差は大きかったのである。

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舞台は1930年代の満州。

朝鮮人の大富豪が、日本人に高値で売りつけた地図を盗んで取り戻そうと、ギャングのパク・チャンイ(イ・ビョンホン)を雇う。チャンイは地図を持つ日本人が乗った大陸横断鉄道を襲ったが、同じ列車でたまたま強盗をはたらいていたユン・テグ(ソン・ガンホ)が、他の財宝とともに既に地図を手にしていた。

さらに、同じ列車には賞金稼ぎのパク・ドウォン(チョン・ウソン)も乗り合わせている。

地図を持つユン・テグ(変な奴)。

彼を追うパク・チャンイ(悪い奴)。

そして、その二人を追うパク・ドウォン(良い奴)。

そこに地図を狙う馬賊団と日本軍まで加わって、お宝争奪大追撃戦が始まるのである。

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話の単純さは『続・夕陽のガンマン』も同じようなもの。

しかし、エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)のイカした音楽に乗せ、埃っぽくてハードボイルドな男のロマンをクローズアップとロングで撮影された映像とスタイリッシュな編集で見せたのが『続・夕陽のガンマン』だ。

ラストの墓場での決闘シーンなど、台詞は無く、顔のドアップと手元のドアップをカットで見せて行くだけなのに、緊張と男のロマン度がぐんぐんと高まる。

そしてそれをさらに盛り上げるのがモリコーネの音楽。

パブロフの犬がベルを聞いただけでよだれを垂らすように、わたしはモリコーネによる『続・夕陽のガンマン』の曲を聞くだけで両足を肩幅に広げて立ち、右手を空想のガンベルトに近づけようとしてしまう。

ところが、素晴らしい編集で、まさに「画を映した」映画となった『続・夕陽のガンマン』に「インスパイアされた」映画であるはずの『グッド・バッド・ウィアード』は、編集に関してはあまりインスパイアされていない様子。

実際、ばっさばっさとカットしたくなるシーンがあちこちに出てくる。

ユン・テグが立ち寄るアヘン窟のシーンは全てカットしたいし、闇市の宿屋で繰り広げられるアクション シークエンスにも不満が残る。

こんな具合だ。

地図を持つユン・テグが、木と竹と紙で建てられたような、隣の部屋の内緒話も筒抜けのような宿の部屋に居ると、廊下に人の気配がする。

追っ手が来たようだ。

敵が部屋に入るが、部屋にはユン・テグがいない。小さい部屋だから一目瞭然だ。

ユン・テグは窓から外に出て、壁づたいに隣の部屋に逃げた。

しかし、隣の部屋では男女がよろしくやっている真っ最中。女は悲鳴を上げながら侵入者のユン・テグにつかみかかる。

ドタンバタンと女を振り払い、なんとかドアから脱出したユン・テグ。

しかし、廊下で見張に立っていた敵の一人に見つかり、そいつを倒す。

ところが、宿屋には別の一味までやって来た。

二番目の一味とさんざん大きな音をたてて戦い、宿屋をかなりぶち壊した頃、ユン・テグの部屋に押し入った最初の一味がようやく部屋から出て来る。

そして、宿屋の惨状と、部屋から逃げたユン・テグが別の敵と戦っているのを見つけて驚いて見せる。

今まで外の騒ぎが聞こえなかったのか?

その小さな部屋で野郎ども数名は今まで何をしていたのか?

部屋の中をひっくり返して地図を探すカットでもあればまだしも、なんだか一味のマヌケ度が上がるだけで、テンポも悪ければ編集も悪くて、間延びしたシークエンスとなってしまった。

ソン・ガンホはいつもどおり観客を裏切らず、おかしみのある演技とハッとする視線を見せてくれるし、初の悪役に挑戦したイ・ビョンホンは、自慢のシックスパックを惜しげも無く見せながら、は虫類を思わせるねちっこさで悪役を楽しそうに演じている。

演技では全くと言って良いほど見せ場が無いチョン・ウソンは、アクションシーンでは大活躍し、ロープにぶら下がったり、全速力で疾走する馬に両手離しでまたがり、ウィンチェスター銃を操って、本当に馬に乗れることを見せびらかす。

主役の皆さんはそれぞれ素晴らしい演技と技とボディを披露するにもかかわらず、テンポが悪いせいで、映画のほうは便秘気味のようにスッキリしない。

『続・夕陽のガンマン』をもう一度見たほうが良かったかもしれない。

そう思い始めたちょうどその時、それまでの不満足感を帳消しにするようなものすごい大迫力のアクションシーンが始まった。

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見渡す限りの大平原の中、疾走する馬、馬、馬。

サイドカーに乗って逃げるユン・テグを追う馬賊達。

そして続くのはジープとバイクの大群。

クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)の『キル・ビル』(”Kill Bill”)で使われた曲に、手拍子とギターの音色が印象的なサンタ・エスメラルダ(Santa Esmeralda)の「悲しき願い」(”Don’t Let Me Be Misunderstood”)(注)があるが、その曲から歌が取り除かれたバージョンが流れる。

その曲の中、馬やジープやバイクに乗った人間が、砂埃を舞い上げて疾走しながら取っ組み合いの格闘をするのだ。

しかも、CGではなく実写。

いや、これがCGではなく、実際に人間と馬と車で撮影したアクションシーンをそのままカメラに収めたということは、みじんも疑いが無い。

そうだったのだ。冒頭のCGの鷹があんなにミエミエでダサかったのは、このアクションシーンがほんものであることをわからせるためだったのだ!

それにしても、ここにたどり着くまでの道のりは、あまりにも長かった。

注:「悲しき願い」(”Don’t Let Me Be Misunderstood”)のオリジナルはニーナ・シモン。

The Good, the Bad, the Weird『グッド・バッド・ウィアード』(原題:좋은 놈, 나쁜 놈, 이상한 놈)

上映時間:2時間19分
監督:キム・ジウン
脚本:キム・ジウン、キム・ミンスク
出演:ソン・ガンホ、チョン・ウソン、イ・ビョンホ
韓国:2008年7月17日公開
日本:2009年8月29日公開
日本オフィシャルサイト

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