Theater Review: The Addams Family 『ジ・アダムズ・ファミリー』

恐るべし! ブロードウェイの大スター、ネイサン・レインの妙技!

開演前のざわつく劇場に、テレビでおなじみのあのテーマソングが流れ出す。

「ダラララン!」

すると、待ってましたとばかりに大喜びの観客達が手を叩く。

「パチン! パチン!」

本式に指を鳴らす者もいれば、音楽に合わせて歌詞を口ずさむ者もいる。観客がこの風変わりな一家を愛していることは、どうやら間違いが無いらしい。

1938年に雑誌The New Yorkerに初めて登場したアダムス・ファミリーは、チャールズ・アダムスが創り出した一コマ漫画のキャラクター達だ。理想のアメリカンファミリーを皮肉るように描かれた一家は、お化け屋敷のようなインテリア(たぶん)の邸宅にすむ大金持ちで、家族愛に満ち、死に関することが大好きという風変わりな趣味を持つ、少々不気味でブラックユーモアに富んだゴス一家。

雑誌での連載は、作者のチャールズ・アダムスが1988年に亡くなるまで、実に半世紀以上も続いた。1960年代にはテレビのシットコムになり、それまで名前のなかったキャラクター達にこの時初めて名前が付けられ、その後何度もテレビシリーズ化されてアニメや映画も作られたまさにアメリカでは国民的人気の一家。日本で例えるならば、さしずめ世田谷区にお住まいのサザエさん一家、といったところだろうか?

実際、サザエさん一家はアダムス・ファミリーと良く似ている。磯野家は三世代住める庭付き平屋建て一軒屋を桜新町に所有するほどの金持ちだし、家庭内には愛があふれている。また、一家そろって寿司ネタのような名前をしているくせに違和感を持っている様子が全く無く、誰もサザエさんに「その髪型、ヘンだよ」と言ってやらないところから判断すると、家族で風変わりな趣味を共有していることも間違いが無い。

そのアメリカのサザエさん一家ことアダムス・ファミリーが、今度はミュージカルになってブロードウェイに現れた。

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Adam Riegler, Jackie Hoffman, Bebe Neuwirth, Nathan Lane, Kevin Chamberlin, Krysta Rodriguez and Zachary James

劇場の観客が手を叩き、指を鳴らして歓迎したテレビシリーズのテーマソングが序曲に変わると、幕がするすると上がって舞台上に墓場の門が登場する。その門が開き、舞台の奥から観客お待ちかねのアダムス・ファミリーの面々がズ、ズ、ズイ~とご登場あそばす。

往年のマフィアが好んで着そうな縞のスーツを着た一家の主ゴメスと、襟ぐりが「ベネズエラまで届きそう」なくらい開いた細身のドレスを身にまとったその妻モーティシア。演じているのはブロードウェイの大スター、ネイサン・レインとビビ・ニューワースだ。

二人の脇にはシェイクスピアが肖像画で着てそうな上着を着た娘ウェンズデーと、シマシマTシャツに半ズボン姿の息子パグズリー、そしてハゲでくぼんだ目の影も色濃いフェスターおじさんに、魔女っぽい風体のグランマ、フランケンシュタインのようなルックスの執事ラーチというおなじみの面々。

どいつもこいつも、まるでチャールズ・アダムスの漫画から抜け出して来たようないでたちで、文字通り墓場から抜け出して来たご先祖様と一緒に「アダムス一家の一員は、規格なんかにゃ当てはまらん!」と歌って踊ってくれる。

ところが、オープニングナンバーではっきりこう宣言する規格外の一家が見せるミュージカルは、感心するほど規格どおりだった。

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Nathan Lane and Krysta Rodriguez

まずは物語。

フツーじゃない家庭に育ったお年頃の女の子が、フツーの家庭で育った男の子と恋に落ち、自分の家族を男の子とその両親に会わせるのに気をもんで色々小細工をするが、結局一悶着起こってしまう。でも、結局フツーだと思っていた男の子の家庭も色々と問題があることが判明し、フツーじゃない自分の家庭には案外愛があふれていてイケてることがわかり、そのフツーじゃない家族のおかげで全ての問題が八方丸く収まりました、というもの。

そうなのだ。規格どおりどころか、すぐ近くの劇場でリバイバル上演中のミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』(La Cage aux Folles)の粗筋と瓜二つのお話だ。

違いと言えば、あちらのフツーじゃない家族はドラッグクイーン・クラブを経営するゲイカップル一家で、こちらのフツーじゃない家族は死が大好きのゴス一家ということ。そして、あちらのピンチを助けるのがゲイクラブと女装なら、こちらの問題解決に役立つのはゴス一家が飼っているペットの巨大イカだということだろう。

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Bebe Neuwirth

また、主役やら準主役やらの番付に従ってキャストに与えられたかのように見える見せ場も、型にはめて作った規格通りのもののような印象を与える。まるで、「ブロードウェイミュージカルの作り方」ってな業界マル秘本があって、そこに載っている「主役男女のソロ各々1曲5分以内、デュエット3曲。脇役ソロ各々1曲3分以内、デュエット無し」といった「作り方」に従って見せ場を用意したように見えるのだ。

そのせいか、既存のプロットをほぼそっくりそのまま頂戴しているくせに、お話の流れがちと悪い。シーンとシーンのつながりが悪い。せっかく、震える声と高々と上がるあんよが魅力の、歌ってかなり踊れるブロードウェイの大スター、ビビ・ニューワースが歌ってかなり踊ってくれるというのに、そのダンスシーンもとってつけたように見える。

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Nathan Lane

しかし、そこに登場するのがネイサン・レイン。

その血潮には「コメディセンス」が流れ、DNAの二重らせん構造には「絶妙のタイミング」がしっかりと組み込まれた、歌ってちょっとだけ踊れるブロードウェイの大スターである。もちろん、舞台だけでなく、テレビや映画でも活躍している。

その彼が舞台に登場するや、芝居の流れの悪さやプロットのバカらしさに全く目が行かなくなる。彼の一挙一動、台詞のひとつひとつに全神経がすっと集中してしまうのだ。

そうして、観客の心をがっちりつかんだネイサン・レインは、まるで長良川の鵜飼いのように、観客の首に巻き付けた見えない縄を自由自在に操っては、鮎ではなく、笑いをくいっと引っ張り出してみせるのである。

その技術たるや、名人芸。知らない間にネイサン・レインの鵜となってしまった観客達は、操られるままに、飽きること無く、そして疲れること無く、のどから笑いを吐き出す。

恐るべし!
鵜匠ネイサン・レインの妙技!

注:ネイサン・レインがゴメスを演じるのは2011年3月6日まで。3月22日からは80年台の人気テレビシリーズ『チアーズ』でビビ・ニューワースとも共演したロジャー・リースがその後を継ぐ予定。

Photos by Joan Marcus

The Addams Family
Lunt-Fontanne Theatre
205 West 46th St. (Bet. Broadway & 8th Avenue)
オフィシャルサイト
プレビュー開始:2010年3月4日
オープン:2010月4月8日
クローズ:2011年12月31日 (2016年6月24日情報更新)

Credit: Book by Marshall Brickman and Rick Elice, Music and Lyrics by Andrew Lippa, Based on cartoons by Charles Addams, Direction and Design by Phelim McDermott and Julian Crouch, Choreography by Sergio Trujillo
Cast: Nathan Lane, Bebe Neuwirth, Jackie Hoffman, Zachary James, Krysta Rodriguez Kevin Chamberlin, and Adam Ziegler

*NY Niche 20年月号に掲載記事を加筆修正

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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