Theater Review: The Drowsy Chaperone『ドラウジー・シャペロン』

新しい古き良きミュージカルコメディにオタクの魅力が炸裂!

2006年のトニー賞で5部門を受賞した ‘The Drowsy Chaperone‘ (『ドラウジー・シャペロン』)の主役は異色のキャラクターだ。

憂鬱な時は部屋にこもり、お気に入りの古いミュージカルのアルバム(当然レコード)を聴いて現実逃避するのが趣味という、ただ椅子に座っているだけの冴えない男。

尻まで隠れるダボダボカーディガンを着て「彼女いません」光線を四方八方に放っている。

その「椅子に座る男」が主役なのだ。

「気晴らしが必要だ」と言う彼が、一番のお気に入りだと説明しながら1920年代の架空ミュージカル『ドラウジー・シャペロン』のオリジナルキャストアルバムを聴き始める。

そして「ミュージカルはこうでなくっちゃ」と、たっぷりウンチクをタレ始める。

すると、あーら不思議、「ドラウジー」の出演者達が舞台に次々と登場し、目の前で歌って踊って芝居を始めるではないか!

「椅子に座る男」ことオタクのオヤジの現実逃避パワーとミュージカル愛が、彼の家に『ドラウジー・シャペロン』のキャスト達を呼び出してしまうのだ。

つまり観客は、彼の夢想の世界を一緒に体験していく、という趣向。

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Bob Martin and Beth Leavel in Drowsy Chaperone. Photo by Joan Marcus

しかし、はっきり言ってこのオヤジがいたくお気に入りのミュージカル『ドラウジー・シャペロン』には内容があまりない。

厚みはティッシュペーパー程度で、物語はいたって単純。

人気舞台女優のジャネット・ヴァン・デ・グラーフ(歌って踊れる芸達者なサットン・フォスター)が結婚のための引退を宣言する。

それに困ったプロデューサーが結婚を阻止しようとラテン系の色男アルドルフォ(ダニー・バーンスタイン)に花嫁を誘惑させる。

そのせいでドタバタ珍騒動が起こるが、結局は明るい結婚式で幕を閉じる、というストーリー展開。

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Sutton Foster in the Drowsy Chaperone

通常ならこんな薄っぺらい物語なぞ面白くもなんともない。

おまけにこのオタクのオヤジが調子に乗ってところどころで「ここが僕の大好きなシーン!」とか「実はこの俳優はこの時……」と口を挟むせいで、ありがた迷惑ですらある。

でも「まいったな~」と思いながら「椅子に座る男」のウンチクを聞いているうちに、こんな薄っぺらいミュージカルをそこまで愛しているオヤジがだんだんと愛おしくなり、知らず知らずの間に胸キュンしてしまうのである。

恐るべし、オタクの魅力!

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Danny Burstein and Beth Leavel in The Drowsy Chaperone. Photo by Joan Marcus

オタクの魅力を撒き散らす「椅子に座る男」を演じるのは、友人のドン・マッケラーと共にこのミュージカルの本を書いたボブ・マーティン。

このミュージカルはもともと、結婚を控えていたマーティンと婚約者のジャネットのために、マッケラーを始め、リサ・ランバートとグレッグ・モリソン(曲と歌詩)らがパーティの余興用に作ったものだ。

人気舞台女優役の名前はマーティンの婚約者のフルネームがつけられ、女優の婚約者の男前にはマーティンの名前がつけられた。

その余興ミュージカルが徐々に発展し、トロントのフリンジフェスティバルを経てトロントの商劇場で公演、そしてとうとうブロードウェイに至る。

ブロードウェイでは既製のヒット曲に無理矢理物語をくっつけたジュークボックスミュージカルや、英国が誇るサー・アンドリュー・ロイド・ウェーバー作の輸入ミュージカル、映画の中途半端なミュージカル化や、長篇シリーズ物小説のもっと中途半端なミュージカル化作品ばかりが上演されていた。

そんな作品ばかりを観て少々胸焼け気味だったところ、このミュージカル・ラヴおやじが突如暗闇から登場した。

不意打ちを食らったわたしは、胸に溜まっていたげっぷを思いっきりゲフーと出しきってしまったもんだから、もう気分爽快!

オタクの世界にどっぷり浸かって爽やかになれるという、予想だにしていなかったシアター体験をしたのであった。

All Production Photos by Joan Marcus

*NY Niche2006年6月号掲載記事を改訂掲載

The Drowsy Chaperone
The Marquis Theatre
1535 Broadway
New York, NY 10036
オフィシャルウェブサイト
プレビュー:2006年4月3日
オープン:2006年5月1日
終演:2007年12月30日

上演時間:1時間40分

Production Credit: Music and lyrics by Lisa Lambert and Greg Morrison; book by Bob Martin and Don McKellar, by special arrangement with Paul Mack. Directed and choreographed by Casey Nicholaw. Sets by David Gallo; costumes by Gregg Barnes; lighting by Ken Billington and Brian Monahan
Cast: Danny Burstein (Adolpho), Sutton Foster (Janet Van De Graaff), Georgia Engel (Mrs. Tottendale), Edward Hibbert (Underling), Troy Britton Johnson (Robert Martin), Bob Martin (Man in Chair), Eddie Korbich (George), Lenny Wolpe (Feldzieg), Jennifer Smith (Kitty), Jason Kravits (Gangster No. 1), Garth Kravits (Gangster No. 2), Beth Leavel (the Drowsy Chaperone) and Kecia Lewis-Evans (Trix)

The Drowsy Chaperone (Original Broadway Cast Recording)

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