映画と舞台と海外ドラマ

“Certainty is the great enemy of unity.”

by

Conclave (2024) - Ralph Fiennes' Cardinal Lawrence's Sermon Scene

「確信は調和の大敵です。」

今年のアカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされた映画『教皇選挙』Conclave のアメリカでのストリーミング視聴数が激増しているらしい。アメリカでは昨年の10月に劇場公開され、ストリーミングサービスも随分前からスタートしていたが、4月21日にローマ教皇フランシスコが亡くなったことを受けて視聴する人が圧倒的に増えたのだという。

映画『教皇選挙』は、ローマ教皇の死に伴いバチカンで行われる次の教皇を選出する選挙を舞台にしたポリティカルスリラーだ。ロバート・ハリスの同名小説をもとにピーター・ストローハンが脚本を書き、アカデミー賞脚色賞を受賞した。

映画はローマ教皇の突然の死から始まる。観客には名前が明かされない教皇が心臓発作で亡くなったため、枢機卿院長である英国出身のトーマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)が次の教皇を選出するための選挙の指揮をとることになる。バチカンに召集したローマ・カトリックの枢機卿たちのだれもが教皇に指名される可能性を持っているが、特に有力な候補者は4人いた。故ローマ教皇の功績を引き継ぎたいと願う進歩的な枢機卿ベリーニ(スタンリー・トゥッチ)、対照的に故教皇の業績を全て取り消したいと願っている原理主義者のテデスコ(セルジオ・カステリット)、政治戦略に長けた穏健保守派のトレンブレー(ジョン・リスゴー)、そして初のアフリカ出身の教皇になることを願う社会的保守派のアデエミ(ルシアン・マサマティ)だ。

それぞれが、自分こそ世界中に何百万人といるローマ・カトリック信者に貢献できると信じ、あからさまな野心を見せないようにしつつ他の候補者が相応しくないことを知らしめようと画策して控えめなキャンペーンを展開する。そんな思惑がうごめく中、教皇選挙を指揮するローレンス枢機卿院長がこの映画の中で最も印象に残るセリフを言う。

ローレンスは枢機卿たちを目の前にして、人間が陥りがちな「確信」への幻想について説くのだ。

出典:MOVIECLIPS YouTube チャンネル

「聖パウロは、教会に対する神の賜物はその多様性であると言いました。この多様性、人々と彼らの見解の多様性こそが、私たちの教会に力を与えているのです。私たちの母である教会に奉仕する長い人生の中で、私が他の何よりも恐れるようになった罪が一つあります。『確信』です。確信は調和の大敵です。確信は寛容の大敵です。キリストでさえ、最後には確信が持てませんでした。『わが神、わが神、なぜ私をお見捨てになったのですか』と、十字架の上で9時間目に苦悶の叫びを上げました。私たちの信仰は、懐疑と手を取り合って歩むからこそ息づくものです。確信だけがあり、懐疑がなければ、神秘は存在しません。したがって、信仰も必要ありません。懐疑する教皇を神が与えてくださるよう祈りましょう。そして、罪を犯し、赦しを請い、それを続ける教皇をお与えください。

“St. Paul said that God’s gift to the Church is its variety. It is this variety, this diversity of people and views that gives our Church its strength. In the course of a long life in the service of our Mother the Church, let me tell you that there is one sin I have come to fear above all others. Certainty. Certainty is the great enemy of unity. Certainty is the deadly enemy of tolerance. Even Christ was not certain at the end. Dio mio, Dio mio, perché mi hai abbandonato?“My God, my God, why have you forsaken me?” he cried out in his agony at the ninth hour on the cross. Our faith is a living thing precisely because it walks hand-in-hand with doubt. If there was only certainty and no doubt, there would be no mystery. And therefore, no need for faith. Let us pray that God will grant us a Pope who doubts. And let him grant us a Pope who sins and asks for forgiveness and who carries on.

自分は正しい、確かであるという幻想に突き動かされたとき、人は却って大きな害をもたらし得ること、自分が間違っているかもしれないと疑念を抱くことが神とともにいることであり信仰である、そうローレンスは説く。

限られた時間や空間の中で生きている人間が、自分は全てを正しく理解できると思うのは驕りでしかない。人間は間違いを犯すものだ。また人間も社会も常に変化していくものだ。だからこそ、確信を抱いて安定した場所にとどまってしまうことは危険であり、常に自らの確信に疑念を抱いて問いかけていく不安定こそが自分の精神的な世界も自分を取り囲む世界も豊かにしていくことにつながる。

ローレンスのこの説教は枢機卿たちに大きなショックを与え、そしてドラマはここから大きく展開していく。そしてそれぞれの野心や欲望、利己主義と腐敗を描きながら、権力を求めることが人間にどのような影響をもたらすかを浮き彫りにしていく。

教皇選挙のプロセスそのものよりも、人間の内面を深く掘り下げていくドラマとスリラー仕立ての物語に魅せられて最後まで一気に見てしまう映画だ。

『教皇選挙』
Conclave (2024)
Rating: PG

監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
原作:ロバート・ハリス
製作:テッサ・ロス、ジュリエット・ハウエル、マイケル・A・ジャックマン、アリス・ドーソン、ロバート・ハリス
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
音楽:フォルカー・ベルテルマン
出演:レイフ・ファインズ、イザベラ・ロッセリーニ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、セルジオ・カステリット、ルシアン・ムサマティ、カルロス・ディエス、ブライアン・F・オバーン

US公開日:2024年10月25日
日本公開日:2025年3月20日

Top Image:  Screenshot from Conclave © 2024 Focus Features

Leave a Comment

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください