Theater Review: The Little Mermaid 『ザ・リトル・マーメイド』

甘いか? グロいか? ディズニーのミュージカル『リトル・マーメイド』

1989年に公開されたアニメーション映画『リトル・マーメイド』を観ていないわたしは、ディズニーがアンデルセンの『人魚姫』をどんな風に味付けしたのか全く知らなかった。

おそらく甘ったるいお話になっているのだろうと思っていたら、さすがディズニー、期待を裏切らず、実らぬ恋の悲哀も、永遠の魂の存在うんぬんも、全てを木っ端みじんに吹っ飛ばして、アンデルセンの名作をパステルカラーの合成甘味料でお見事にベタベタにして見せてくださった。

ディズニーもののエンディングにネタバレもヘチマも無いので言ってしまうが、もちろんお約束のハッピーエンドだ。

土左衛門になりかけたイケメン王子に一目惚れした人魚姫アリエル(ソプラノが美しいシエラ・ボーゲス)は、悪者のイカ女(タコ女かも?)アースラ(才能あふれるシェリー・レネ・スコット)に半分騙され、 美声と引き換えに2本の形の良いあんよをもらう。しかし、3日という期限内に王子からキスしてもらえなかったため、アースラに約束の魂を奪われそうになる。

でも、伊達にイケメンしてるワケではない王子エリックが、皆の助けを借りてアースラを「ヤーッ」と退治し、アリエルは海の王の父トリトンの力で人間になって、めでたしめでたしで王子と結婚するのである。

妹の命を助けるために美しい髪と引き換えに短剣を手に入れる姉達も無ければ、愛する王子を殺すよりも海の泡となることを選ぶ人魚姫も無し。残るは、カリプソのリズムに乗って二人の結婚を陽気に祝福する人々と魚々のみ。

その中には王子が早く身を固めて一人前に国を統治することを望んでいた、従って世継ぎを期待している王子の召使いの姿も有る。アリエルが、海の底の国ではあるものの、一応ロイヤルファミリーの出身であると知って安心した召使いは、王子の嫁となる女の下半身が3日前までは魚で、果たして人間仕様の生殖器官がついているのかどうか心配している気配もない。この召使いには宮内庁に研修に行くことをおすすめする。

まあ、赤ん坊は全てコウノトリが運んで来るディズニーの世界、セックスも存在しないのだろうから仕方がない。だが、クリスマスプレゼントに「リトル・マーメイド」のDVDをもらって喜び、来年のハロウィーンにアリエルの扮装をするのだと張り切る10歳の少女ではないわたしにとってはなんともバカらしく、劇場内のバーで一杯引っ掛けたくてたまらなくなるお話である。

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ショウ自体には、踵にローラーがついたスニーカー、ヒーリーでもってまるで海の中をスイスイ泳いでいるように見せるアイデアや、動くたびにぷりぷり揺れるワイヤー製の人魚の尻尾など、なかなかどうして秀逸で楽しめる要素がある。

アラン・メンケン(Alan Menken)のポップでジャマイカンな音楽にも身体が弾む。

しかし、それ以外はどうもいただけない。
やはり衣裳がまずいのか?

同じディズニーのミュージカル『ライオン・キング』(The Lion King)ではどれがどの動物か判別するのに苦労などせず、むしろその美しさに心を奪われるのに、『リトル・マー メイド』ではいったい誰がどの海の生き物を演じているのか判別するのがかなり難しく、わたしなど、セバスチャンが途中までタコだと信じていたくらいだ。 ショウも半ばを過ぎてようやく帽子にハサミがついていることに気づき、「なんだ、エビだったのか!」と思ったが、後で聞いたら実はどうやらカニだと言うではないか。

誰かが舞台に登場するたびに、「こいつは何だ?」と当て推量に忙しくなる衣装というのは、いかがなものか?

わたしが幼少のみぎりに出演した小学校の学芸会では、自分が演じる動物や魚の絵を描いた紙の冠を被り、例え体操服を着ていても「わたしはカニです」とストレートに表現できたものだが、『リトル・マーメイド』でもいっそそうすりゃ良かったのではないか?

しかし、このショウで衣裳よりもまずいのはアリエルの残酷さである。いや、その残酷さはまずいどころでは済まされず、むしろグロいと言っても良い。

美声と引き換えに人間の足を手に入れたアリエルが、かつて一緒に戯れた友達の魚達が城のキッチンで死体となって並んでいるのを見る。しかしアリエルは、最初こそ驚きはしても、案外ケロッとしているのだ。

愛する王子が友達の遺体を食べると知っても、城から逃げ出すでもなく、卒倒するでもなく、ゲロを吐くでもない。当初の目的どおり、王子の真実の愛の証であるキスを得ようと頑張るのである

しかし、ちょっと待ってくれたまえ。愛する人が自分の友達を食べていたと知ったら、普通愛は冷めるもんじゃなかろうか? 自分もいつか喰われちまうかもしれないから、やっぱり結婚したく無いと思うもんじゃなかろうか? 少なくとも、その口ではキスされたく無いと思うもんじゃなかろうか?

いや、それでも愛し続けるのが本当の愛とディズニーは言いたいのだろうか?

そこんところが気になって仕方なくなるのである。

 

注:シェリー・レネ・スコットは4月オープン予定のオフ・ブロードウェイのショウ、”Everyday Rapture”に出演するため、現在「リトル・マーメイド」には出演していない。代わりにイカ女(タコ女?)のアースラを演じるのは『[タイトル・オブ・ショウ]』([title of show])のハイジ・ブリッケンスタッフ(Heidi Blickenstaff)。

 

Photo by Joan Marcus

The Little Mermaid
Lunt-Fontanne Theatre
205 W 46th Street (Between Broadway & 8th Ave.)
オフィシャルサイト

プレビュー開始:2007年11月3日
オープン:2008年1月10日
クローズ:2009年8月30日
上演時間:2時間20分(インターミッションを含む)

Production Credit: Music by Alan Menken; lyrics by Howard Ashman and Glenn Slater; book by Doug Wright, based on the Hans Christian Andersen story and the Disney film; directed by Francesca Zambello; choreography by Stephen Mear; musical direction, incidental music and vocal arrangements by Michael Kosarin; orchestrations by Danny Troob; sets by George Tsypin; costumes by Tatiana Noginova; lighting by Natasha Katz
Cast: Sierra Boggess (Ariel); Sean Palmer (Prince Eric); Sherie Rene Scott (Ursula); Norm Lewis (King Triton); Tituss Burgess (Sebastian); Eddie Korbich (Scuttle); Jonathan Freeman (Grimsby); Derrick Baskin (Jetsam); Tyler Maynard (Flotsam); and Trevor Braun, Brian d’Addario, Cody Hanford and J. J. Singleton (Flounder)

*NY Niche 2009年3月号掲載記事を一部改定の上転載

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About Sooim Kim

映画館や劇場内、テレビの前に生息する夜行性ヒト科のメス。知能はチンパンジーよりやや高い。どう猛で群れを作らず、映画、演劇、TV番組等、面白いものを求めてさまよう性質がある。前方に突き出た口から毒性の批評を吐き、時折好んだキャラクターに変身する。機嫌が良いと映画などのワンシーンを再現することが確認されている。

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