ホリデーシーズンはブロードウェイの掻き入れ時。イルミネーションで溢れるこの時期のニューヨークには、アメリカ国内だけでなく世界中から観光客が押し寄せ、ブロードウェイで観劇する人の数もぐっと増える。
だが実は、ブロードウェイでは毎年このホリデーシーズンの賑わいの後でクローズしてしまう作品が多いのだ。その中にはもともと期間限定公演でホリデーシーズン後に終演を予定していた作品もあるが、今年のトニー賞でリバイバル・ミュージカル部門やストレートプレイ部門の作品賞を受賞したばかりの作品もある。
さあ、『Hamilton』の転売チケットを物色しているそこのあなた! この時期に『Hamilton』を見るのは到底無理だと諦めて、もうすぐクローズしてしまう他の素晴らしい作品に鞍替えしてはいかがかな?
2016年12月31日まで
Fiddler on the Roof
『屋根の上のバイオリン弾き』

日本でも森繁久彌や西田敏行が長年主役を演じてきたことでも有名な1964年初演のクラッシック・ミュージカルだ。
舞台は19世紀末ウクライナの小さな村。帝政ロシア領になった村で牛乳屋を営むユダヤ人テヴィエとその妻、そして5人の娘たちを取り巻くおなじみの物語を、文字どおり現代人の目から見つめた斬新なプロダクション。
「Tradition!」や「If I Were A Rich Man」「To Life」「Sunrise, Sunset」などなど名曲だらけのミュージカルで、ダンスもたっぷり。
主役テヴィエを演じるダニー・バーンスタインはこの役で今年のトニー賞にノミネートされた。絶賛された彼のパフォーマンスを見るチャンスはあとわずか!
2017年1月1日まで
Matilda the Musical

ロアルド・ダールの児童文学『マチルダは小さな大天才』を基にした英国発の大ヒットミュージカルがとうとう終演を迎えることになった。ブロードウェイでは2013年から上演されていた作品だ。
両親から愛情を注がれることなく育ったマチルダが小学校に通い始める。だがその学校は、子どもたちに不当な罰を与える封建的な校長が牛耳っていた。正義感の強いマチルダはそんな校長と戦って校長の不正を暴いていく。
児童文学を基にしているから子ども向けの作品だとタカをくくってはいけない。オリヴィエ賞やトニー賞に輝いたこのミュージカルは、ダールの奇妙で残酷でちょっぴり暗い世界をしっかり残したまま、夢が広がる明るい舞台に仕上げられている。
何より、マチルダと同年齢の子ども達が繰り広げるプロフェッショナルなパフォーマンスは圧巻だ。
Something Rotten!

舞台は1595年の英国。ボトム兄弟は演劇界での成功を目指しているが、世間の人気を独り占めにするのはシェイクスピアだった。なんとか成功を手にしたい兄のニックは、演劇界の次の大ヒットが何になるのか予言者に尋ねる。そして未来ではミュージカルが大流行りだと聞き、ミュージカルを作ろうとするが…。
2015年のトニー賞にノミネートされた Something Rotten! は、シェイクスピア作品やミュージカルの名作のパロディとシアターへの愛に溢れた歌とダンスもたっぷりのブロードウェイらしいコメディミュージカルだ。
予言者が未来の流行を予言する歌、「A Musical」はショーストッパーで必見。
2017年1月8日まで
The Color Purple

アリス・ウォーカーのピューリツァー賞受賞小説『カラー・パープル』はスティーヴン・スピルバーグがウーピー・ゴールドバーグ主演で1985年に映画化したことでも知られるが、こちらは2006年に舞台ミュージカル化されたにした作品のリバイバルだ。今年のトニー賞ではミュージカル部門のリバイバル作品賞と主演女優賞(シンシア・エリヴォ)を受賞した。
父や夫から虐待を受け、男性優位主義に虐げられてきた主人公のセリーが、自由で意思の強いソフィアや、美貌の歌手シャグ・エイヴリーに出会って大きく変わっていく様を描いている。人種差別や女性差別、レイプや家族離散など、暗く重いテーマを扱いながらも、自立し、自信を取り戻すことの喜びを描いた、気分が高揚するミュージカルだ。
特に、主役セリーを演じるシンシア・エリヴォのパフォーマンスは絶品中の絶品。自分が取るに足らない存在だと思っていたセリーが自分への深い愛に気づいて歌う「I’m Here」は、聞くと鳥肌が立ち、胸の奥底から喜びが湧き上がってくるはずだ。
The Encounter

1969年、ナショナル・ジオグラフィックスのフォトジャーナリスト、ローレン・マッキンタイヤーがブラジルのアマゾンの奥で迷ってしまう。その時アマゾンでのショッキングな遭遇が彼のその後の人生を変える。
鬼才サイモン・マクバーニーが実話をもとに作り上げた一人芝居は、芝居という枠を超えた全く新しい作品だ。
観客が席に着くとヘッドホンをつけるよう指示される。舞台上にあるのは、机と椅子、そして高感度マイクなどの最先端技術を駆使した聴覚システム。そのシステムを使って語りの天才マクバーニーが物語を語り始めるのだ。すると観客は、あっという間にブラジルの密林の奥に放り込まれ、アマゾンに降る雨に包まれてしまう。
観客の聴覚と想像力を刺激して観客をアマゾンやロンドンの自宅に誘うこれまでにない作品だ。
この日でクローズするその他の作品
Falsettos
Les Liaisons Dangereuses (危険な関係)
2017年1月15日まで
The Humans

今年のトニー賞の演劇部門で作品賞、助演男優賞、助演女優賞、舞台装置賞の4冠に輝き、ピューリッツァー賞のファイナリストにもなったステファン・カラムの芝居。
サンクスギビングの夜、マンハッタンのチャイナタウンにあるおんぼろアパートに集まったブレイク家の団欒を描きながら、アメリカの中産階級が直面している問題に静かに迫ったドラマだ。最高におかしく、それでいて痛々しいほどに悲しく、ごく普通の人々が抱える苦悩を描いて観るものの心を動かす。
役者、演出、セット、照明の全てが完璧に調和し、まるで自分もそのアパートの中にいるような気にさせるリアルな作品だ。
この日でクローズするその他の作品
Jersey Boys
Holiday Inn
Featured Photo: “The Color Purple” Photos by Matthew Murphy
All Other Photos by Joan Marcus

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