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Capote『カポーティ』|Film Review

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Philip Seymour Hoffman in Capote

トルーマン・カポーティの『冷血』(In Cold Blood)を初めて読んだとき、脳天を一発ガツンとなぐられたような気がした。

あまりにも強烈で、読み始めたら止められず、読み終わった後は頭にも胸にも何か重いものがズンとのしかかっているような気がした。

読み終わってから数週間たってもこの本のことが忘れられず、気がついたら『冷血』のことばかり考えていた。

しばらくは他の本を読む気にならず、映画やテレビを見たいとも思わなかったほど、心をがしっと鷲づかみにされたのだ。

そんな経験があったせいか、映画『Capote』が2005年9月30日のカポーティの誕生日にNYで公開されると聞いたときには、早く見たくてたまらなくなった。しかも、わたしが勝手に「怪優」と呼んでいるフィリップ・シーモア・ホフマンが主演というんだからなおさらだ。

この映画は、カポーティが『冷血』を書き上げるまでの数年間を描いているのだが、『冷血』は、1959年にカンザス州ホルコムで起こった一家4人の惨殺事件を題材にしたカポーティの代表作だ。

カポーティはこの事件のことを知ると、犯人が捕まるよりも前にカンザスへ行って取材を始める。そして、実際に起こった事件を小説家である自分の目を通して描いたら、新聞記事とは違う、まるで小説を読むような作品が書けるのではないか、と考えた。そして出来上がったのが『冷血』なのだ。

『冷血』は、今でいう「true crime」、つまり実際に起こった犯罪を扱った読み物の先駆けとも言われている。事件を取材して事実を書いていくのだが、読み物としてはまるで小説のようで、読者はぐいぐいと引き込まれていく。カポーティ本人はこれを「ノンフィクション・ノヴェル」と呼んでいたそうだ。

でも、もちろんこれは小説ではなく、そこには実際に殺された人たちがいて、実際に殺した殺人犯がいる。

このへんが『冷血』のなんともすごいところなのである。

面白いことに、実はこの映画は、その『冷血』そのものを映画にしたわけではない。

1988年に出版されたジェラルド・クラークの同名の伝記本をもとにして、カポーティが『冷血』を書き始めてから、それを完成させるまでの時期に焦点を絞っている。つまり、殺人事件そのものよりも、その事件を「本」にしようとしたカポーティのほうを描いている。

『冷血』をすでに読んでいる人には、事件がどうなったのかはもちろんわかっている。それなのに、「カポーティはいったいどうやって、この本を書き上げるんだろう?」と、別の意味でハラハラさせられてしまうのだ。

特に生々しいのが、犯人の一人、ペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr.)との関係だ。

Clifton Collins Jr. in Capote
Clifton Collins Jr. in Capote

カポーティは2人の殺人犯のうち、繊細なペリーに惹かれていく。ペリーの生い立ちや孤独に共感して、彼のことを理解しようとする。ところが、映画を見ているこちらは、カポーティがペリーに近づいているのは、人間として彼に惹かれているからなのか、それとも本を書くために必要だからなのか、だんだんわからなくなってくるのだ。それがわからなくなるので、なんとも嫌な気持ちになる。

ホフマンは、こちらをそんな嫌な気持ちにさせるカポーティを絶妙に演じていて素晴らしい。

Catherine Keener and Philip Seymour Hoffman in Capote
Catherine Keener and Philip Seymour Hoffman in Capote

実はこの映画を観終わった後、同じビルに住むご近所さんと立ち話をしていて、彼が生前のカポーティ本人を知っていたということがわかった。彼によると、映画の中のホフマンはカポーティ本人とかなりそっくりらしい。ホフマンの仕草がカポーティそのもので、しかも、カポーティはとても小柄な男性だったのに、体格の良い(というか結構でかい)ホフマンが、カポーティらしく小さく見えて、違和感が全くなかったのだそうな。

ホフマンがこの映画のために体重を18キロ落としたとは聞いていたが、その上、演技力でさらに小さく見せたということなのだろうか? もしそうならば、ホフマンが「演技力だけで5キロ痩せて見える!」ってな新しいダイエット&演技のハウツー本を書けば、きっと世界中でベストセラーになるだろう。

Philip Seymour Hoffman and Catherine Keener in Capote
Philip Seymour Hoffman and Catherine Keener in Capote

また、カポーティの幼なじみであり、『アラバマ物語』(To Kill a Mockingbird)の作者でもあるハーパー・リーの役をキャスリーン・キーナーが演じていて、彼女もとても良い。

カポーティの派手なキャラクターに対して、キーナー演じるハーパー・リーはとても穏やかで、包み込むような温かさがある。

この2人の組み合わせがまたいいのである。

また、事件が起こった地元警察の担当捜査官を演じるクリス・クーパーも渋い。クーパーはコメディアンの小松政夫とよく似ているので、我が家では密かに「小松の親分さん」と呼んでいるのだが、当初はカポーティのことをまともに取り合わなかったのに、カポーティのファンである妻に説得されてしまうところがキュートなのだ。

Chris Cooper in Capote
Chris Cooper in Capote

そして、この伝記をもとにして映画の脚本を書いたのが、俳優でもあるダン・ファターマン。

ファターマンの名前を聞いてもピンと来ない人でも、映画『バードケージ』(The Birdcage)でロビン・ウィリアムズ演じるショークラブ・オーナーの息子役をしていた俳優と聞けば、うすぼんやりと顔を思い出す人もいるのではないだろうか。

余談だが、このダン・ファターマンと『カポーティ』の監督ベネット・ミラーとは、実は12歳の頃からの友達らしい。

二人は、16歳の頃にホフマンに出会い、以来、3人は20年以上もずっと友達なんだそうだ。

先日、わたしがよく見るCBSのテレビショウ、”Late Show with David Letterman“に出演したホフマンは、昔「もしも将来オスカーを受賞したら……」ってな会話をした時のことを話していた。なんでも、昔、仲良し3人組と別の友人が酔っ払った勢いで、オスカーの受賞スピーチをすることになったら必ずあることをする、という固い約束をしたんだそうな。

それはなんと、引っ込まされるまで「わんわん!」と吠え続けるというもの。

この映画では、仲良し3人組のそれぞれが違う部門でノミネートされていて、つい先ごろ、昔のその約束を改めて確認させられたらしい。

わたしの予想では、ホフマンはまず間違いなく壇上で犬吠えパフォーマンスをやる羽目になる。今年のオスカー授賞式を見る楽しみが増えた。

Capote 『カポーティ』
MPAA Rating: R
上映時間:114分
監督:ベネット・ミラー
製作:キャロライン・バロン、マイケル・オホーヴェン、ウィリアム・ヴィンス
脚本:ダン・ファターマン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・キーナー、クリフトン・コリンズ・Jr、マーク・ペルグリノ、クリス・クーパー、ブルース・グリーンウッド、ボブ・バラバン、エイミー・ライアン、アダム・キンメル
撮影:アダム・キンメル
編集:クリストファー・テレフセン
US公開日:2005年9月30日
日本公開日:2006年9月30日

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