エレン・バーキンとJARの宝石

10月10日、ニューヨークのクリスティーズが、女優エレン・バーキンの宝飾品コレクションをオークションにかけた。

毎年秋に開催されるクリスティーズのオークション”Magnificent Jewels”の目玉の一つで、9月には香港や東京、ジュネーブやパリといったアメリカ国外での展示会に続き、ヒューストンやダラス、ロサンゼルス、シカゴでも展示された100点を超えるコレクションだ。

中でも、滅多に市場に出回らない、カルト的人気を誇るパリのジュエラーJARの宝飾品が17点も含まれていることが話題になっている。

だが「エレン・バーキン」「パリのジュエラーJAR」と聞いても、余りピンと来ないかもしれない。

バーキンはその昔、セクシー女優として世間を虜にした女優だ。いわゆる正統派美人からは少し外れているが、全身からシャープでとんがった雰囲気を放出し、他の女優には無い危険なセクシーさがある。

もし、まるで抜き身のナイフのようなバーキンのセクシーさに触れたことがなければ、ハロルド・ベッカー監督のスリラーShe of Love『シー・オブ・ラブ』(1989年)とブレイク・エドワーズ監督のSwitch『スウィッチ/素敵な彼女?』(1990年)を見てもらいたい。

アル・パチーノと共演した『シー・オブ・ラブ』でのバーキンは、雨粒が肌に触れようもんなら一瞬にして蒸気になるのではないかと思うくらいホット。(しかも、その脚線美の美しいこと!)『スウィッチ/素敵な彼女?』では、殺された性差別主義者男が女に生まれ変わり、自分の性差別を反省しつつ自分を殺した犯人を追うという役をコミカルに演じ、ゴールデングローブ賞にもノミネートされた。この2本を見るだけでもエレン・バーキンの魅力を堪能できるはずだ。

そのエレン・バーキンは最近スクリーンにはほとんど姿を見せなかった。

それもそのはず、バーキンは2000年6月に化粧品超大手のレブロン社会長である大富豪、ロナルド・ペレルマンと結婚して彼の4番目の妻となり、ペレルマンが妻を側から離さなかったため映画の仕事があまりできなかったのだ。

企業の「乗っ取り屋」として有名なペレルマンは、1985年にレブロン社の全株式を現金で買いとった実業家。総資産は60億ドル(約7200億円)と言われている。その彼は嫉妬深いことでも有名で、バーキンが昔出演した映画のラブシーンを見るだけで腹をたて、結婚後は妻が出演する映画はヌードシーンやラブシーンはもちろん、キスシーンもご法度、脚本は事前にチェックして許可を出すことにしていたらしい。

登場シーンは全て編集でカットされてしまったものの、実はバーキンは2004年に公開されたOcean’s 12『オーシャンズ12』にも小さな役で出演していた。この映画の撮影の為にほんの36時間ばかり家を空けたことがペレルマンの逆鱗に触れ、バーキンは子供達を連れてホテルに避難することになったというエピソードもある。

結局、ペレルマンとバーキンは今年のバレンタインデーに離婚。

この離婚はバーキンにとっては寝耳に水で、突然ペレルマンの弁護士から離婚を言い渡され、ガードマンが見張る中、荷物をまとめて家から引っ越しするという屈辱を受けた。

今回クリスティーズでオークションにかけられたのは、バーキンがベレルマンと結婚していた5年半の間に元夫から贈られた100数点の宝飾品全て。その中には離婚を言い渡される2週間前に送られた宝石や、結婚指輪も含まれている。

10月10日、’Magnificent Jewels from the Collection of Ellen Barkin’と題して行われたオークションの売り上げは、当初の見積もりを遥かに越えて$20,369,200(日本円にしてざっと24億4000万円)にまで達した。個人の宝石コレクションの売り上げとしては、北米ではここ15年で最高額だ。

この、エレン・バーキンのコレクションはその売り上げ総額もさることながら、その宝石達のすばらしさが大きな話題になった。バーキンのセンスが光る美しくレアな宝飾品ばかりがずらりと並び、どれをとっても持ち主の個性的な美しさに負けないスタイリッシュでシックなジュエリーたちだ。

