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Theater Review: Dead Outlaw『デッド・アウトロー』- Off Broadway

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死んだ無法者の実話をもとにしたAudible Theater初のミュージカル

1976年のことだ。日本でも放映されていたアメリカABCテレビの人気ドラマ『600万ドルの男』(The Six Million Dollar Man)の撮影が南カリフォルニア、ロングビーチにある遊園地で行われることになった。撮影準備のために訪れたクルーがある乗り物の背景に吊るされていたパペットに触ったところ、腕が折れ、その断面から白く光る骨が見えた。パペットだと思っていたものはミイラ化した人間の死体だった。

警察による捜査と検視の結果、このミイラは1911年にオクラホマ州で死んだ無法者エルマー・マッカーディだとわかる。マッカーディは列車強盗を働いた後に警察と銃撃戦になり射殺されていた。だが、65年前にオクラホマで死んだ男の死体がどうして大陸をまたいだカリフォルニアの遊園地で吊るされていたのか?

2月28日から4月14日までグリニッジヴィレッジのAudible Theater at Minetta Lane Theatreで期間限定上演された Dead Outlaw はこの実話に魅せられたデイヴィッド・ヤズベクが作曲家エリック・デラ・ペナと組み、ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』(The Band’s Visit)でコラボした劇作家イタマール・モーゼスと演出家デイヴィッド・クローマーと再結集して創り上げた新作ミュージカルだ。

ミュージカル、と言っても主流な舞台ミュージカルとは少々趣向が異なる。というのも、これはオーディブル社(Audible)が持つオーディブル・シアター(Audible Theater)のために作られた作品だから。

日本のAmazonでも2015年からサービスが始まっているが、オーディブルはAmazon傘下のオーディオ・エンターテインメント提供サービス会社で、主にプロによる本の朗読などのコンテンツを配信している。そのオーディブルが2018年にシアタービジネスに進出し、NYのオフブロードウェイの劇場、ミネッタ・レーン・シアター(Mineta Lane Theatre)と正式に提携、そこで上演されるライブパフォーマンスの録音をサブスクライバーに提供するようになった。これまでにビリー・クルダップの『ハリー・クラーク』(Harry Clarke)やキャリー・マリガンの『ガールズ&ボーイズ』(Girls & Boys)などの演劇の他、コメディショーやパネル・ディスカッションなどがプロデュースされている。

今回の Dead Outlaw はそのオーディブル・シアター初のミュージカル。つまり、このミュージカルは劇場に観にきた人だけでなく、オーディブルのサブスクライバーが聞いても楽しめるように作られている、ということ。トゥルークライムものと呼ばれる実際に起こった犯罪を扱うジャンルはオーディオブックでも人気なので、西部開拓時代の無法者エルマー・マッカーディの生前と死後の数奇な軌跡をたどる作品ほどオーディブル初のミュージカルにふさわしいものもない。

小さな劇場に入ると、舞台の上には木箱を横にしたような建物が乗っている。その中にはどこかのバーの生演奏バンドセットのようにドラムやギターやキーボードが並び、あちこち布や提灯で飾られている。開演時間になってミュージシャンたちが木箱に入ると、そのうちの一人が 「死んだ無法者、エルマー・マッカーディの実話をお話ししましょう。(I wanna tell you the true story of the dead outlaw, Elmer McCurdy.)」と観客に語りかける。

ミュージカルの始まりだ。

Jeb Brown in Dead Outlaw, Photo by Matthew Murphy

このバンドのヴォーカリスト(ジェブ・ブラウン)が歌うナレーターとなり、時にはキャストの一人にもなり、エルマーの生い立ちから無法者としての生前のみじめな失敗の数々と、さらに死後の奇妙な「活躍」まで、時にカントリーロック調、時にブルーグラス調のイカした音楽に乗せてキャストたちとともに歌い、語っていく。

1880年のメイン州に生まれたエルマー・マッカーディ(ミュージカル Shucked のアンドリュー・デュランド)は両親と弟とともに幸せに暮らしていたが、父の突然の死をきっかけに自分が両親の実の子ではなかったと知る。実の母は叔母だと信じていた「父」の妹で、未成年の時に自分を産んだため「両親」が自分をひきとって育ててくれたのだ。だが「父」が死んだため、突然反りの合わない実の母と暮らすことになったマッカーディは世を恨んで呑んだくれる。酔って喧嘩をして警察の世話になる。まっとうな生活を送る機会を手にしてもそれを棒に振る。そして簡単に大金を手に入れようと強盗に手を染める。だが失敗ばかりで、結局警察との銃撃戦で死んでしまう。

