まず結末を見せて見るものを誘い込む、見始めたらやめられない、危険なリーガルサスペンスドラマ
マンハッタンの高級マンションビルから、下着にトレンチコートを羽織っただけの血まみれの女性がふらふらと路上に現れる。
そんな衝撃的なシーンから始まるのが、2007年にFXで始まったリーガルサスペンスドラマシリーズ『Damages』だ。

警察に保護された彼女の持ち物は弁護士の名刺だけ。いったいこの女性はどうして血まみれなのか? そして、あれは誰の血なのか?
見ているこちらが警察と同じ疑問を抱いていると、時間は突然6ヶ月前に遡る。そして、冒頭に見せられた血まみれの女性が、弁護士のエレン・パーソンズ(ローズ・バーン)だとわかる。
ロースクールを卒業したばかりのエレンは、名声ある一流法律事務所から声をかけられるなか、悪名高い敏腕弁護士パティ・ヒューズ(グレン・クローズ)が率いる法律事務所「ヒューズ・アンド・アソシエイツ」で働くことを選ぶ。
そこでエレンが担当することになったのは、叩き上げの大富豪アーサー・フロビシャー(テッド・ダンソン)を相手取った大規模な集団訴訟。フロビシャーは、会社の経営悪化を隠して自社株を売却し、社員の年金資金を失わせたとして、元従業員たちから訴えられていた。
パティは勝つためには手段を選ばず、合法か違法か、倫理的か否かは二の次の、とてつもなく傲慢な策略家だ。
そんなパティのやり方に戸惑いながらも、エレンは次第に事件の深みに引きずり込まれていく。

『Damages』では、物語の時間軸が過去から未来へまっすぐ進まない。最初に「現在」を見見せられ、6ヶ月前からの出来事を追いながら、そこに現在の断片が挟み込まれていく。視聴者は、過去と現在を行ったり来たりしながら、過去が現在に追いついていくのを見ていくことになるのだ。
1話目のラストで、エレンについていた血が誰のものなのかがわかるのだが、そこへ至る道筋が気になっているところへ、今度はその「現在」がそこからどうなっていくのかも気になって仕方なくなる。
そして、エピソードを重ねるごとに、キャラクターそれぞれの過去や思惑が少しずつ明らかになっていく。最初は何気なく見ていた台詞や表情が、あとになってまったく違う意味を持って見えてくる。いやはや、このキャラクターの描き方はまさに連続テレビドラマを見る醍醐味と言える。
そんなキャラクターたちに命を吹き込むのが、脚本に負けず劣らず素晴らしい役者陣だ。

まず、圧倒的な存在感で画面を制するのはグレン・クローズ。画面に出てくるだけで、こちらまで背筋を伸ばしてしまうような威圧感がある。クローズは、そんなパティを実に楽しそうに、そして恐ろしく演じている。
一方、新人弁護士エレンを演じるローズ・バーンもフレッシュだ。
パティのような百戦錬磨の弁護士とは違い、エレンはまだこの世界の仕組みを知らない。何が起きているのかわからないままパティの世界に引きずり込まれていくエレンは、視聴者の目線そのもので、物語を追っていくうちに、視聴者もエレンと一緒になってこの世界に入り込んでいってしまう。

そして、アーサー・フロビシャーを演じるのはテッド・ダンソン。TVの人気シットコム『チアーズ』(Cheers)で知られるダンソンは、フロビシャーという男に人間味と個性を加味し、単なる「悪徳大富豪」ではない妙に生々しい男にしている。
しかし、何よりもわたしのお気に入りはフロビシャーの弁護士、レイ・フィスクを演じるジェリコ・イヴァネクだ。この役で2008年のエミー賞を受賞したイヴァネクはブロードウェイの舞台でも常連。我が家では勝手に「ジェリコ」とファーストネームで呼び捨てにされるくらい愛されている俳優だが、その滲み出る暗さとねっとり感で特に目が離せない存在だ。
陰気で、何かをこっそりと企んでいそう。まるで納豆のように糸を引きそうで、どこまでもねっとりしている。まさに納豆弁護士である。
こういう役をやらせたら、イヴァネクは実に素晴らしい。

Photo credit: Larry Riley / FX.
さて、そんな『Damages』を見始めたわたしに、困ったことが起こった。
『Damages』は一話見れば見るほど、次が気になるドラマ。これから何が起こるかわかっているのに、そこに至るまでに何が起きるのかが気になって、もう一話、もう一話とつい見てしまう危険性がある。
ところが、である。
エンタメ業界に勤める友人に勧められてこのドラマを見始めた私は、その友人から借りた業界のPR用DVDには4話しか収録されていないことに気づいた。
4話一気見した時点で時計を見ると、すでに丑三つ時。店はとっくに閉まっている。
見たいのに続きが見られない!
仕方がないので、その夜は悶々としながら眠りについた。
そして次の日。
知人の招待で出席したある授賞式で、なんとグレン・クローズの姿を見つける。
「おおっ! パティがいる!」
クローズは、その授賞式にプレゼンターとして出席していたのだ。これはもう運命としか言いようがない。
授賞式が終わると、私はおずおずと彼女に近づき、握手を求めた。そして昨夜『Damages』を見て、その演技に圧倒されたことを伝えた。
思いがけずパティと握手できた私は、パティの手の温もりも冷めないうちに、すぐさまその足でタイムズスクエアのヴァージン・メガストアへと走る。
そして、シーズン1全話入りのDVDボックスをひっつかみ、会計を済ませて家路を急ぐ。部屋に到着するや否やドレスを脱ぎ捨て、その夜もまた朝までノンストップで『Damages』を見続けたのである。
見始めたらやめられない、止まらない。
そう、『Damages』はまるで『かっぱえびせん』なTVドラマなのだ。
Top Image: ©︎ FX Networks
Damages Season 1
FX
Rating: TV-MA
シーズンプレミア:2007年7月24日
シーズンフィナーレ:2007年10月23日
シーズン1 全13話
Created by Todd Kessler, Glenn Kessler, and Daniel Zelman
Cast: Glenn Close, Rose Byrne, Ted Danson, Željko Ivanek, Tate Donovan, Noah Bean, Philip Bosco, Tom Aldredge, Anastasia Griffith

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