2021年に配信スタートしたApple TV+のオリジナルシリーズ『Schmigadoon!』(シュミガドーン!)を見ていると、「あれは何だ?」と気になる食べ物が登場する。
Corn Puddin’だ。
シーズン1・エピソード1の途中、巨大な寸胴鍋に入って登場するこの料理、Schmigadoon! の街では住民たちが歌い踊るほどの名物らしい。
物語の主人公は、ニューヨークで暮らす医師カップル、ジョシュ(キーガン=マイケル・キー)とメリッサ(セシリー・ストロング)。二人はぎくしゃくした関係を修復しようとバックパック旅行に出かけるが、旅先でも口論が絶えない。やがて道に迷ってしまった二人は、霧の向こうに現れた「Schmigadoon」という奇妙な街に到着する。
そこでは住民たちが突然歌い踊り、恋愛も友情も日常の出来事も、すべてが1940~60年代のミュージカルさながらに展開していた。ジョシュとメリッサは、現実とは別の世界に迷い込んでしまったのだ。
まだそうとは知らない二人は、そこが一種のテーマパークだと思い込み、レストランで食事をしようとする。席に着いた二人に、ウェイトレスのベッツィ(ダヴ・キャメロン)が「今日のスペシャルはCorn Puddin’よ!」と告げる。
「Corn Puddin’? 何それ?」
二人がそう反応した瞬間、待ってましたとばかりに住民たちが歌い踊り始めるではないか!
Apple TV+の Schmigadoon! は、映画「怪盗グルー」(Despicable Me)シリーズなどで知られるシンコ・ポールとケン・ダウリオのコンビによるミュージカルコメディドラマシリーズだ。1947年にブロードウェイで初演されたミュージカル Brigadoon 『ブリガドーン』をパロディーにし、黄金時代のミュージカルを思わせる楽曲や演出に加え、ブロードウェイで活躍する俳優たちを多数起用したことでも話題になった。
TVシリーズはシーズン2で終了したが、『Schmigadoon!』は舞台ミュージカルにもなり、2026年にブロードウェイに進出してトニー賞では作品賞を含む4部門を受賞している。
この Corn Puddin’ は、その舞台ミュージカル版にも登場する Schmigadoon! の名物料理。TV版でも舞台版でもシェフのおじさんが “Who wants Corn Puddin’?” (コーンプディン欲しい人?)と歌いながら、寸胴鍋からドロっとした物体をおたまにすくって見せる。(もっとも、舞台版はもちろん小道具なので実際にはドロっとしていない。)
これが、ウエイトレスのベッツィが「世界的に有名」と豪語する謎の食べ物、Corn Puddin’。
Corn Puddin’って、そもそも何?
日本で「プリン」といえば、卵、牛乳、砂糖などを使ったカスタード系のデザートが頭に浮かぶはず。鍋で蒸したり、オーブンで湯煎焼きにして固めた、なめらかでぷるんとした食感のものだ。
ところが、英語の「pudding」は、そう簡単な話ではない。
英国では「pudding」が食後のデザートコース全般を指すことがある。一方、アメリカの「pudding」は、牛乳などにでんぷんや卵を加えてとろみをつけた、やわらかくクリーミーなデザートを指すことが多い。日本のプリンよりもカスタードクリームに近く、私が初めて見た時には、「でんぷん糊?」と思ったもんだ。
さらに、「puddin’」にはスラングとして別の意味もある。恋人への呼びかけに使われるほか、女性器を指す婉曲表現として使われることがあるのだ。
と、ここまで知ってから『Schmigadoon!』のCorn Puddin’を聴き直してみると、まあ、意味深なことこの上ない。
住民たちは Corn Puddin’ について歌い踊っている。そうなのだが、実はどうもそれだけではなさそうだ。
さておき、問題は食べ物としてのCorn Puddin’である。
ドラマでは、巨大な寸胴鍋で調理されたドロっとした食べ物として登場する。アメリカの「pudding」と聞いて想像するものにとても近い。とはいえ、メリッサとジョシュの「何それ?」という反応を見るかぎり、アメリカ人なら誰でも知っている料理というわけでもなさそうだ。
「いったいどんな味でどんな舌触りなんだろう? コーングリッツのようなもの? それともコーンブレッドに似たもの?」
そんなことをあれこれ考えていた時、ひょんなことから、ブロードウェイの劇場関連イベントで参加者にだけ配られた、The Schmigazette! というプロモーション用の新聞を入手した。
そして、その裏面には……
謎のCorn Puddin’のレシピが載っているではないか!
これはもう作るしかない。

