「必要なら賢くもなれるわよ。でも、男の人ってそういうのはあまりお好きじゃないの」
1953年公開のミュージカル・コメディ映画『紳士は金髪がお好き』(Gentlemen Prefer Blondes)で、マリリン・モンロー演じるショーガール、ローレライ・リーが口にするこのセリフは、おそらく映画史でも屈指の名言だろう。
なんせこのセリフの中には、ジョークも、人生哲学も、当時の性差別への皮肉も、そしてローレライという女性の知性も詰まっているからだ。
ハワード・ホークス監督、チャールズ・レデラー脚本のこの映画は、1949年に上演された同名のブロードウェイ・ミュージカルが原作で、そのミュージカル自体も1925年発表のアニタ・ルースの同名小説をもとに制作されている。
物語の主人公は二人のショーガール、ローレライ(マリリン・モンロー)とドロシー(ジェーン・ラッセル)。親友同士の二人は、見事に異なる恋愛観を持つ。
ローレライは男性の経済力重視で、何よりも大好きなダイヤモンドを惜しみなく買ってくれる裕福な男性に惹かれる。
一方のドロシーはルックスと筋肉重視。財布の膨らみよりも上腕二頭筋の膨らみのほうがお好き。
この二人の対照的な価値観は劇中の二つのミュージカルナンバーでも表現される。
ローレライは ‘Diamonds Are a Girl’s Best Friend‘ を歌ってダイヤモンドを讃え、ドロシーは ‘Ain’t There Anyone Here for Love‘ を歌ってオリンピック選手たちの筋肉美を讃えるのだ。
出典:YouTube
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この ‘Diamonds Are a Girl’s Best Friend’ のパフォーマンスとピンクのドレスはその後何度もオマージュされているので、映画を見たことがなくても、このシーンだけは知っているという人も多いはず。特にマドンナの ‘Material Girl‘ のミュージックビデオが有名だ。
実は、この映画に登場する豪華なダイヤモンドは撮影用の小道具ではなく、本物のハリー・ウィンストンのジュエリーが使われているのだが、マドンナのミュージックビデオと見比べてみると輝きの違いがよくわかるはず。
だが、この映画を見終わって心に残るのは、ハリー・ウィンストンのダイヤモンドではなく、ローレライとドロシーという二人の女性の友情だ。
ローレライは裕福なガスと婚約し、二人でパリに行って結婚するはずだった。だが、ガスの厳格な父エズモンド・シニアはそれに待ったをかけ、ローレライが金目当てで息子に近づいた証拠を探すために私立探偵アーニー・マローン(エリオット・リード)を雇って彼女を監視させる。
ローレライ、ドロシー、そしてマローンはフランスへ向かう大西洋横断船に乗るが、ここから事態が少々ややこしくなる。
マローンはドロシーに恋をし、ドロシーもまた、彼が親友を陥れようとしているとは知らずに惹かれていく。
一方のローレライは、ダイヤモンド鉱山を所有する富豪の「ビギー」ことビークマン卿と出会い、その夫人が身につける見事なティアラに心を奪われる。
このティアラを巡って騒動が巻き起こるのだが、その渦中でローレライとドロシーの友情が静かな光を放つのだ。
二人は恋愛観も価値観もまるで違うのに、お互いを変えようとはせず、ただ信頼し、支え合い、必要な時には迷わず味方になる。二人が結託して男たちの偏見や思い込みを軽々と出し抜いていく様子は実にチャーミングで、この友情があるからこそ、ローレライというキャラクターが単なる「お金持ちと結婚したい女性」という一言では説明しきれない存在になった。
映画の終盤、エズモンド・シニアから「息子の金だけが目当てなんだろう」と責められたローレライはこう応える。
“Don’t you know that a man being rich is like a girl being pretty? You wouldn’t marry a girl just because she’s pretty, but my goodness, doesn’t it help? And if you had a daughter, wouldn’t you rather she didn’t marry a poor man? You’d want her to have the most wonderful things in the world and to be very happy. Well, why is it wrong for me to want those things?“
「男の人がお金持ちなのって、女の人が美人なのと同じことなのよ? 美人ってだけで結婚はしないでしょうけど、でも、それに越したことはないでしょう? それに、もしあなたに娘がいたら、わざわざ貧乏人と結婚してほしいなんて思わないでしょう? 娘に世界中の素敵なものを持たせてやりたい、誰よりも幸せになってほしい、って思うでしょう? だったら、私がそういう人生を望むことが、そんなに悪いことかしら?」
ローレライにこう言われたエズモンド・シニアは、思わずこう返す。
“Well, I can see that… Say, they told me you were stupid. You don’t sound stupid to me.”
「なるほどね……。でも、君は頭が悪いって聞いていたんだが、馬鹿には見えん。」
これに対する返答が、ローレライのこの名言。
“I can be smart when it’s important, but most men don’t like it.”
「必要なら賢くもなれるわよ。でも、男の人ってそういうのはあまりお好きじゃないの。」
女性は賢く振る舞わない方がこの社会では得をすることが多い。この現実をローレライは冷静に見抜き、それをさらりと言ってのける。その価値観を真正面から糾弾するわけでもなく、声高に批判するわけでもなく、ただ軽く微笑みながら「そういうものでしょ?」とすっと急所を突く。
そしてローレライが、
“Except Gus. He’s always been interested in my brain.”
「でもガスだけは別よ。彼はいつも私の頭の中身にも興味を持ってくれるの」
と続けると、エズモンド・シニアは間髪入れずにこう返す。
“No. No, that much of a fool he’s not.”
「いや。いや、あいつもそこまで馬鹿じゃない。」
思ったより賢そうだと認めた舌の根も乾かぬうちに、「だからといって、うちの息子がお前の知性に惚れるわけがない」と見下す。
これに思わず吹き出しながらも、ローレライはそういう社会で自分の望む幸せを手に入れようとしているのだということに思い至り、この映画で一番賢いのはやはりローレライだよな、と確信する。
彼女だけが、お金の力も、男たちの虚栄心も、社会の偏見も、自分自身がどう見られているかも、すべてを理解している。そして、その上であえて「おバカな金髪美女」を演じているのだ。
実際のところ、ローレライが演じている「おバカな金髪美女」という役柄をいちばん真に受けているのは彼女の周りの男たちだ。そのことに気づいた瞬間、この映画は単なるミュージカル・コメディではなくなる。
そういえば、2026年6月1日はマリリン・モンローの生誕100周年記念日だった。
このセリフはマリリン・モンロー本人の提案で脚本に加えられたそうだが、そう思って見返すと、ローレライの笑顔の奥から、「おバカな金髪美女」という偏見を巧みに演じて大スターとなったマリリン本人がこちらに向かってそっとウインクしているような気がしてくる。
『紳士は金髪がお好き』
Gentlemen Prefer Blondes (1953)
Rating: Not Rated
監督:ハワード・ホークス
脚本:チャールズ・レデラー
原作:アニタ・ルースの同名小説を元にしたジョセフ・フィールズの1949年の舞台ミュージカル
製作:ソル・C・シーゲル
撮影:ハリー・J・ワイルド
音楽:ライオネル・ニューマン
出演:マリリン・モンロー、ジェーン・ラッセル、トミー・ヌーナン、チャールズ・コバーン、エリオット・リード、テイラー・ホームズ
US公開日:1953年7月15日
日本公開日:1953年8月26日
Top Image: Screenshot from Gentlemen Prefer Blondes © 20th Century Fox

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