キーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイ主演映画Atonement『つぐない』が日本でもいよいよ今日から公開される。
1930年代後半のイングランドを舞台に、身分の壁を超えて愛し合う裕福な官僚の娘セシーリア(ナイトレイ)と一家に仕える使用人の息子ロビー(マカヴォイ)の恋と、ある夜セシーリアの屋敷で起きた忌まわしい事件、そしてそれを目撃した多感で想像力豊かなセシーリアの妹ブライオニー(サーシャ・ローナン)の目撃証言がセシーリアとロビーの運命を翻弄してしまうさまを描いた作品だ。
原作はイアン・マキューアンの小説『贖罪』(Atonement)。監督は2005年に同じくキーラ・ナイトレイ主演で『プライドと偏見』(Pride & Prejudice)を撮ったジョー・ライト。
この映画の中でナイトレイが着る衣装が多くの女性を虜にしている。
特に、1935年の夏、忌まわしい事件が起こる前の屋敷のシーンでの衣装が目をみはるほど美しい。

ファッションで1930年代といえば、1920年代のボディラインをすっぽり隠すようなボーイッシュなシルエットがすっかり消え去ってぐっとフェミニンになった時代。
ひらひらするバタフライスリーブやふんわりしたブラウスに、ナチュラルなウエストラインのミディ丈スカートを合わせてウエストを強調するのが当時の女性たちの装いで、ホルターネックやぐっと開いた背中、マーメイドラインや、身体にまとわりついてボディラインをさりげなく見せるバイヤスカットもこの時代の特徴だ。
衣装を担当したジャクリーン・デュランは、そんな時代を反映した美しい衣装をこの映画でたっぷりと見せている。
ナイトレイがデイタイムに着るのは花柄プリントのはかなげな布で作られたブラウスと、ナチュラルウエストラインのラップスカート。胸元からはスリップのレースがのぞき、淡いベージュトーンの色合いが風景に溶け込む。

Keira Knightley in Atonement Keira Knightley in Atonement
真っ白なワンピースの水着は胸元のカットワークと背中の金具とストラップ使いのディテールがモダンで、揃いの水泳帽もイカしている。
Keira Knightley in Atonement Keira Knightley in Atonement
しかし、観客が一目見るなり虜になってしまったのは映画の中の重要なシーンに登場する緑色のイブニングガウン。

ほんの少し空気が動いただけでふわりと揺れて身体にまとわりつくこのガウンは、なんとも言えず優美でセクシー。
胸元には繊細なカットワークでリボンの模様があしらわれ、背中は腰までぐっと開いている。ウエストからヒップラインにかけてはツイストしたサッシュが巻かれ、それがフロントで結ばれて、歩くと腿の間に入り込んで足のラインが浮き出てくる。
トップはルースで身体からそっと離れ、腰回りははりつき、そこからフロントにスリットが入ったスカートが広がる。繊細さと大胆さ、固さと柔らかさ、露わさと慎ましさがが同居し、その結び目は頑固なセシーリアの処女性を象徴しているかのようでもある。

原作小説の著者マキューアンは、この日、セシーリアがパーティで着るイブニングガウンを選ぶ様子について3ページを費やして描写している。
黒のクレープデシンにジェット・ブラックのジュエリーを合わせると葬式に出る女のようになる。ピンクのモアレシルクは8歳児のパーティドレスのように子どもっぽい。最終的にセシーリアが手にしたのは、長い間着る機会を待っていた背中の開いたグリーンのガウン。
“ As she pulled it on she approved of the firm caress of the bias cut through the silk of her petticoat, and she felt sleekly impregnable, slippery and secure; it was a mermaid who rose to meet her in her own full-length mirror.”
「そのガウンを身につけた時彼女は、バイアスカットがシルクのペチコートを通してしっかりと愛撫してくるのが良いと思い、自分はなめらかで攻略しがたく、つかみどころがなくて安全だと感じた。姿見の中には彼女に会うために浮かび上がってきた人魚が映っていた」
映画を監督したジョー・ライトは、このシーンのガウンは小説で描写されているような雰囲気を出すよう衣装のデュランに注文をつけたらしい。
デュランはロンドン中の生地屋から緑色の生地見本を集め、3枚を選んだ。ライムグリーンのシルク、ブラックグリーンのオーガンジー、緑のシフォン。その3枚の生地見本を重ね合わせると求める緑色になる。サンプルと薄手の白いシルク生地100ヤード(約90メートル)をロンドンでも屈指の染め職人の元に持ち込み、特別に染め上げてもらう。あの深いエメラルドグリーンは、ライトとデュランがそうやって作り出した「完璧な緑色」だった。

ドレスは1930年代のパターンを元に縫われた。と言っても、当時の人が実際に来ていた形をそのまま再現するのではなく、現代人の目から見ても美しくモダンに見える1930年代の服を作るのだ。
ナイトレイが動いた時にドレスも美しく動くよう、生地は現代的な極薄のシルク。スカートのヘムはたっぷりととられ、ボディ部分には30年代のドレスによく見られるビーズ刺繍の代わりにレーザーで繊細なカットアウト模様があしらわれた。
カットアウトのせいで、極薄生地で作られたこのドレスはとても破れやすかったらしい。そのため、ボディ部分は10着程度、スカート部分も3〜4着くらいの予備が用意され、撮影中に破れてしまったらさっと修理できるようになっていたという。
合わせられたアクセサリーはダイヤモンドがあしらわれた星型のヘアピンと、アールデコのブレスレット。どちらもシャネルのデザインだ。シューズはゴールドのケージ型サンダル。
映画の中でこのドレスはまるでもう一つのキャラクターのように生き生きと輝いている。
映画が紡ぎ出す物語は悲しく、見終わった後にあれこれと物思いに耽ることになるが、夢に出てくるのはこの緑のドレス。
これまで、映画に登場する印象的な緑色のドレスといえば、『風と共に去りぬ』でスカーレット・オハラが着た、カーテンから作られたドレスだった。だがこれから「緑色のドレス」といえば、キーラ・ナイトレイが『つぐない』で着たこのドレスを指すことになるだろう。

Images from movie Atonement © Focus Features
*この破れやすい取り扱い要注意のガウンの1着が、先日、Variety The Children’s Charity of Southern Californiaによりチャリティオークションにかけられ、46,000ドル(約460万円)で落札された。予備のボディやスカートは付いてこないようだ。
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