ところが、レシピをじっくり読んで見ると、このCorn Puddin’は鍋で作るのではなく、オーブンで焼くことになっている。
なんでじゃ!?
そんなはずはないと思ってインターネットでいろいろ検索してみるが、見つかったレシピはどれもオーブンで焼くものばかり。作る途中で鍋に入れて加熱するというプロセスもない。
じゃあTVや舞台に登場するあの巨大な寸胴鍋はいったい何なのか?
と疑問に思ったものの、特別なイベントで配布された舞台版のプロモーション用新聞に掲載されているのだから、これで作れば間違いないはず。そう自分を納得させ、早速作ってみることにした。

材料(6〜8人分)
- Jiffy Corn Muffin Mix 1箱
- 溶かしバター 1/2 American Cup (=113g)
- クリームコーン 1缶
- 粒コーン 1缶(水を切っておく)
- サワークリーム 8オンス(=236g)
- 卵 2個
作り方
- オーブンを350°F(175°C)に予熱しておく
- ボウルに卵を割り入れて軽くほぐし、溶かしバター、サワークリーム、クリームコーン、粒コーンを入れてよく混ぜる。
- 2のボウルにJiffy Corn Muffin Mixを入れ、ふわふわになるまで混ぜる。それを8×8 in(20×20 cm)の耐熱容器に入れる。
- 3を予熱しておいたオーブンで約45分、狐色になるまで焼く。
- 歌って踊る。
どうやらこのレシピは On Sutton Place というウェブサイトで紹介されている「Jiffy Corn Casserole Recipe」をもとにしたものらしく、JIFFYのコーンマフィンミックスを使うことになっている。


パッケージの印刷によると、このマフィンミックスは1930年からあるというのだから、Schmigadoon! の街にあってもおかしくない。
だが、レシピをもとに作ったCorn Puddin’は、やはりTVや舞台に登場するものとは似ても似つかない見た目に出来上がる。どうみてもケーキで、スプーンですくってもドロっとした生々しい感じが全くない。

食べてみると、確かにケーキよりはしっとりしているものの、柔らかめのコーンマフィンやコーンブレッドという方が近い。味は普通に美味しいのだが、TVや舞台で見るあのビジュアルから想像するような食感ではない。
TVのスクリーンに映るあのCorn Puddin’は、むしろ耐熱皿に入れてオーブンで焼く前の、材料を混ぜ合わせた状態に近いのだ。

©︎Apple TV+

まさか、街の住民は、火が通っていない、生の状態を食べているのか?
それでお腹を壊して転がりまわるうちに、それが歌と踊りになったというのか?
あるいは、この舞台版の限定配布新聞に掲載されたレシピとは別に、大鍋で作る版のマル秘レシピがどこかに存在するのか?
謎は深まるばかりで、これはもう、あの曲に合わせて歌って踊るしかない。
もう一つのCorn Puddingを作ってみた
実は、舞台版のレシピを作ってみるより前に、別のレシピでもう一つCorn Puddingを作っていた。
インターネットでいろいろ検索していた時に、New York Timesで見つけた、ミン・ジン・リーのコーン・プディングレシピだ。ミン・ジン・リーは、Schmigadoon! と同じく、Apple TV+でドラマ化された小説 Pachinko (パチンコ)の作者。
なんでも、彼女が新婚時代に招かれた食事会で食べて気に入ったCorn Puddingのレシピをもとにしたものらしい。
作り方を見ると、バター、コーン、牛乳、卵、砂糖、小麦粉、塩といった材料を全部ミキサーに入れてガーっと混ぜ、それを容器に入れてオーブンで焼くだけ。
ドラマや舞台で見る大鍋料理ではないものの、「舞台版のレシピもオーブンで焼くのだから、簡単そうなこっちを試してみない手はない」と思って作ってみたのだ。
出来上がったものは、こちらのほうがやわらかくてふわふわ。まるで韓国料理屋のパンチャン(반찬、おかず)で出てくるケランチム(계란찜)のコーン版のよう。スプーンですくってパクパクペロリと食べてしまう。
正直なところ、Schmigadoon! の街の人々には、このレシピをお勧めしたくなった。
Top Image: ©︎ Apple TV+

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