「奇妙な世の中だ。そうだろ?」
1月15日に亡くなったデイヴィッド・リンチの代表作の一つが1986年に公開された映画『ブルーベルベット』Blue Velvet だ。
『ブルーベルベット』はその有名なオープニングシーンで、青空と白いピケットフェンスにその脇で咲き誇る真っ赤なバラや黄色いチューリップと青々とした芝生を彩度の高い映像で見せ、その下で日の目を見ない虫が蠢いている様子をじっくりと映し出す。そしてこのオープニングが象徴するように、アメリカのどこにでもありそうな平凡で明るく幸せそうな郊外の中流階級の街も、その裏にはドス黒い不穏なものが蠢いていることを描いていく。
大学生のジェフリー・ボーモント(カイル・マクラクラン)は、父親が脳卒中で倒れたため故郷のランバートンに帰ってきた。入院中の父親を見舞った帰り道、ジェフリーは荒れた空き地で切断された人間の耳を見つけ、それを地元の刑事ジョン・ウィリアムズ(ジョージ・ディッカーソン)に届ける。ミステリー好きのジェフリーは事件捜査に興味を持つが、警察が正式に捜査中の事件について知ることは不可能だ。そんなとき、ウィリアムズ刑事の娘サンディ(ローラ・ダーン)から、父親が事件について話しているのを漏れ聞いたと断片情報を教えてもらう。
サンディによるとどうやらナイトラウンジの歌手ドロシー・ヴァレンス(イザベラ・ロッセリーニ)が事件に関係あるらしい。ドロシーの住むアパートビルはジェフリーの家のすぐ近くにあり、ジェフリーが耳を拾った空き地の近くだ。
それを聞いたジェフリーが言うのが有名なこのセリフ。
このシンプルなセリフはこの後何度も繰り返し出てくるが、映画が描写している世界が奇妙なだけに、この映画そのものを表現しているようにも聞こえる。
また、このセリフは無邪気なティーンエイジャーの2人が世の中は見た目どおりの単純で綺麗なものではないかもしれないと気づいたことも表す。
この後、ジェフリーはサンディの助けを得ながら独自に調査を進め、やがてフランク(デニス・ホッパー)というサディスティックな犯罪者と、フランクに夫と息子を人質に取られて性的虐待を受けるドロシーや、フランクとつながるある人物の関係と公的機関の汚職を知ることになる。だがジェフリーは犯罪の謎に迫るだけではなく、その犯罪にどっぷり巻き込まれていくことになるのだ。
『ブルーベルベット』は後に大人気となるテレビシーズ『ツイン・ピークス』で花開く、リンチ特有の夢と現実の境目が曖昧な奇妙な世界を描いている。まるで『ツイン・ピークス』の予兆のような作品だ。
『ブルーベルベット』
Blue Velvet (1986)
Motion Picture Rating:R
監督:デイヴィッド・リンチ
脚本:デイヴィッド・リンチ
製作:フレッド・カルーソ
撮影:フレデリック・エルメス
音楽:アンジェロ・バタラメンティ
編集:ドゥエイン・ダナム
出演:カイル・マクラクラン、イザベラ・ロッセリーニ、デニス・ホッパー、ローラ・ダーン、ディーン・ストックウェル、ホープ・ランゲ、ジョージ・ディッカーソン、プリシラ・ポインター、フランセス・ベイ、ブラッド・ドゥーリフ、ジャック・ナンス
US公開日:1986年9月19日
日本公開日:1987年5月2日
Top Image: Screenshot of Kyle MacLachlan and Laura Dern in Blue Velvet (1986)
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