「君を忘れられたらどんなに良かったか」
2005年に公開されたヒース・レジャーとジェイク・ジレンホール主演映画『ブローク・バックマウンテン』 Brokeback Mountain の中の名セリフだ。
ワイオミング州の牧場で出会ったカウボーイの青年イニスとジャックの親密な関係を20年にわたって丁寧に追ったラブストーリーで、アニー・プルーの同名短編小説を『グリーン・デスティニー』 Crouching Tiger, Hidden Dragon (2000)や『ハルク』Hulk (2003)のアン・リー監督が映画化した。リー監督は『ハルク』の後で引退を考えていたそうだが、引退をとりやめにして手掛けた作品だ。映画は第62回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞、第78回アカデミー賞で監督賞、脚色賞、作曲賞を受賞した。
1963年の夏、イニス(レジャー)とジャック(ジレンホール)はワイオミング州の牧場に季節労働者として雇われる。二人はブロークバック・マウンテンで羊を放牧しながらキャンプ生活をして過ごすうちに惹かれあい、友情がやがて愛情に変わり愛し合うようになる。だが羊の放牧の季節が終わり、二人はそれぞれに故郷に戻ってそれぞれに家庭を持つ。数年後に再開した二人はお互いにまだ愛し合っていることを知り、年に何度かブロークバック・マウンテンで二人だけの時間を過ごすようになる。
ゲイであることを受け入れ、妥協しながら生きるジャックはイニスと二人で暮らすことを望むが、伝統的な価値観の檻から逃れられない無口なイニスにはそれがどうしてもできない。フラストレーションを抱えたジャックがイニスに言うのがこの名セリフだ。
1960年代から80年代の中西部を舞台にした『ブローク・バックマウンテン』は、異性愛が自然だとする宗教的、社会的な価値観と偏見、そしてそこからくる社会の抑圧と差別を背景に同性の恋愛を描いたが、この映画が描いたような偏見や差別は現在でもまだ根深い。
アメリカではこの映画公開の前年の2004年にマサチューセッツ州が合衆国で初めて同性婚を合法化したばかりで、その後37の州とワシントンDCが続くことになるものの、最高裁が同性婚を合法としたのは2015年6月26日のことだ。それでようやく同性愛者のカップルも異性愛者のカップルと同様に法の下での保護を受ける権利が認められることになった。
この映画は第78回アカデミー賞で作品賞にノミネートされ、最有力候補として受賞も予想されていたが、結局ポール・ハギス監督の『クラッシュ』Crash(2004年)に敗れることになった。
だがこの映画が節目となり、クィア映画はメインストリームに進出していく。それまでステレオタイプ的な描かれ方しかなされてこなかったゲイやレズビアンやクィアコミュニティの描き方も改善され始めた。また、2018年には米国議会図書館がこの映画を「文化的、歴史的、または美学的に重要である」作品として米国国立フィルム登録簿(The National Film Registry)に保存することを決定した。
この映画を今一度見直した時、そういったもろもろが全てこの名セリフが登場するシーンに集約されているようにも感じた。
プライド月間にぜひ見たい作品のひとつだ。
『ブロークバック・マウンテン』
Brokeback Mountain (2005)
監督:アン・リー
脚本:ラリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ
原作:『ブロークバック・マウンテン』(Brokeback Mountain) by アニー・プルー
製作:ノーマン・ジュイソン、パトリック・ワトラー
撮影:デイヴィッド・ワトキン
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ジレンホール、ミッシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイ、ランディ・クエイド、リンダ・カーデリーニ、アナ・ファリス、ケイト・マーラ、デイヴィッド・ハーパー
US公開日:2005年12月9日
日本公開日:2006年3月4日
Top Image:Jake Gyllenhaal as Jack Twist in Brokeback Mountain © Focus Features

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