特に目を見張るのが、前述したパリのジュエラー、JARの宝石の数々。

JARはパリのヴァンドーム広場にひっそりと店を構える知る人ぞ知るジュエラー。お店と言ってもショーウィンドウも無く、決まった営業時間も無く、広告もしていない。閉ざされたドアは限られたごくわずかな人たちにだけ開けられ、噂では、JARの宝石を買うことが許されているのは世界中にたった250人しかいないそうだ。客がジュエラーを選ぶのではなく、ジュエラーが客を選ぶのだ。

JARの宝石は、20世紀後半で最も重要なジュエリーデザイナーとささやかれる、ジョエル・アルテュール・ローゼンタール(Joel Arthur Rosenthal)によってデザインされる。ニューヨークはブロンクス出身の宝飾デザイナー、ローゼンタールは、特別な顧客を念頭において宝石をデザインし、全てが1点もの。年間に制作されるのはわずか70〜80点程度だ。

しかも、それを身につけようとしている人にその宝石が似合わないとローゼンタールが判断した場合、「これはあなたにはお売りできません」ということもある。

彼の宝石の特徴は、メレダイヤのような小さな石をきっちりと並べてセッティングするパヴェ。非常に精巧に細工されているので、まるで宝石だけが並んでいるように見える。また、他のジュエラーとは異なり、暗い色の金属を合金の材料として好んで使い、暗めの金属で宝石の色を際立たせる手法をとったり、宝石をわざと逆さまにセッティングしたりと奇抜なデザインをすることでも有名だ。

今回、エレン・バーキンのコレクションに含まれていたJARの宝石の写真がこちら。

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最高値を付けたのはJAR独特の”スレッド” リングと呼ばれるデザインの指輪。プラチナのワイアー糸に通された小さなダイヤが22.76カラットのオーバルカットダイヤを取り囲む。落札価格は$1,808,000(約2億1700万円)だった。

写真ではそれぞれの宝石の大きさがよくわからないが、細長いオーバルカットのオレンジ色トパーズをルビーとダイヤが縁取る耳飾りをバーキンが身につけている写真があり、これを見るとこの耳飾りが非常に大きいことがわかる。

通常、宝石類が中古市場に出回るとき、たいていは元値の3分の1程度の値段で取引される。だが、JARの宝石はその希少さと精巧さとで最初の持ち主が支払った金額の倍の価格で必ず売れると言われている。

しかも、JARの宝石の持ち主が宝石を手放すのは非常に珍しく、宝石のオークションでは世界一を誇るクリスティーズでも年に1、2点が扱われる程度。クリスティーズでは過去に合計62点、サザビーズでは18点を取り扱ったことがあるのみだ。

そのJARの宝石が一度に17点もオークションにかけられた今回の”Magnificent Jewels from the Collection of Ellen Barkin”。話題沸騰も当然で、世界中でたった250人、選ばれた者しか身につけることを許されない宝石を手に入れるチャンスを、コレクターや一点ものの宝石を探している金持ちが見逃すはずもない。オークションは大成功に終わったのだ。

ところで、ペレルマンと結婚していた5年半の間にバーキンが手に入れた宝石のうち、彼女が今回のオークションには出さずに手元に置いておいた指輪がたった1つだけあるらしい。

それは、JARのデザイナー、ジョエル・ローゼンタールから個人的にプレゼントされたダイヤモンドの指輪。2人は同じNYブロンクスの出身だけあって、今は友人同士。元夫からもらった宝石はもういらないが、友人からもらったものは大切に取っておくというわけだ。

もうトロフィーワイフではなくなったんだから、宝石はそれ1つあれば十分だというバーキンは、元夫から贈られた宝石類を売って得たお金は全て、兄と一緒に始めた映画製作プロダクション会社につぎ込むことにしたという。

Photo courtesy of Christies

*エレン・バーキンとロナルド・ペレルマンの結婚と離婚の詳細については、New York Magazineのこの記事が詳しい。

 

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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