今年のアカデミー賞授賞式も終わり、アワードシーズンが終了した。
映画のアワードシーズンといえば、もちろん前年公開された素晴らしい映画がどんな風に評価されるのか確認するのが一番のお楽しみだ。だがそれと同じぐらい楽しいのがレッドカーペットに登場するスター達のファッション・ウォッチング。
どのスターがどんなドレスにどんなジュエリーを付けて、どんなヘア&メイクでレッドカーペットを歩くのかを見るのは、面白い映画1本分に相当するドキドキとワクワクときらびやかさがある。
今までノーマークだった女優が美しい姿で登場するのを見てハッとしたり、センスが良いと言われている女優が思いっきりハズすのを見て「うわっ!」と思ったり、目をむく奇抜な装いで現れるスターにギョッとするのもお楽しみの一つ。
今年のオスカー・レッドカーペットで目を引いたのは、オレンジ色のドレスが可憐で美しいミッシェル・ウィリアムズ。
Michelle Williams at the 78th Academy Awards
キーラ・ナイトレイは残念なことになんだか老けて見え、ドレスとネックレスが合っているのか合っていないのか判断つきかねる装い。
Keira Knightley at the 78th Academy Awards
そしてギョッとさせてくれたのは、シャーリーズ・セロンが左肩に乗っけていた巨大なリボンだろう。
Charlize Theron at the 78th Academy Awards
そのレッドカーペットの上を歩くスター達のほとんどが、ドレスやジュエリーをレンタルするという事実は、すでに多くの人が知っていることだろう。だが今年のアカデミー賞に自前のドレスでやってきたセレブが2人いる。
一人はパリのヴィンテージショップで見つけたという1955年のディオールのヴィンテージドレスを着ていたリース・ウィザースプーン。
Reese Witherspoon at the 78th Academy Awards
今年のゴールデングローブ賞授賞式でシャネルから「ヴィンテージ」と言われて借りてきたホワイトにシルバーがあしらわれたキュートなカクテルドレスが、3年前のゴールデングローブ賞アフターパーティでキルスティン・ダンストが着ていたドレスだった(しかも、ヘアスタイルまで同じだった)と話題になって懲りたのか、他のセレブとかぶらない本物のヴィンテージドレスを探してきたようである。
Reese Witherspoon at Golden Globe Awards
Kirsten Dunst at Golden Globe After Party in 2003
もう一人はロサンゼルスにある超有名&高級&予約しないと店に入れてもらえないセレブ御用達ヴィンテージブティック、Lily et Cieで買ったというドレープが美しいグリーンのドレスを着ていたジェニファー・ロペス。
Jennifer Lopez at the 78th Academy Awards
借り物のドレスで登場するセレブばかりの中、レッドカーペットでのインタビューで自分で買ったと自慢げに話していた J.Lo だが、メイクのハイライトとライトの相性が悪かったのか、テレビでも写真でもアイラッシュたっぷりの目がしょぼしょぼに見えてしまったのが残念だ。
Jennifer Lopez
アワードのレッドカーペットでファッショナブルな姿を見せることはスターにとってはイメージアップや存在のアピールにもつながる重要な機会だが、ファッションブランド側にとっても重要なチャンスだ。
アメリカだけでも4000万人以上の視聴者がいると言われているアカデミー賞で注目を浴びるスターが、自社ブランドのガウンを着てくれるとなればその広告効果は果てしない。
もちろんこれは、テレビを見た一般視聴者が「ニコール・キッドマンが着ていたシャネルのあのクチュールドレスを買うのだ!」とシャネルに押し寄せるという話ではない。
だが、「あら! シャネルって素敵!」と思った一般視聴者に、シャネルの香水や口紅、ハンドバッグや靴を買いに走らせる効果があるのだ。
実際、今まで聞いたことも無かったブランドの名前をアカデミー賞のレッドカーペットで耳にし、その存在を知るという人は多い。
