TV Review: Grey Gardens 『グレイ・ガーデンズ 追憶の館』

カルト的な人気を誇るメイズルス兄弟の1975年のドキュメンタリー映画、Grey Gardens(グレイ・ガーデンズ)がテレビ映画になった。

4月に全米でオンエアされ、今年のエミー賞で17のノミネートを受けた、HBO Filmsの新作テレビ映画である。

主人公は、ニューヨーク、イーストハンプトンにあるグレイ・ガーデンズと呼ばれる屋敷に住む二人の女性、イーディス・ブーヴィエ・ビール(ビッグ・イーディ)と、同じ名前を持つその娘リトル・イーディ。ケネディ大統領の未亡人、ジャクリーンの叔母と従姉妹にあたる母娘だ。

二人は、かつては美しい庭を持つ屋敷として有名だったグレイ・ガーデンズで極貧生活を送っている。だが、屋敷も庭も今は見る影もない。人が住める状態ではないと役所から立ち退き命令をくらい、それがニュースになったのをきっかけに、二人のエキセントリックでボヘミアンな生活が世間の注目を浴びる。

そんな二人の生活をカメラに収め、ドキュメンタリー映画にしたのがメイズルス兄弟のGrey Gardens。1975年に公開されたこのドキュメンタリーは世間を騒がせ、やがてゲイ社会でカルトとなる。リトル・イーディはゲイのアイコンとなる。

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今回、HBOで放映されたGrey Gardensは、そんなイーディ母娘とメイズルス兄弟のドキュメンタリー映画を題材にしたTV映画だ。

30年以上もの間ファンに愛され続けたカルトドキュメンタリー映画を元に、そこに登場する実在の人物の半生を映画にするには、乗り越えねばならないハードルがいくつかある。

母娘を演じる役者は、ルックスはもちろん、話し方や仕草まで実物にそっくりでなければならないし、ジョン・ガリアーノなどのファッション業界の鬼才がアイコン視するリトル・イーディのファッションも、きちんと表現せねばならない。ドキュメンタリー映画の中にしっかりと記録されている、母娘の哲学的で詩的な決め台詞の数々も盛り込まねばならない。

その上さらに、ドキュメンタリー映画やこの二人のことを知らない人間が見ても楽しめるドラマに仕上げねばならない。

主演はドリュー・バリモアとジェシカ・ラング。バリモアは18歳〜50代半ばのリトル・イーディを、ラングは40〜80代のビッグ・イーディを演じる。

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この二人、どちらも姿だけでなく、仕草や話し方までそっくりで、ドキュメンタリー映画のコアなファンまで唸らせる。

特に、1970年代のビッグ・イーディを演じるラングが、髪をとかしながらベッドの上で歌うシーンは、原作ドキュメンタリー映画を繰り返し見ている者でさえ一瞬原作のほうを見ているのではないかと錯覚に陥ってしまう、まさに名人芸。なるほど、二人がエミー賞のミニシリーズ/テレビドラマ部門の主演女優賞にそろってノミネートされたのも納得だ。

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主演二人がキャラクターになりきるのを助けるのがメイクと衣装。どちらもエミー賞にノミネートされているが、特にキャサリン・マリー・トーマスによる衣装が素晴らしい。

1930年代から50年代始めの若いリトル・イーディの衣装はうっとりするほど美しく、1940年撮影のイーディ本人の写真を元に作られた、フードがついたジップアップのクリーム色シルクドレスは、現代でも通用する斬新さだ。

また、リトル・イーディとは切っても切れないゴールドのブローチは映画を通して登場する。

そして圧巻は、1970年代の衣装。ドキュメンタリー映画でおなじみのリトル・イーディの「コスチューム」が続々と登場するのだが、その全てがオリジナルの完全コピーではないところが抜群にうまい。

黒地に黄色の花柄模様の水着に、タイガーのアニマルプリントのトップを合わせるなど、イーディのファッションセンスを深く理解し、実際のイーディが着ていたと言われても疑いをもたない衣装を作り出して見せている。

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映画は、1930年代から始まる時間軸と、1973年のドキュメンタリー映画撮影開始時から始まる時間軸を交互に見せながら、二人の生活を描いていく。

