赤狩りと戦うジャーナリスト、エド・マローを描いたジョージ・クルーニーの渋い白黒映画
1950 年2月、ウィスコンシン州上院議員のジョセフ・マッカーシーは「国務省職員の中に共産党員及びスパイ団の団員と名指された者が205人いる」という内容の演説を行った。
1949年に中華人民共和国が成立し、ソ連が原爆実験に成功し、もうすぐ朝鮮戦争が始まるという東西冷戦時代、アメリカは共産党の影に怯えていた。そんな中で行われたこの演説はマッカーシーを反共の英雄にし、いわゆる「マッカーシー旋風」がアメリカ中に吹き荒れることになる。
ジョージ・クルーニーがグラント・ヘスロヴと共に脚本を書き、監督したGood Night, and Good Luck. 『グッドナイト&グッドラック』は、マッカーシズムが浸透して数年が経った1953年のアメリカが舞台だ。
「共産主義者を告発する」という旗印の元に行われた「赤狩り」は、根拠も無いまま、ただ単に誰かに「あいつは赤っぽい気がする」「赤とまでは行かないがピンクくらいかも?」と思われただけで告発され、生活が不当に踏みにじられてしまうという時代。
告発の声がどこから聞こえて来るかわからず皆がビクビクしていた恐怖の時代に、ある予備兵が、セキュリティ上の危険を理由にアメリカ空軍から除隊処分を受け、裁判も無いままに有罪になるという事件が起こる。「赤狩り」だ。
CBSテレビの人気ニュース番組See it Now『シー・イット・ナウ』のアンカーマン、エドワード・R・マローがこの事件を番組で取り上げた。するとマッカーシーから圧力がかかる。
映画は、この圧力に立ち向かってマッカーシーの矛盾と虚偽を指摘し、報道の自由を守るエド・マローの姿を描いていく。

マローを演じるのはデイヴィッド・ストラザーン。物静かながらも信念を貫く男を渋く演じている。
言論の自由が憲法でしっかり保証されているアメリカでも、番組のスポンサーが圧力をかけて放送内容を変えさせようとすることがある。それがたとえニュース番組であっても、だ。
映画は、権力を監視するのが役目であるジャーナリスト達も生身の人間で、赤狩りを恐れ、自分の信念に揺らぎを見せる様をまるでドキュメンタリーのように静かに描いていく。その結果、映画の中のキャラクターが経験する恐怖が、見ている観客の恐怖にもなる。生身の人間の弱みに権力が付け込み、圧力でねじ伏せようとした時に、いかに大きな歪みが生じるかということ、ジャーナリストの役目が一般市民にとってどれほど重要なことかがこちらにじわじわと伝わってくるのだ。

この映画は全編モノクロだ。また、全編セットでカメラが屋外に出るシーンが無い。当時のテレビの雰囲気を出す為の選択だろうが、白黒の美しい画面が余計な情報を排除して物語にさらに緊迫感を与えている。
番組のプロデューサー、フレンドリーとしてスクリーンにも登場するジョージ・クルーニーの監督としての手腕に唸る。
また、この映画、バックに流れるジャズもなんとも言えない雰囲気を醸し出すのに一役かっている。クルーニーの叔母は有名なジャズ歌手のローズマリー・クルーニー。映画には彼女のバンドが実際に出演している。歌は全てダイアナ・リーブスが歌っているが、使っている曲のアレンジも全てローズマリー・クルーニーのもので、ジャズファンを喜ばせるはずだ。
『シー・イット・ナウ』の番組放送中に流れるCMは、今見るからこそわかるアイロニーが効いていて、クルーニーのユーモアのセンスにニンマリする。
映画のタイトルは、マローが番組の最後で必ず言うセリフ「グッドナイト、アンド グッドラック」から取られた。この映画は今年のオスカーに作品賞を含む6部門でノミネートされているが、Crush『クラッシュ』や Brokeback Mountain『ブロークバック・マウンテン』と競い合わねばならないので、少々グッドラックが必要かもしれない。
Photo © Warner Bros.
Good Night, and Good Luck 『グッドナイト&グッドラック』
MPAA Rating: PG
上映時間:93分
監督:ジョージ・クルーニー
製作:グラント・ヘスロヴ
脚本:ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロヴ
出演:デイヴィッド・ストラザーン、ジョージ・クルーニー、ロバート・ダウニー・ジュニア、パトリシア・クラークソン、フランク・ランジェラ、ジェフ・ダニエルズ、テイト・ドノヴァン、レイ・ワイズ
撮影:ロバート・エルスウィット
編集:スティーヴン・ミリオン
US公開日:2005年10月7日より限定公開開始
日本公開日:2006年4月29日限定公開開始(情報更新2016年7月28日)
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