テレビや雑誌で広告を打つには多額の広告費がかかる。アメリカ国内の広告だけでもそうなのだから、全世界的な広告となれば費用も莫大だ。だが、世界中で放映され、世界中の多くの人間が見るアカデミー賞授賞式で、世界中が注目するスターが自社ブランドのガウンを着てレッドカーペットを歩いてくれるとなれば、ブランド側にとっては大きな宣伝だ。たとえお誂えになったとしても、そのスターにドレス1着貸し出すなんておやすいもの。ブランド側が「ぜひ我がブランドのドレスを!」とプロモーションに躍起になるのも当然で、水面下では、ブランド側とセレブ(とそのスタイリスト)側との駆け引きや取引が行われる。
そんなプロモーションや駆け引き、取引の中で典型的な方法がこの3つ。
その1:セレブへのご褒美
ずばり、ブランド側がセレブにご褒美を与えるのだ。
2002年のオスカーの際、高級ジュエラーのハリー・ウィンストンはプロモーションをして、女優たちに空っぽの指輪の箱と招待状を送りつけた。その招待状には「オスカーで私どもの宝石を身に着けてくださるのであれば、この空箱におさめる指輪を選んでいただけます」とあったらしい。
2002年にこの空っぽの箱にハリー・ウィンストンの指輪を納めたのがどのセレブかはわからないが、そのハリー・ウィンストン、実は2005年のゴールデングローブ賞では他のジュエラーにしてやられた。
ハリー・ウィンストンの宝石を身に着けると約束していたシャーリーズ・セロンとヒラリー・スワンクの二人が、賞の24時間前にショパールから6桁の小切手を申し出られて土壇場でショパールに鞍替えしたのだ。
Charlize Theron at the Golden Globe Awards 2005
Hilary Swank at the Golden Globe Awards 2005
ハリー・ウィンストンよりもショパールの褒美のほうが高額だったのは間違いがない。
その2:スタイリストへのご褒美
ビッグイベントのためにスター達はスタイリストを雇うことが多いが、ブランド側はそのスタイリストを狙ってプレゼント攻撃をする。
2000年に最初のオスカーをとったヒラリー・スワンクのスタイリストは、ディオールから1200ドル相当のプレゼントをもらった。その効果あってかスワンクはオスカー授賞式にティオールのガウンを身につけることになった。スタイリストもディオールもそう確信していた。
だが、ギリギリになってスワンクが着ることにしたのはランドルフ・デュークのゴールデン・ブラウンのタフタのドレス。
Hilary Swank at the 72nd Academy Awards
ショパールの6桁の小切手とは違い、1200ドル相当のプレゼントでは移り気なセレブのストッパーにはならなかったということか。
その3:スターとブランドの専属契約
ブランドとスターが、いわゆる専属契約を結ぶのも一般的だ。
有名なのは、『ブリジット・ジョーンズの日記』でおなじみのレネ・ゼルウィガーとキャロリーナ・ヘレラとの取引。
ゼルウィガーはここ数年、レッドカーペットに現れる時はいつもキャロリーナ・ヘレラのドレスを着ているが、それもそのはず、「大きなイベントでレネは必ずここのドレスを着る、その変わりにキャロリーナ・へレラは他の女優にはドレスを一切提供しない」という契約を結んでいるのだ。
Renée Zellweger at the 76th Academy Awards
また、去年のベストドレッサーの1人、ケイト・ブランシェットも昨年はヴァレンティノと「他の人にヴァレンティノのドレスを着せないのなら2005年のオスカーでヴァレンティノを着る」という契約を結んだらしい。
おかげでスーパーモデルのジゼルからドレスを着たいと言われたヴァレンティノはそれを断らねばならなかったそうだ。
Cate Blanchett at the 77th Academy Awards
ちなみに、カルバン・クラインと広告契約を結んでいるヒラリー・スワンクは、去年のオスカーのレッドカーペットにカルバン・クラインのドレスを着て登場するはずだった。
オスカー用のヒラリーのドレスは、何度もミーティングを重ね、2週間以上かけて仕上げられたが、ギリギリになって気が変わりがちなヒラリーが選んだのは、お尻まで背中が開いているブルーのギ・ラロッシュのシルクジャージーのドレス。
このドレスを着たスワンクをみて、カルバン・クラインはさぞかしがっくりしたに違いない。
Hilary Swank at the 77th Academy Awards
こんな風に、レッドカーペットを歩く美しいセレブの裏側には、いろんな物語が隠されているのだ。
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