大恐慌がアメリカ経済に与えた打撃と、それを乗り越えたかに見える大金持ちが、ゆるやかにかつての栄光を失って行く様子のビフォー/アフターをパラレルに見せるのだ。

ストーリーを考え、監督も務めたマイケル・スーシーにとっては、これが最初の長編映画。

2003年にドキュメンタリー映画を見て以来、バックストーリーを盛り込んだ映画を作る構想を練り続けたスーシーは、膨大な資料に当たり、メイズルス兄弟がドキュメンタリー映画では敢えて明らかにしなかった事実を脚本の中に織り交ぜた。

そのおかげで、ドキュメンタリー映画や母娘の没落を知るものの好奇心はしっかり満たされ、また、何の予備知識もない観客も母娘の半生ドラマを楽しめる脚本になっている。

スーシーと共に脚本を共同執筆したのは監督としても、脚本家としても活躍するパトリシア・ロゼマ。ドキュメンタリー映画を撮影したメイズルス兄弟をこの映画のキャラクターとして登場させるというアイデアを思いついた功労者だ。

かつての大金持ちの繁栄と没落のビフォー/アフターは、メイズルス兄弟がイーディ母娘の生活に現れるビフォー/アフターでもあり、この2つの時間軸を平行させて描くというアイデアが映画の完成度を上げている。

また、ドキュメンタリー映画に記録されているイーディ達の実際の言葉は、この映画のあちこちにふんだんに散りばめられているのも原作ファンには嬉しいところ。

スーシーとロゼマは、この脚本でエミー賞にノミネートされた。

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この映画が原作やイーディ達を愛するファンを最も喜ばせるのは、おそらく、映画の中で二人のイーディが頭のおかしい人間、クレイジーな人間として描かれていないことだろう。

実は、原作となったドキュメンタリー映画のファンのわたしは、ここ数年、誰彼無しにドキュメンタリーGrey Gardensを薦めていた。だが、ドキュメンタリーを見た人たちが、どうやらイーディ母娘が狂っていると思うらしい、と知った時に大きなショックを受けた。

メイズルス兄弟はドキュメンタリーに一切説明を加えていないため、初めて見る者は、「あんな生活ができるなんて、おかしくなっていなければ無理だ」とすぐさま考えてしまうらしい。

だが、わたしにはこの二人が狂気の世界にいるとは思えず、社会の白い目をものともせずに自分の生き方を貫く勇気ある(でもちょっと変わった)人間として映っていたからだ。

それ故に、ドキュメンタリー映画がゲイ社会でカルト的な人気を誇るのもうなずけたし、他人と違う格好をしたり、違う行動をとって白い目で見られた経験がある者は、イーディ母娘に何らかの親近感を抱くだろうと思っていたのだ。

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実のところ、イーディ達を説明するために、ディケンズの『大いなる遺産』に登場するミス・ハビシャムや、映画『何がジェーンに起こったか?』のブランチとジェーン姉妹を引き合いに出す批評家は少なくない。

しかし、二人はむしろ、オスカー・ワイルドの『幸福な王子』を思い起こさせる。宝石は無くなり、金ぱくも全てはがされ、丸裸になって周りからは見向きもされなくなった鉛の王子と、異国の話で王子を楽しませ続け、王子のそばを離れず、暖かい南の国へわたるチャンスを逃して王子の足下で息絶えることを選んだツバメ。

この映画の中で、ビッグ・イーディがリトル・イーディにこんなことを言うシーンがある。

“I don’t think you see yourself the way others see you. You’re…you’re an acquired taste, babe.”「お前は、他の人間がお前のことを見る目では自分のことを見ていない。お前の味がわかるようになるには時間がかかるんだよ。」

たぶん、彼女達の本当の味がわかるようになるには時間がかかり、メイズルス兄弟のドキュメンタリー映画の味も1度見ただけではわからないのかもしれない。

ドキュメンタリー映画と『幸福な王子』をリンクさせるためには、ひょっとしたら映画を何度も見る必要があるのかもしれない。

しかし、9月20日のエミー賞の発表を待つHBOの映画の味は、一度見れば誰にでもすぐにわかるはずだ。

All Photos © HBO Films

*このGrey Gardensは、日本でもWOWOWで放映されることが決定している。

*追記:日本でのタイトルは『グレイ・ガーデンズ 追憶の館』となる。

Grey Gardens
HBO Films
 オフィシャルウェブサイト

Directed by Michael Sucsy
Written by Michael Sucsy and Patricia Rozema
Starring: Drew Barrymore, Jessica Lange, Jeanne Tripplehorn, Malcolm Gets, Daniel Baldwin, Ken Howard, Arye Gross, Justin Louis

*NY Niche 2014年10月号掲載記事をを改訂の上転載

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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