映画と舞台と海外ドラマ

“Fasten your seat belts, it’s going to be a bumpy night.”

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「シートベルトを締めなさい、荒れた夜になるから」

ジョセフ・L・マンキウィッツ監督・脚本の映画『イヴの総て』 All About Eve (1950)でベティ・デイヴィス演じるベテラン女優のマーゴ・チャニングが言うセリフだ。

『イヴの総て』はニューヨーク、ブロードウェイの演劇界を舞台に、ある新進女優の成功の裏に隠された冷酷な野心と周到な計画、そして嫉妬を描きつつ、ショービジネス業界に潜む女性スターへの年齢差別を浮き彫りにした傑作だ。

ある雨の夜、ブロードウェイの大スター、マーゴ・チャニング(デイヴィス)の楽屋に友人で劇作家の妻のカレン・リチャーズ(セレステ・ホルム)が若い女性を連れてやってくる。カレンが連れてきた地味な女性はマーゴの熱烈なファンで、マーゴが主演する芝居を毎晩観ては憧れのスターの姿を見るためにいつも楽屋口で待っていたイヴ・ハリントン(アン・バクスター)だった。イヴはウィスコンシン州で貧しく育ったこと、第二次世界大戦中に夫を南太平洋で亡くしたこと、サンフランシスコでマーゴの公演を見て夢中になり、ニューヨークまでマーゴを観にきたことを語る。その身の上話にほだされたマーゴはイヴを住み込みのアシスタントとして雇う。だがやがてマーゴは、イヴが熱烈なファンであり有能なアシスタントとして振舞いながらも、その立場を利用して自分の私生活とキャリアに少しずつ干渉し始めていることに気づく。

この名セリフは、イヴの差し出がましさを不快に思い始めたマーゴが、年下の恋人の誕生日パーティの日にイヴへの嫉妬から恋人と口喧嘩になった直後、パーティにやって来たカレン達に自分の不機嫌を警告するために言う。

出典:Rotten Tomatoes MOVIECLIPS オフィシャルYouTubeチャンネル

『イヴの総て』の原作はメアリー・オアの短編小説 “The Wisdom of Eve” で、オアが友人で役者のエリザベート・ベルクナーから聞いた昔の付き人の話を元にしている。これをマンキウィッツが脚色し、複数の人物が回想するという形をとって、一見純真そうなイヴがしたたかな策略をめぐらしてスターダムにのしあがっていく過程を間近で見ていた人物のシニカルな視点から明らかにしていくという巧みな脚本にした。物語の展開が面白いだけでなく、気の利いたセリフや毒のあるセリフも楽しめる。

ベティ・デイビスは、演劇界に君臨する大女優が若くて美しいイヴの存在に脅かされる様子を大スターらしい威圧感と貫禄で演じ、そこに皮肉の効いたユーモアで人間味を加味していて素晴らしい。また、野心的で狡猾な新進女優イヴを演じたアン・バクスターも純真さの陰に隠れる計算高さの表現が絶妙で、批評家のアディソン・ドゥイットを演じたジョージ・サンダースも嫌な男っぷりが巧い。

この名セリフのすぐあとでマリリン・モンローが売り出し中の女優として登場し、モンローの出世作になった作品でもある。

映画は第23回アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞(ジョージ・サンダース)、衣装デザイン賞/白黒(イーディス・ヘッド)、録音賞を受賞した。マンキウィッツは前年の『三人の妻への手紙』A Letter to Three Wives (1949)に続いて監督賞・脚本賞の2部門で連続W受賞の栄誉に輝いた。

『イヴの総て』
All About Eve (1950)

監督・脚本:ジョセフ・L・マンキーウィッツ
原作:”The Wisdom of Eve” by メアリー・オア
製作:ダリル・F・ザナック
撮影:ミルトン・クラスナー
出演:ベティ・デイヴィス、アン・バクスター、セレステ・ホルム、ジョージ・サンダース、ゲイリー・メリル、マリリン・モンロー

Top Image:Bette Davis as Margo Channing, in All About Eve © 20th Century-Fox


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