Movie Review: State of Play 『消されたヘッドライン』

『消されたヘッドライン』から消されたサスペンス

ある夜、ワシントンDCの裏通りで少年が殺され、目撃者のピザ配達人が撃たれるという事件が起こる。

翌朝、地下鉄のホームからある下院議員のスタッフが転落死する。

ベテラン新聞記者カル(ラッセル・クロウ)は少年の殺人とピザ配達人の傷害事件を追い、同じ新聞社のブログ部門で働くデラ(レイチェル・マクアダムス)は転落死した下院議員スタッフの事件を追う。

だが、裏通りで殺された少年が転落死した女性の写真を隠し持っていたことから二つの事件がつながる。

転落死した女性と不倫関係にあった下院議員コリンズ(ベン・アフレック)はカルの旧友。しかも、コリンズの妻(ロビン・ライト・ペン)がカルのかつての恋人だったことから、カルとデラはお互いに協力しながら二つの事件のつながりと謎を追っていくのだ。

映画『消されたヘッドライン』は2003年に英国のBBCで放送されたテレビドラマ”State of Play”のハリウッド版リメイクだ。原作ドラマのポール・アボット作全6回ミニシリーズは、日本でも『ステート・オブ・プレイ〜陰謀の構図〜』というタイトルでNHKが2008年の10月に放映している。

これをラッセル・クロウとベン・アフレック主演、『ラストキング・オブ・スコットランド』のケビン・マクドナルド監督で映画化したのが本作である。

実はこの映画、できあがるまでには紆余曲折のドラマがあった。

当初、新聞記者カル役はオリジナルシリーズに惚れ込んでいたブラッド・ピットが演じる予定だったのだが、まず、オリジナルに忠実なストーリー展開を望んでいたピットと、ミニシリーズとは異なるものを撮ろうとしていたマクドナルド監督との間で意見が衝突が起こる。

そのため脚本にリライトが必要となる。だが折り悪く、ハリウッドの脚本家組合のストライキと重なり、脚本のリライトができない。そしてピットがカル役から降りてしまうのだ。

ピットの後釜にはラッセル・クロウが決まったものの、撮影時期がずれたせいで今度はコリンズ議員役のエドワード・ノートンのスケジュールが合わず降板。ベン・アフレックが替わりに議員を演じることになった。

映画撮影の裏側で起こったこの紆余曲折のドラマにスリルとサスペンスのエッセンスを吸い取られてしまったのか、はたまた6時間分のドラマを2時間に詰め込んだためにギュウ詰めのストーリー展開となったせいなのか、出来上がった映画は少々サスペンスに欠けるポリティカルスリラーになってしまった。

ポリティカルスリラーの醍醐味と言えば、観客と大して変わらない生活を送る普通の人間が、大きな陰謀と政治の闇に気づき、正義感にかられて自分よりもはるかに大きな悪と戦うのを高みの見物するところにある。主人公が陰謀の核心に迫り、すんでのところで難を逃れたり、大ピンチに陥りつつも知恵と機転と幸運ですり抜けるといったハラハラシーンを、心臓の鼓動を高めながらスクリーンのこちら側から見るのが楽しいのだ。

そして高みの見物をしているこちらの五臓六腑に陰謀の真の恐ろしさが染みわたる頃、自分と変わらないはずの主人公が突然この世の善を独りで背負ったヒーローに見えてきて、ヒーローを見守ってきた自分までもがちょっぴりヒーローになった気になるのだ。(何もしていないのにもかかわらず。)

だがあいにくこの映画では、その醍醐味があまり味わえない。

それはひょっとしたら、ちょっと距離を置いて見守りたくなるような少々臭いたつラッセル・クロウのルックスのせいかもしれない。(あんなゴミだらけの車を運転しているのだ。べったりしたカルの髪の毛から干からびたフライドポテトの1本や2本出てきても不思議ではない。)

あるいは、そんなカルが、なんとかチャンスを得ようと頑張るデラをネットメディアなんて二流だと言わんばかりのスノッブさで扱うせいかもしれない。

あるいは、映画の中でもおいしい台詞をいくつも口にする編集長キャメロン(ヘレン・ミレン)が、カルとデラが追う特ダネ記事で新聞の発行部数を伸ばして印刷メディアの衰退をなんとか堰き止めようと頑張りつつ、犯罪の証拠を警察から隠すという非現実的な選択をしてみせるので、興醒めして一瞬で現実世界に引き戻されてしまったせいかもしれない。

だが、そんなわたしを救ったのは、脇役として登場するジェイソン・ベイトマンだった。

ベイトマンが演じるドミニク・フォイという男は、登場シーンはさほど多くないものの、その短い時間で天国から地獄までのフルコースをジェットコースターのスピードで経験する。

フォイの心理の変化を見ていると、こちらはまるで昆虫の営みを観察しているような気分になり、見ていて飽きないのだ。しかも、ただの嫌な奴になりがちなこの役をベイトマンはコミカルで憎みきれない人間味のあるキャラクターとして演じるので、彼がスクリーンに映るたびについつい視線が彼を追ってしまう。

主演ラッセル・クロウから視線を奪う男、ジェイソン・ベイトマンはまさにシーン泥棒。この映画を見てよかったと大満足した瞬間だった。

Photo © Universal Pictures

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