「あなたあんまり賢くないでしょう? そういう男性、好きよ。」
キャスリーン・ターナー演じるファム・ファタールが、ウィリアム・ハート演じる無能で図々しい女たらしの弁護士と初めて出会った時に言うのがこの有名なセリフ。これまで脚本家として知られていたローレンス・カスダンの監督デビュー作となった1981年公開のフィルム・ノワール映画『白いドレスの女』Body Heat の序盤に登場するセリフだ。
南フロリダで弁護士をしているネッド・ラシーン(ウィリアム・ハート)は弁護士業より女性と一夜限りの関係を持つ術に長けている。ある暑い夜、ネッドは野外コンサートで白いドレスを来た美しい女性マティ・ウォーカーズ(キャスリーン・ターナー)を見かける。コンサートから抜け出して浜辺で涼むマティを引っ掛けようとネッドが声をかける。
涼みながらタバコを吸うマティに近づいたネッドの口説き文句は
「ここに僕と一緒に立っても構わないけど、暑さについて話さないことに同意してもらわないとね」(You can stand here with me if you want but you’ll have to agree not to talk about the heat.)
と図々しい。ネッドをちらりと見たマティは「結婚してるから」(I’m a married woman.)と素っ気なく応えてあしらおうとするが、ネッドは「どう言う意味だ?」(Meaning what?)と食い下がる。
「話し相手を求めてないって意味よ」(Meaning I’m not looking for company.)と言うマティにネッドは「それなら、私は幸せな結婚生活を送っていますと言うべきだったね」(Then you should have said I’m a happily married woman.)としつこい。マティは「それは私だけの問題」(That’s my business.)と返すが、それでも諦めないネッドにマティが言うのがこの有名なセリフだ。
“You’re not too smart, are you?” (あなたあんまり賢くないでしょう?)
そしてその後にすぐさま “I like that in a man.”( そういう男性、好きよ)と続けるのだ。
このセリフとこのシーンで描かれる二人の関係はこの映画のその後の展開を暗示する。マティにあまり賢くないと宣告されたネッドはマティの虜になり、二人は欲望のままに情事を繰り返す。そしてその情事がマティの年上で富豪の夫エドモンド(リチャード・クレンナ)の殺害計画へと進んでいくのだ。
カスダンの『白いドレスの女』は、1944年のビリー・ワイルダー監督の『深夜の告白』Double Indemnity や、1946年のテイ・ガーネット監督の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 The Postman Always Rings Twice といったフィルム・ノワールを彷彿とさせ、フィルム・ノワールにつきものの誘惑と駆け引きと裏切りと予想外の展開が満載だ。
キャスリーン・ターナーはこの映画公開前はオフ・ブロードウェイとブロードウェイの舞台作品やTVドラマに出演していたものの映画には出演したことがなく、ほぼ無名だった。だがこの映画のマティとネッドの官能的な情事のシーンがセンセーションを巻き起こし、ターナーは一躍セックス・シンボルとなる。その後のターナーは本作で演じたファム・ファタールに似た役を避けてコメディやアクションコメディに出演するという賢い選択をする。そしてマイケル・ダグラスと共演した『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』 Romancing the Stone (1984)の大成功で推しも推されぬ大人気女優となっていくのだ。
また、本作はウィリアム・ハートが主役級の役者としての位置を獲得し、脇役で登場するミッキー・ロークのブレイクとなった作品でもある。
『白いドレスの女』
Body Heat (1981)
Rating: R
監督:ローレンス・カスダン
脚本:ローレンス・カスダン
製作:フレッド・T・ギャロ
撮影:リチャード・H・クライン
音楽:ジョン・バリー
編集:キャロル・リトルトン
出演:ウィリアム・ハート、キャスリーン・ターナー、リチャード・クレンナ、テッド・ダンソン、J・A・プレストン、ミッキー・ローク
US公開日:1981年8月28日
日本公開日:1982年2月20日
Top Image: Screenshot from Body Heat © Warner Bros.

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