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“Snap out of it!”

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「しっかりしなさい!」

ニコラス・ケイジの顔を2度も激しく平手打ちした後、平手打ちと同じくらいの激しさでシェールが言い放つ有名なこのセリフ。1987年公開のロマンチックコメディ映画『月の輝く夜に』(Moonstruck)の中の名セリフだ。

ニューヨーク、ブルックリンに住む37歳の未亡人ロレッタ(シェール)は、愛しているわけではないがずっと付き合っているボーイフレンドのジョニー(ダニー・アイエロ)からプロポーズされ、それを受ける。ジョニーは瀕死の母親の死に際に立ち会うためにシチリアへ旅立つ直前で、不運を避けるために伝統に則った結婚式を望むロレッタに、自分がシチリアにいる間に疎遠になっている弟のロニーに会って結婚式に来るよう説得してくれと頼む。ロレッタはロニー(ニコラス・ケイジ)が働くパン屋を訪ねるが、ジョニーとロニーの仲違いの理由を知り、ロニーと話しているうちに情熱的に関係を持ってしまう。翌朝、罪悪感にかられたロレッタは、全部なかったことにする、この秘密は棺桶に持って入るとロニーにまくし立てるが、ロニーは「無理だ。君を愛してしまった」と言う。

そこでロレッタのビンタが炸裂するのだ。

出典:Rotten Tomatoes MOVIECLIPS オフィシャルYouTubeチャンネル

愛だの恋だの、そんなふわふわした気分からさっさと抜け出して現実に戻ってこいという一撃。いや、二撃。

アカデミー賞主演女優賞を受賞したシェールの演技のせいか、ショッキングな平手打ちのせいか、この名セリフはファンの間でも大人気となった。

だがこの名セリフの人気のツケはどうやらニコラス・ケイジが払っていたようだ。ケイジは昨年、アメリカのエンターテインメントニュース番組、Entertainment Tonight に出演した際こう話していた

「『月の輝く夜に』の公開以来ずっと、空港に向かって歩いてたりするとみんなやたらと『月の輝く夜に』の『Snap out of it!』を言ってくる。平手打ちを食らったことも何度かある」

彼によると「まあ、それも仕事の一部」らしいが、いきなりファンに引っ叩かれるとは気の毒なことだ。

この映画でオスカーを受賞したのはシェールだけではなく、ロレッタの母親ローズを演じたオリンピア・デュカキスも助演女優賞を、劇作家・演出家としても活躍するジョン・パトリック・シャンリーは脚本賞を受賞した。監督は今年1月に亡くなったノーマン・ジュイソンだ。

ニューヨークに暮らす人生経験豊富な男女たちをウィットに富んだセリフとユーモアで描き、なんとも言えない不思議な、まるで月の輝きのような甘美さを醸し出している映画である。

『月の輝く夜に』
Moonstruck (1987)

監督:ノーマン・ジュイソン
脚本:ジョン・パトリック・シャンリー
製作:ノーマン・ジュイソン、パトリック・ワトラー
撮影:デイヴィッド・ワトキン
出演:シェール、ニコラス・ケイジ、オリンピア・デュカキス、ヴィンセント・ガーディニア、ダニー・アイエロ、ジョン・マホーニー

Top Image:Cher as Loretta Castorini in Moonstruck © MGM

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