8年目にして発見した『アメリカン・アイドル』とロックスター

「え? いまさら?」

2002年に放映が始まってからはや8年。
シーズン8にして「アメリカン・アイドル」(American Idol)にハマってしまったと友人に告白すると、友人がそう言った。

そう。いまさらなのだ。

自他ともに認めるテレビ好きのわたしが、なぜかこの番組だけは一度も見たことがなかった。

今回はだれそれが優勝したというニュースはいつも耳にしたし、テレビでチャンネルを回しているときには番組のかけらくらいは見ていたのだが、番組を通して見ることは何故か一度としてなかったのだ。

それがある夜、たまたま付けっぱなしのテレビのチャンネルがFoxになっていて、たまたまアメリカン・アイドルが始まった。

いつもならばリモコンに手を伸ばしてドラマか映画がかかっているチャンネルに変えるのだが、手が塞がっていたのでそのまま放置。見るともなしに見ていると、ヘンテコな指輪をはめた赤い髪の女の子、アリソン・イラエタが、HeartのAloneを歌い始めた。

わたし好みのハスキーボイスについ手を止めて聞き入り、「へー、いいじゃん」と興味をそそられる。

しかし、私の何気ない興味はその後大きな衝撃に遭遇することになる。

そう、アダム・ランバートだ。

Embed from Getty Images

その夜のトリで登場した彼は、ちょいとエルビス似のロックなルックスの男の子だった。

ぐるりとアイライナーを引いた目でカメラに流し目を送りながら、ローリングストーンズの”(I Can’t Get No) Satisfaction”を歌い始める。

その途端、歌唱力はもちろんのこと、カメラの前での堂々たる動きに引きつけられ、知らない間にテレビの前に移動してじっと見入ってしまったのだ。いや、魅入られたと言うほうが正しいか?

そうなのだ。この夜以降、わたしはアダム見たさに「アメアイ」を見ることになったのである。

もちろん、アダム以外にもイケてる出場者がいるにはいた。

前述の赤髪のアリソンに、こんな声してたら歌わずにはいられんだろうと思う、隣の優しいお兄ちゃん風のダニー・ゴーキーや、思わずクルミを手渡したくなる森の小動物のようなキュートな笑顔のクリス・アレン。

しかし、毎度毎度その完成されたパフォーマンスとエンターテイナーぶりでわたしを喜ばせたのは、やはりミスター・アイライナーのアダムだった。

Embed from Getty Images

マイケル・ジャクソン・ナイトで歌った”Black or White”、ジョニー・キャッシュもぶったまげて墓から出てきそうな、アラビアンナイトバージョンの”Ring of Fire”、しっとり聴かせたThe Miraclesの”The Tracks of My Tears ”に、ファンクの名曲、Wild Cherryの”Play That Funky Music” 。

数週間、彼のパフォーマンスを見続けていたわたしは、この頃には彼のライブに行きたいかもと思い始める。

Tears for Fearsの“Mad World”や、Steppenwolfの”Born to Be Wild”、Led Zeppelinの”Whole Lotta Love”にU2の”One”とAerosmithの”Crin’”を聴かされた時には、ライブどころか、ドでかいアリーナのロックコンサートで歌う彼が、そしてそいつを見るためにいそいそと出かける自分の姿が簡単に想像できた。

いやはや、あまりにもアダムのパフォーマンスが完成されているもんだから、お歌の上手さを他の出場者と競い合っているというよりも、番組にゲスト出演しているプロのように見えるのだ。

なぜこうも違うのか?

気になってちょいとググってみると、アダムはどうやら10歳からステージに立ち、「アメアイ」に応募するまでは、ブロードウェイミュージカルの「ウィキッド(Wicked)」のナショナル・ツアーやLAでフィエロ役のアンダー兼アンサンブルを務め、ヴァル・キルマーと一緒に出たフランス製ミュージカル「十戒」のアメリカ版ではジョシュア役を演じ、また、時にはキャバレーでもショウをしていたというバックグラウンドの持ち主だというではないか。

