「タクシー!」
1980年に公開されたジョン・カサヴェテス監督・脚本映画『グロリア』 Gloria は、ジーナ・ローランズ演じるマフィアの元情婦グロリアがマフィアに追われる少年を連れて逃亡する物語を描いたクライムスリラーだ。
その中で登場するこのありきたりのセリフは、これを起点にドラマが大きく転換する重要なセリフになっている。
ヤンキースタジアムを見下ろすニューヨーク、サウス・ブロンクスのアパートで暮らすグロリア(ローランズ)は、コーヒーを切らしてしまったため同じフロアに住む隣人ジェリ宅にコーヒーを借りに行く。だが、ジェリの一家はマフィアに命を狙われ八方塞がりの状態。マフィアの会計士だったジェリの夫がFBIと通じていたことがばれ、追っ手がそこまで迫っていたのだ。ジェリは偶然玄関先に現れたグロリアに子どもたちを匿ってほしいと懇願する。子供嫌いを公言するグロリアだったが、渋々それを承知して6歳の少年フィルを自分の部屋に連れ戻った途端、マフィアがジェリ一家を襲う。そして今度は逃げたフィルとフィルが父親から託された帳簿、そしてフィルを連れているグロリアを追い始める。
グロリアはフィルの家族を皆殺しにしたマフィアのボスの元情婦。成り行きで預かってしまった隣人の子どものせいで自分まで殺されるのは真平ごめん。なんとかフィルを追い払おうとするが、マフィアの追っ手に見つかってしまう。帳簿だけではなく6歳の子どもまでよこせと要求するマフィアにグロリアはある行動に出る。そしてその後で「タクシー!」と叫んでイエローキャブを拾うのだ。
このセリフと共にビル・コンティの情緒的な音楽が流れ、監督のジョン・カサヴェテスはこれがグロリアのターニングポイントとなったことを見事に描く。
この映画は、アーティスト、ロメア・べアデンの水彩画を使った美しいタイトルクレジットから始まる。そのオープニングを見るだけでこれから始まる映画への期待が高まるが、その期待は決して裏切られることなく、次々と素晴らしい場面が登場する。その中でもタクシーをつかまえるまでのこのシークエンスはローランズの微妙な表情で表現する演技と相まって群を抜く。
脚本を書いたローランズの夫ジョン・カサヴェテスは当初この映画を監督するつもりはなかったそうだが、この役を演じたがったローランズのたっての願いで監督を引き受けることになったという。
これまで二人はインディ映画『フェイシズ』Faces (1968)や『こわれゆく女』A Woman Under the Influence (1974)、『オープニングナイト』Opening Night (1977)などで高い評価を受けてきたが、『グロリア』は商業的にも成功した。
グロリアを演じたジーナ・ローランズは8月14日に亡くなったという訃報を聞いてこの映画をもう一度見直したが、エマニュエル・ウンガロがデザインする衣装を身につけてニューヨークの街を逃げ回るグロリアの姿はやはりとても美しく、力強い。
『グロリア』
Gloria (1980)
監督:ジョン・カサヴェテス
脚本:ジョン・カサヴェテス
製作:サム・ショウ
撮影:フレッド・シュラー
音楽:ビル・コンティ
出演:ジーナ・ローランズ、ジョン・アダムズ、ジュリー・カーメン、バック・ヘンリー
US公開日:1980年10月1日
日本公開日:1981年2月14日
Top Image: Screenshot from Gloria © 1980 Columbia Pictures

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