CGだけは本気なの♥『トランスフォーマー/リベンジ』
「いやー、あのくだらないストーリーと、本気のCGのギャップがいいんだよねー」
映画『トランスフォーマー』(Transformers)を見たある友人がそう言った。
そりゃそうでしょうとも。『ザ・ロック』(The Rock)や『アルマゲドン』(Armageddon)で知られるマイケル・ベイ監督の作品は、善悪がはっきりした単純明快なストーリーと、浅くて底までクリアに見えるキャラクター、まるでコマーシャルのようにやたらめったらスタイリッシュな映像がトレードマーク。人生について考えさせる物語や、入り組んだ謎につつまれたお話を求めるほうが間違いというもの。
その3つのトレードマークのコンビネーションで大ヒットを飛ばす娯楽超大作を作るマイケル・ベイが、前作よりもCGの本気度とストーリーのくだらなさ度をアップして作ったのが『トランスフォーマー』の続編『トランスフォーマー/リベンジ』(Transformers: Revenge of the Fallen)だ。
CGの本気度がいかほどかはオープニングの戦闘シーンを見るだけですぐにわかる。
新しく登場するオートボット達の紹介もかねてしょっぱなにトランスフォーマーの善玉と悪玉との軽い戦いが披露される。だがこの映像、『バットマン ビギンズ』(Batman Begins)の冒頭の戦いシーンよりもよく見えない。
『バットマン ビギンズ』では手持ちカメラ風のカメラワークと早すぎるカット割り編集のせいで何がどうなってるんだかさっぱりわからなかったが、『トランスフォーマー/リベンジ』ではオートボットとディセプティゴンががっぷり四つに組んでのこったのこったしようもんなら、何が映っているのやらもはや人間の視力では判別がつかないのだ。
時折「ほら、今映っているのはこれですよ」と動体視力の低い人間用にスローモーション映像を挟んでいるところからも、いかに人間の視力を基準に作っていないか、そのCG本気満開度がうかがえる。
そして、ストーリーのくだらなさ度も半端じゃない。
東部にあるアイビーリーグの大学に入学することになったサム(シャイア・ラブーフ)が荷物をまとめていると、2年前のオートボットとディセプティコンとの戦い時に着ていたパーカから、キューブのかけらが出てくる。
サムはそのかけらをガールフレンドのミカエラ(ミーガン・フォックス)に預け、大学へと向かってしまう。
しかし、そのかけらから謎の知識をもらってしまったサムと、かけらを持つミカエラの2人はディセプティコンに狙われてしまい、またしてもトランスフォーマー達の戦いに巻き込まれるのだ。
しかもエジプトで。
どうして2年前の汗と泥とホコリにまみれた服を洗濯もせずにクローゼットにかけっ放しにしていたのか、なぜ危険物をガールフレンドに預けて自分は大学に行ってしまうのか等、細かいところに突っ込んではいけないのはお約束。
実際、突っ込みどころは山のようにあるが、それもアイスクリーム売りの車のドアに書かれた文字や、サムが入学する大学の寮の部屋に貼ってある映画のポスターや、サムの母(ジュリー・ホワイト)がナイーブにも何だか知らずに食べてぶっ飛んでしまうハッシュブラウニーや、シーモア・シモンズ(ジョン・タトゥーロ)のお尻と同じく、一種のギャグなのである。(たぶん。)
だが、CGの本気度も、ストーリーのくだらなさ度も前作より俄然パワーアップしているというのに、なぜかこの映画はつまらない。
いったい前作と何が違うというのだろう?

