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“Be afraid. Be very afraid.”

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「怖がりなさい。すごく怖がりなさい。」

1986年に公開されたデイヴィッド・クローネンバーグ監督のホラー映画『ザ・フライ』 The Fly は1980年代で最もダークで悲劇的な映画のひとつだろう。

原作はジョルジュ・ランジュランの短編小説「蝿」で、物質転送装置を研究している科学者が実験中の予期せぬアクシデントによりハエ人間になってしまうというSFホラーだ。1958年にも『ハエ男の恐怖』The Fly としてカート・ニューマン監督で映画化されているが、この時は体の半分が人間で、残りの半分がハエになるという「ハエ男」だったが、二度目の映画化となる本作では人間が徐々にハエと融合して「ハエ男」になっていき、それがクローネンバーグらしいグロテスクで血も凍るような映像で見せられるので、物語の恐怖度が数段階上がっている。

企業の支援を受けて秘密裏にテレポーテーション装置を開発している科学者のセス(ジェフ・ゴールドブラム)は、あるパーティでジャーナリストのロニー(ジーナ・デイヴィス)に出会う。セスはロニーを口説こうと開発中のテレポッドで無機物のテレポート実験を見せ、画期的な発明に驚いたロニーはセスの独占密着取材を始める。取材をするうちに二人は恋に落ち、やがてセスの研究も突破口を得て動物のテレポートに成功するが、実験の成功と酒に酔ったセスはロニーの元恋人への嫉妬も手伝って、勢いで自身でテレポート実験をしてしまう。実験は大成功に終わったように見えたが、実はセスが入ったテレポッドには彼の知らぬ間にハエが一匹紛れ込んでいた。そしてテレポート後のセスの身体に少しずつ異変が起こり始める。

このセリフは、テレポート装置通過後に身体能力が劇的に向上してエネルギーに溢れるセスが、バーで拾った女性にテレポートを強いようとしているところにロニーが現れて言うものだ。

「怖いから嫌」というその女性をセスが「怖がるな」と言いつつテレポッドに引きずり込もうとする。するとその場に現れたロニーが怖がるべきだと二人に警告する。そして、セスの身体に異変が起きていることを告げるのだ。テレポートで何かが起きてしまったのだ、と。

映画のダグラインとしても使われたこのセリフは、この映画をプロデュースしたコメディ界の伝説的人物メル・ブルックスが思いついたという。日本公開時のトレイラーでは「とても、とても、怖がってください」と訳されていたが、この映画を見ようとする人にこれほど最適な警告もない。と言うのも、ここからこの映画のグロテスク度はぐんぐん加速していくからだ。

もしこの映画をまだ見ていなくて、これから見ようとする人は是非、とても、とても、怖がってください。

『ザ・フライ』
The Fly (1986)

監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
脚本:チャールズ・エドワード・ポーグ、デイヴィッド・クローネンバーグ
原作:「蝿」(La Mouche)by ジョルジュ・ランジュラン
製作:スチュアート・コーンフェルド
製作総指揮:メル・ブルックス
撮影:マーク・アーウィン
音楽:ハワード・ショア
出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス、ジョン・ゲッツ、ジョイ・ブーシェル、レスリー・カールソン、ジョージ・チュバロ、デイヴィッド・クローネンバーグ

US公開日:1986年8月15日
日本公開日:1987年1月15日

Top Image: Geena Davis in The Fly © 1986 Brooksfilms

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