ミュージカル半ばにして主人公はあっけなく死んでしまうのだ。

Andrew Durand in Dead Outlaw, Photo by Matthew Murphy

だが、失敗ばかりの無法者マッカーディは死んでからも舞台に居座り続ける。いや、正確に言うと、立ち続ける。棺桶の中で。

マッカーディの死体は葬儀屋に送られ、家族がいつ引き取りに来るかわからないため強力なヒ素で防腐処理され、棺桶に入れたまま見せ物にされる。そして次から次へとやってくる怪しい金儲け主義の人間たちの手に渡り、旅回りの見世物小屋や蝋人形館に展示され、流行作品のパクリ映画に出演させられる。その間、マッカーディは棺桶の中からじっとこちらを凝視する。

この死体を演じるデュランドが素晴らしい。生前のマッカーディを演じるデュランドは、星を見つめながら歌うバラードで「僕はここにいる、ここにいる」と自分の存在を詩的に訴え、虚勢を張って「メイン州で人を殺した」と歌うエネルギッシュな曲ではどうしようもない渇望を表現するのだが、死体を演じる彼は、棺桶の中からじっとこちらを凝視しつつ、身体から水分が抜けてミイラになっていく様子をかすかな動きで見せ、誰かがマッカーディを棺桶ごと移動させるたびに滑稽に、それでいて物悲しげに左右に揺れてなすすべもない死人の詫びしさを表現する。

マッカーディの周りの女性たちの役を一手に引き受けるジュリア・ナイテルも魅力的だ。最初はマッカーディの元恋人マギーとして愛した人が実は知らない人だったという哀愁を歌い、次にはミイラになったマッカーディと出会う少女ミリセントとして、ミイラとの不思議な関係を切なくユーモラスに歌う。

Andrew Durand, Julia Knitel, and Erik Della Penna in Dead Outlaw,
Photo by Matthew Murphy

また、マッカーディのミイラ死体を検死するロサンゼルスの著名な検死官トーマス・ノグチを演じるトム・セスマも際立っている。ピンク色のスポットライトを浴びるセスマが、つまさきに札をつけて自分の検死台に現れた有名人の名前(マリリン・モンローにナタリー・ウッド、シャロン・テイト)を列挙する曲はボビー・ダーリン風のスウィングで、色んな意味でゾクっとするショーストッパーだ。

だがこのミュージカルの肝とも言えるのはナレーターのジェフ・ブラウンと作詞作曲のエリック・デラ・ペナが歌うカントリーロックな曲、 ‘Dead’ だろう。父ちゃん母ちゃんに始まり、エイブラハム・リンカーンから2パック、アンネ・フランクまで、ありとあらゆる人物を「死んでる(dead)」と宣言する歌詞がご機嫌なビートに乗って劇場に轟く。観客はまるでビートに身体を乗っ取られたかのように足で床を踏み鳴らし、手で膝を叩く。だが、ノリノリの曲に大興奮しているうちに「みんな死んでる、お前も死んでる」と宣言され、「そうだ、私たちもみんな死ぬんだ!」と思い知らされるのだ。

Trent Saunders in Dead Outlaw, Photo by Matthew Murphy

ミュージカルの後半、ミイラのマッカーディは、ルート66開通の宣伝のために開催されたロサンゼルスからニューヨークまでの大陸横断マラソンイベントで客寄せのサイドショーの見せ物になる。1928年に84日間かかったこのマラソンで優勝し、賞金を獲得したのはオクラホマ州のチェロキー族、アンディ・ペイン(トレント・サンダース)だった。優勝した彼の元には数々の「うまい話」を持った胡散臭い金儲け主義者たちが群がるが、彼はそれを全て蹴って家族のもとに帰る。

どちらも大金を求めて何かをしようとしたマッカーディとペインの人生の対比は、プロローグとエピローグで繰り返されるビートの効いた ‘Dead’ の「みんな死んでる」という歌詞とともに「生きている間におまえは何を大切にするのか?」と問いかけてくる。

笑いを誘いながらも悲しく、深く心に響く Dead Outlaw の上演は残念ながら終了してしまったが、アメリカでは年内にAudibleからリリースされる予定だ。

An Inside Look at Dead Outlaw

出典:Audible Theater Official YouTubeチャンネル

Dead Outlaw
オフィシャルウェブサイト
上演時間:100分(インターミッション無し)
Audible Theater at Minetta Lane Theatre
上演期間:2024年2月28日〜4月14日

Music & lyrics by David Yazbek & Erik Della Penna
Book by Itamar Moses
Conceived by David Yazbek
Directed by David Cromer
With: Jebb Brown, Eddie Cooper, Andrew Durand, Dashiell Eaves, Julia Knitel, Ken Marks, Trent Saunders, and Thom Sesma

Top Photo: Thom Sesma, Andrew Durand, and Dashiell Eaves in Dead Outlaw
Photo by Matthew Murphy

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