それはずばり、タカラトミーへのリスペクト度とキャラクター深度の違いだろう。
そもそも、『トランスフォーマー』シリーズはまずタカラトミーのおもちゃ在りきの映画。タカラトミーのおもちゃが大ヒットしたアメリカで、おもちゃを元にした漫画やアニメが作られ、それがマイケル・ベイによって実写映画シリーズになった。
トム・ハンクス主演の1988年の名作コメディ映画『ビッグ』(Big)には、ある朝起きたら30歳になっていた13歳の少年が勤務するおもちゃ会社で、「ビルがロボットに変身しても面白くない」と先輩社員の企画に駄目だしするシーンがある。
その大人少年が言うとおり、ビルがロボットに変身しても面白くないが、どっこい車がロボットに変身すると途端におもちゃにロマンが加味されて面白くなるのだ。タカラトミーのトランスフォーマーが人気がある理由はそこにある。5月に発売されたキャラクター商品など、車からロボットに変身させるには、どこをどういじくれば良いのか動画を見て習わねばわからないくらい複雑な大人仕様で、その変身度が大人たちの少年心をくすぐるのだ。
だが、少年心をくすぐる車からロボットへトランスフォームするシーンが映画には少ししかない。そのせいで、「タカラトミーへのリスペクトが足りないんじゃないのか?」とインナー少年マインドはかなり不満を持ってしまう。いったいどこがどうなったら車がロボットになるのか、映画でも良く見えないというのに。
もともと浅いキャラクター達の深みも限りなくゼロに近くなってしまったのもいけない。
前作では脇を固めるキャラクター達が少なくとも5センチくらいの深みのバックストーリーをもらい、なおかつ大活躍する場面ももらっていたというのに、今回はその5センチと活躍シーンがばっさり削られてしまった。
バンブルビーの上半身をレッカー車にくっつけて、敵を倒すために車を逆走させるミカエラや、まだ見ぬ子どもの未来を守るため、妻子の元に帰るためにバイクで敵と戦うアメリカ軍の男前レノックス(ジョシュ・デュアメル)が懐かしくなる。
サムと深い絆で繋がれているバンブルビーも、前作では声が出ない原因や子犬っぽいキャラクターが自然に表現されていたが、続編では未だに声がでない原因はミカエラの台詞一言であっさりと説明され、有無を言わさずに片付けられてしまう。
浅くて底まで見えるキャラクターがマイケル・ベイ印ではあるものの、深度が0になってしまうと、くだらないストーリーが生きずになんだかよく見えない本気のCGだけがやたらと目立ってしまう。
となると、この映画で見る価値が残されているのはただ1つ。そう、CMのようにスタイリッシュな映像でお送りするミーガン・フォックスである。
ぐちゃぐちゃして何が映っているのやら、どこを見れば良いのやら全くわからない映像が多いこの映画の中で、唯一安心して視線を置けるのがミーガン・フォックスの美しいボディ。
フォックス扮するミカエラの登場シーンは、今にも陰からマルボロマンが現れてタバコを売り始めるのではないかと思うほどセクシーで、絵に書いたようにCMっぽい。
彼女のボディが映らず、顔のクローズアップになっている時でも見るべきフォーカルポイントはちゃんと用意されている。
その鋼鉄のまつ毛だ。
ミカエラのまつ毛は爆風にぶっ飛ばされようと、どんなにホコリだらけになろうと一向にへこたれる気配を見せず完璧な上向きカールをキープしている。いやはや、いったいどこのマスカラを使っているのか知らないが、あのまつ毛が一本あればキューブのかけらだってディセプティコンだって簡単に破壊できるんじゃなかろうか?
オプティマスにそうこっそり耳打ちしてやりたかったのに、善玉と悪玉のトランスフォーマーが必死になって戦っているのを見ても、どっちがオプティマスなのか、オプティマスの耳がどこなのか全く判別がつかず、耳打ちなんてできないやとあきらめざるを得なかった。
Transformers: Revenge of the Fallen
『トランスフォーマー/リベンジ』
監督:マイケル・ベイ
製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ・イアン・ブライス、 トム・デサント
脚本:ロベルト・オーチー、アレックス・カーツマン、アーレン・クルーガー
出演:シャイア・ラブーフ、ミーガン・フォックス、ジョシュ・ デュアメル、 ジョン・タトゥーロ、ジュリー・ホワイト、タイリース・ギブソン(声の出演:ピーター・カレン、ヒューゴ・ウィーヴィング)
音楽:スティーヴ・ジャブロンスキー、リンキン・パーク
撮影: ベン・セレシン
編集:ロジャー・バートン、ポール・ルベル
配給: Paramount Pictures
US公開日:2009年6月24日
日本公開日:2009年6月19日
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