過去に、アメアイを経てミュージカルの舞台に立つ人はたくさんいたが(注1)、まさにその逆パターンだ。

歌への感情の込め方にしろ、自分の演出の仕方にしろ、トータルパッケージで素晴らしいのは、才能以外にも17年の経験にしっかり裏付けされていたのである。

こりゃわたしがハマるわけだ。

だもんだから、決勝戦でスモークがたかれた舞台の奈落から、マトリックスなコートを着てにゅい〜んと登場するアダムを見た時は、彼と争う森の小動物君が気の毒になった。

いや、もっと気の毒になったのは次のフィナーレの夜だ。Queenと共演して”We are the Champions”をアダムと一緒に歌わされたクリス君、かなりの場違い感がただよい、「早く森に帰してやれよ!」と叫びたかったくらいだ。

もちろん、クリス君もどうしてなかなか、かなりイケている。

リスにクルミ、クリス君にギター。

ニコール・キッドマンの夫こと、キース・アーバンと一緒にギターをかき鳴らしながら歌う彼は、アーバンにちっともひけをとらない。

しかし、バカでかいドームやアリーナで満員の観客に悲鳴を上げさせているアダム君を簡単に想像できるわたしの頭は、申し訳ないことに、NYの地下鉄の構内でギターケースの中に種メシのような小銭を入れてパフォーマンスしたり、20人も入ればいっぱいの小さなライブハウスで歌を歌っているクリス君しか想像できないのである。

でも、どうやらわたしの想像力はかなり乏しく、全米のギャル達のそれは無限だったようだ。

わたしのアメアイヴァージンな予想とアダム偏愛は見事に裏切られ、電話投票の結果、栄光は森の小動物君の頭上に輝いた。

Embed from Getty Images

まあ、わたしが番組を見続けていた理由はただひとつ、単にアダム君のパフォーマンスを見たいというだけだったので、彼が決勝戦まで残ってさえくれれば、ぶっちゃけ誰が勝とうが文句を言う筋合はない。

しかし、5月20日に8番目のアメリカンアイドルが決まるまでの間、ネット上やニュースで、アメリカが果たしてゲイの男性をアメリカンアイドルに選ぶのかどうかが随分と取りざたされていたので、わたしは「ゲイが芸の道を極めて何が悪い」とちょいと憤慨し、アダムがアメリカンアイドルの座を、それも大差で獲得することを期待していたのである。

シーズン2の準優勝者、クレイ・エイケンがカミングアウトするまでに5年を要したそうだが(そしてカミングアウトする頃には、彼がゲイだと知らないのはひょっとして本人だけだったんじゃないかとささやかれたもんだが)、アダムははっきりとカミングアウトはしていないものの、ネットや保守的なニュース番組で取りあげられた、男性と唾液交換中の写真や、舌で激しく握手中の写真や、ドレス着用中の写真を見る限り、やはり男性が好きなようだ。

アダム自身、その写真に写っているのは自分で、”I am who I am”と公言している。

確かに、ゲイだと言うと「じゃあアメリカンアイドルにはしたくない」と思う人間もまだまだわんさかいるのだろう。

しかし、本当のところ、シーズンを通してみせた彼の才能と実力は、アダムがアメリカンアイドルという器には収まりきらないことを示している。

アメアイで2位になろうが、7位になろうが、今後彼は世界のロックスターへの道を歩んで行くんじゃなかろうか? 実際、フィナーレの夜に共演したQueenから直々に、「うちのフロントマンにならないか」と誘われているかもしれない。

そう、アダム君にはアメリカのアイドルなんて目じゃないのである。

てことで、森の小動物君こと、クリス・アレンが今シーズンのアメリカンアイドルになって良かったと思った、8年目の老いらくの恋であった。

 

注:どちらもオリジナルキャストではないが、シーズン3の優勝者のファンテイジアはブロードウェイのミュージカル「カラーパープル」で主役のセリーを演じたし、シーズン2の準優勝者、クレイ・エイケンはブロードウェイでミュージカル「モンティパイソンのスパマロット」のサー・ロビン役を演じた。ファンテイジアは、映画化されるミュージカルバージョンの「カラーパープル」で主役を演じることも決まっている。
また、舞台ではないが、「ドリームガールズ」でエフィを演じてアカデミー賞に輝いたジェニファー・ハドソンも、ミュージカルで成功したアメアイ出身者として有名。
Advertisements