Movie Review: Tremors『トレマーズ』

先日、ある映画好きと一緒に呑んでいた時、コメディ系のB級モンスターパニック映画の名作は何かという話で盛り上がった。

その映画好き氏とわたしの意見が見事に一致したのが『トレマーズ』(Tremors)と『ザ・グリード』(Deep Rising)だった。

スティーヴン・ソマーズ監督の1998年の映画『ザ・グリード』のほうは、さすがCGザウルスで観る者をぶっ飛ばした『ジュラシックパーク』(Jurassic Park)の5年後に作られただけあり、B級と言うのは申し訳ないような高級感ただようモンスターが登場する。(モンスターにただよう高級感っていったい何ぞや、と自分でもふと疑問に思うが、ここでは深く追求しない。)

しかし、『ジュラシック・パーク』前時代に作られた『トレマーズ』(注1)には「絶対に手を入れてパクパクさせてるでしょう!」と簡単に言い当てられるローテクパペットモンスターが登場し、低予算臭がぷんぷんただよう特殊効果撮影が用いられている。

そのローテク感こそが世の大人達の秘めた子供心をくすぐり、まさに最高級のB級映画になっているのだ。

映画は断崖絶壁で立ちションするケヴィン・ベーコンのショットから始まる。

まさに映画のB級度というか「小便臭さ」を象徴しているような、でも見終わったら用を足し終わった時の爽快気分になりそうな暗示に富んだショットだ。

その後、すっきりしたベーコンは、ジーンズの中のケツの具合を直す仕草をする。

たったそれだけのことで、ベーコン演じるまだ知らないキャラクターと彼の物語への期待度がぐんと上がり、観ているこちらの顔はにんまりするのである。

Tremors-1
Fred Ward and Kevin Bacon in Tremors © Universal Pictures

ストーリーは単純極まりない。

ネバダ州の砂漠地帯にある人口14人の町、パーフェクションで便利屋をして暮らすバル(ベーコン)とアール(フレッド・ウォード)は、ある日、どうにもなりようがない生活に嫌気がさし、とうとう町を出る決意を固める。

ところが、決心した日が悪かった。

隣町に続く一本道を車で走っていると、町の住人の死体に出くわす。

情けない生活をしていても悪い奴じゃないバルとアールは、死んだ隣人を医者のもとへと運び、気を取り直して再び一本道を行くのだが、今度は別の住人の死体に行き当たる。

町を出たいのに、町に引き返さざるを得ない2人。二人の前途を阻むのは、どうやら町を囲む砂漠地帯の地下に潜む謎の怪物。そいつが住人を襲っては喰っているのだ。

怪物は地面に伝わるわずかな振動(tremor)で獲物の位置を探知し、獲物めがけて猛スピードで地下を突き進む。

道をふさがれ、町に閉じ込められたバルとアールと住民達は、近くで地震を計測していた学生ロンダ(フィン・カーター)と共に、謎の地底怪物に立ち向かう。

だが果たして、住民達はモンスターから逃れることができるのか?

ローテクモンスターにふさわしいシンプルなストーリーには、町の住民間で繰り広げられるご大層な人間ドラマもなければ、取って付けたような教訓もない。

あるのはモンスターに喰われるか、やっつけるか、逃げるかだけ。

それをユーモアたっぷりの会話に乗っけて、スリルと流血を絶妙のさじ加減で混ぜ合わせて見せるのだ。

まさに、退屈な週末の夜に仲間とビール片手に笑い転げながら観るのにこれほどピッタリな映画も無い。

また、登場するキャラクターのおバカ度&憎めない度も素晴らしい。

悪いやつは一人も登場せず(もっとも、鬱陶しくて「いいかげん喰われちまえ!」とつい思ってしまうティーンエイジャーは1人登場する)、登場人物の暢気度が怪物に喰われるかもというスリルのなんとも言えない良い味つけになっている。

今にも自分や仲間が喰われるかもしれないという怪物に「名前をつけなくっちゃ」とあれこれ考えるなんて暢気じゃなければやってられない。

その上、足下にいる怪物に、その怪物がいったいどこからやってきたのか、「宇宙からきた」だの「放射能のせいだ」のと議論しているのだから世話がない。

だが、中には暢気じゃない登場人物も居る。サバイバルマニアで超ド級のガンマニアでもあるバートとその妻ヘザーである。

来る大戦争に備えて5年分の食料を蓄え、ありとあらゆる武器をそろえるこの夫婦は、画面に登場するたびについつい注目してしまうシーン泥棒だ。

バート役は、マイケル・J・フォックスを有名にしたテレビドラマ、『ファミリータイズ』(Family Ties)でキートン家の父を演じたマイケル・グロスが演じ、ヘザー役は有名カントリーシンガーのリバ・マッキンタイアが演じている。

この二人が真剣になればなるほど滑稽さが増し、例え武装していてもちっとも危険に見えない味がにじみ出ていて素晴らしい。(注2)

また、バルとアールの珍コンビもピタリと息が合い、なんでもじゃんけんで決めてしまうお気軽さや、二人の掛け合い漫才のような台詞の応酬にもいちいち笑える。

中でもケヴィン・ベーコンの上手さは冒頭のシーンから突出している。
さすが自分の名前を冠するゲーム(注3)を持っているだけのことはあり、ありとあらゆる映画に出て芸を磨いているせいか、何をやらしても上手いのだ。

ベーコン演じるバルが驚きに遭遇したときのリアクションには、何度観ても爆笑させられる。中でもわたしのお気に入りは、

“What the hell is going on! I mean what the hell is going on!”

と叫ぶバル。

『トレマーズ』でこの台詞を言うベーコンを観た時、「ケヴィン・ベーコンは名優だ」と確信を得た。

いや、冒頭でケツの具合を直すのを観た時に既に確信していたかもしれない。

 

注1:『ジュラシック・パーク』でレックス役を演じるアリアナ・リチャーズは、まず『トレマーズ』に出演し、ここでちゃっかり怪物から逃げる予行練習をしている。

注2:その後『トレマーズ』は続編映画が3本作られテレビシリーズにもなったが、シリーズ全作に出演しているのはバート役のマイケル・グロスだけ。バートがいかに人気キャラなのかが良くわかる。

注3:日本では「ケヴィン・ベーコン ゲーム」という呼び名でおなじみの、"Six Degrees of Kevin Bacon"というお遊び。ほとんど全ての俳優は、共演者をたどって行くとケヴィン・ベーコンにたどり着くという理論(?)から、課題の俳優を一番短いリンク(ベーコン数)でベーコンにたどり着かせることができた者が勝ちというゲーム。
例えば、マイケル・グロスの場合、『トレマーズ』でベーコンと共演しているのでベーコン数は1になり、マイケル・J・フォックスの場合、フォックスは『マーズ・アタック!』(Mars Attacks!)でサラ・ジェシカ・パーカーと共演し、パーカーは『フットルース』(Footloose)でベーコンと共演しているのでベーコン数は2になる。(テレビでの共演も入れてカウントしても、マイケル・グロスと『ファミリータイズ』で共演しているのでベーコン数は2で同じになる。)
ベーコン数を簡単にチェックできるサイト、The Oracle of Baconもある。

『トレマーズ』(Tremors)

監督:ロン・アンダーウッド
脚本:ブレント・マドック、S・S・ウィルソン
出演:ケヴィン・ヴェーコン、フレッド・ウォード、フィン・カーター、マイケル・グロス、リバ・マッキンタイア
全米公開:1990年1月19日
日本公開:1990年6月15日

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